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恋愛禁止の時間旅行

作者: しずる凛
掲載日:2026/01/16

坊ちゃん文学賞落選作品をこちらで供養...!


初めてこちらに投稿するので、何がお気づきの点あればご指摘ください!

目の前に迫る黒い海。

「お姉ちゃん、危ないよ!」

 間一髪のところで”それ”をかわす。黒々と渦を巻いたブラックホールだ。

「ふ~~危なかった…」

「気を付けてよ!お姉ちゃんが飲み込まれたら、僕どうやって現代に帰ればいいのさ」

(あたしの心配よりその心配?!)

 少しカチンときたが、まあ良いとする。

 だってあたしがこのような非日常の旅に出られているのは…弟・レイリのお陰なのだから。

「ね、そんなことよりそろそろ場所変えようよ。次どこに行きたい?」

「ん~~そうだなあ…」

 レイリの行きたがっていた白亜紀には一発目で行ってしまった。尤も恐竜には触れずに、この船の中から見るだけだったのだけれど。

「中世ヨーロッパ、宇宙誕生の瞬間…行きたいところには大体行っちゃったでしょ。どうする、そろそろ帰る?」

「何言ってんの!僕まだまだあるから…」

 ほんとにもう体力ないんだから、と頬を膨らませる。

「そうだ!僕行きたいところあったんだ」

「お父さんとお母さんの若い頃!見たくない?」

「二人のデートとか覗いちゃったりしてさ」

「え~~~~キモ…」

 何言ってんの、と弟が強引に舵を奪い取る。

(まあいいか…この件ではレイリに頭上がんないし)

(装置から何から、借りてきてくれたのはレイリだもんね)

 気ままな大学生で、フラフラと生きているけど、そこでかき集めたのか強大な人脈のあるレイリ。彼の力がなければ、帝都の研究機関からこのような最新の機械を拝借するなど、とても無理だっただろう。

 そして操作をできるのは、大人でかつマシンオタクで…このようなマイナーなマシンの免許を取得しているあたしだけ。Win-Winな時間旅行なのだ。

「まだあまり経験した人もいないんだから。何が起きるかわからない。慎重にいかないと…」

「はいはい。じゃあ、行くよ」

 レイリが急発進の舵を取る…。

 ワープに入る…



 あれ?

「…!」

(あれ…ここどこ?)

 よく知ってる天井。

「お姉ちゃん!!」

「レイリ?」

「あたしたち...」

「なんか記憶がなくて...あの後、どうなったんだっけ?」

(あの時確か…時間旅行をしていて。レイリと二人で)

(レイリが、パパとママの若い頃を見に行こう、…って)


「レイリ?」

 扉の向こうから女性の声がする。


 がちゃりと扉が開く。整った容姿の女性が、心配そうにこちらを見つめている。

「…ママ」

「なーに、鳩が豆鉄砲食らったような顔しちゃって。ご飯できてるわよ」


 レイリの好きなハンバーグよ、というママの言葉に、レイリは大喜びしている。

「リサも帰ってきていたのね。いっぱいあるから、リサも食べて行って」

 ママがあたしにも優しく声をかける。

「…」

 あたしも静かに降りていく。


 夕食が終わって、あたしはそっと家を抜け出した。

 タイムマシンはきっと、車庫に…。あった。

「お姉ちゃん!!!」

 聞き馴染みのある声に体が強張る。

「…レイリ」

「何やってんの!お姉ちゃんだけでそれ乗っちゃダメでしょ」

「…ごめん」

「なんで?もう十分色々巡ったし、お姉ちゃんも帰ろうかって言ってたじゃん」

「…最後」

「え?」

「最後パパとママに会った時の記憶が、全くないの。何かやらかしちゃったんじゃないかって不安で」

「…そっか」

僕も。実は僕も、途中から記憶がないんだ」

「あの時代に着いたところまでは覚えてるんだけど…その後が全く…」

「レイリ」

「一緒に戻ろう」

「何があったのか、一緒に確かめよう」

 弟と二人で、再び乗り込む。

「揺れるよ。気を付けて!」


...


