第10話(第1章・完):世界一美しいプロポーズ。王太子殿下は指輪の代わりに『誓約書』を差し出し、こう言いました。「俺の『老化』を、君が生涯かけて止めてくれ」
『終焉の黒竜』を(スキンケアで)手懐けた数日後。
王城の大広間にて、国の勝利を祝う盛大な祝賀会が開かれていた。
会場の隅には、小さくなってプルプルしている黒竜(※ペット化)。
そして中央には、ドレスアップした私とクラウス殿下がいた。
「エリザ。……今日は、君にどうしても伝えたいことがある」
殿下の表情は真剣だった。
いつもの爽やかなハイテンションではない。
緊張で少し、交感神経が優位になっているようだ。
(あら、脈拍が少し早いわね。深呼吸した方がいいわ)
音楽が止まる。
殿下は私の手を取り、衆人環視の中でゆっくりと跪いた。
「キャァァァァッ!」
令嬢たちの悲鳴にも似た歓声が上がる。
プロポーズだ。誰がどう見ても、王道のプロポーズの流れだ。
通常なら、「愛している、結婚してくれ」だろう。
あるいは、「一生大事にする」だろう。
だが、私の目の前にいるのは、あのクラウス殿下だ。
彼は懐から、宝石箱ではなく、**一枚の羊皮紙(契約書)**を取り出した。
「……え?」
「エリザ。俺は、君以外の人間が、俺の肌に触れることを生理的に受け付けない体になってしまった」
殿下は羊皮紙を広げた。
そこには、魔法文字でびっしりと条文が書かれている。
「俺は、君の『愛』が欲しいだけではない。
俺は……君の『管理』が欲しいのだ」
「管理……ですか?」
殿下は熱っぽい瞳で私を見上げ、宣言した。
「俺の残りの寿命、約80年。
その全ての時間を、君の『臨床試験』として捧げたい。
俺の食事、睡眠、運動、そして腸内環境……すべてを君が支配してくれ」
会場がざわめく。
「あれは……プロポーズ……なのか?」
「なんか重い……物理的に重いぞ……」
殿下は私の手を強く握り締めた。
「エリザ! 結婚してくれとは言わない!
俺と『永久専属・美容顧問契約』を結んでくれ!!」
「……っ!」
「俺は君と共に、シミひとつない人生を歩みたい!
俺の『老化』を、君が生涯かけて止めてくれ!!
俺と一緒に、アンチエイジングの彼方へ行こう!!」
ドォォォン!!(背後の黒竜が祝福の炎を吹く)
会場中が静まり返り――そして、爆笑と拍手が巻き起こった。
「なんだその口説き文句ー!!」
「最高だぞ殿下ー!!」
「お幸せにー!!」
私は、呆れを通り越して、笑いがこみ上げてきた。
なんて現金で、なんて健康的で、なんて私らしいプロポーズだろう。
私は殿下の手を取り、ニッコリと微笑んだ。
「……条件がございます、殿下」
「な、なんだ!? 資産か!? 城か!?」
「いいえ。――**『返品不可』**ですわよ?」
「望むところだ!!」
殿下は立ち上がり、私を力強く抱きしめた。
その腕の中は、高反発マットレスのように心地よく、ほのかにハーブの香りがした。
「愛しているよ、エリザ。俺の女神」
「ええ、私もですわ。……私の、最高の実験台さん」
私たちの唇が重なる。
その瞬間、私の肌と殿下の肌が共鳴し、会場全体を包み込むほどの**「美のオーラ(発光)」**が放たれた。
眩しすぎて直視できない騎士たちがサングラスをかける中、私たちは永遠の愛(と美肌)を誓ったのだった。
――汚肌の悪役令嬢は、もういない。
ここにあるのは、世界一美しく、世界一健康で、世界一バカップルな二人の未来だけである。
(第1章 完/第2章『新婚旅行は美容大国へ!? 美肌の敵・紫外線を倒せ!』へ続く)