 タイムリープ完了。

「ふ~~、何回やっても落ち着かないな…」

「さて…ここでいいんだよね」

 揃って船から降りる。

 "あの時"の場所に、到着した。"あの時"より、少し後の時間。あの時のあたしたちがいる瞬間に、あたしたちは同時に存在することはできないから...。

 広い広い湖のほとり。パパとママが出会った場所だ。湖の近く、小屋の中に二人で身を潜める。

「きた…!」

まずはパパが湖の周囲を歩き、こちらに向かってくる。あたしたちにとっては見慣れた顔。どこから見ても普通、とても美男とは言い難い一般的な中年男性だ。

 そして、反対側から歩いてきたのは…まるでそこだけ光っているかのように見える、とんでもない美女。顔がちっちゃくて、腰は掴めそうなほど細い。見慣れていたけれど、こうして見ると本当にきれいだ。

「…ママ」

レイリが呟く。


二人が立ち話をはじめる。あたしたちになど、全く気付いていないみたい。


「ここで偶然出会って、気が合っちゃったんだよね。何回も聞かされたから覚えてるよ」

レイリが、呆れたような顔を見せる。


「でも…あの時の僕たちは来ないね?」

「やっぱり、何もやってないんじゃない?」

「とにかく僕たちは無事に帰れたんだし。現代に戻った方が…」


「ちょっと黙ってて」

 弟を静止させ、なりゆきを見守る。

 ママがパパの隣に座る。二人は意気投合してしまったみたいだ。

 あたしは、おもむろに立ち上がる。

「レイリ。ちょっと、ここで待ってて」

「…え?お姉ちゃん…!」

 パパは席を立ち、近くの自販機へ飲み物を買いに行った。

 今だ。あたしはベンチに駆け寄り、あの女の後ろから勢いよくブロックを振り下ろした。

 血がだくだくと流れる。あの女を始末したのだ。


「お姉ちゃん…?」

 後ろにレイリが立っている。追いかけてきたのか。

「あれ…?」

 少しずつ、弟の体が透き通っていく。


 やった。今度こそ…成功だ。


「ママ…」レイリが呟く。

 ママ...。

 レイリの、ママ。

 レイリのママは、あたしのお母さんじゃない。


 あたしのお母さんは、レイリのママに、夫を…あたしのお父さんを盗られた。

 あの女の、レイリとそっくりな、綺麗な顔。そばかすだらけのあたしとは似ても似つかない。

 本当に、憎らしい顔。


 あたしのお母さんは、あたしとそっくりの冴えない顔。あたしを産んでから、あたしが5歳だった頃…レイリのママに、パパを盗られて…交通事故で死んだ。

 警察は事故死だったって言ってたけど、あたしは自殺だったと思ってる。

 その後生まれたのがレイリ。何も知らない、幸せな子。

 レイリのママが、レイリばかりを可愛がっていること、…この子は、気付いているのだろうか?

 今まで一度として、あたしの好物が食卓に出てきたことはない。それに…あたしはアレルギーで、玉ねぎが食べられない。それを知っていて、あの女はいつも、レイリの大好きなハンバーグを作っていた。…無論、玉ねぎをたっぷり入れて。

 あれはあたしへの嫌がらせだと思っていたけれど、あたしが家を出て行ってからも作り続けているということは…本当にただレイリのためで、あたしのことなど眼中にもなかったのかもしれない。


 けれど、もういい。一回はしくじったけれど…これで、計画通り。

 あの時、レイリに若い頃のパパとママを見に行くことを提案された時、思いついた。

 この時代に、パパからあの女を遠ざければ、あたしのママは死なない。そして、レイリは生まれてこないかもしれないと思った。

 だから、あの時代に行ってすぐ、薬でレイリを眠らせた。そして…ママを誘導して、パパに出会わないようにした。

 あの時あの時間に出会わなければ、もう会うことはないと思ったから。

 でも…事を終えて現代に戻ったら、レイリは居たし、ママはあの女のままだった。

 遠ざけただけじゃ、ダメだったんだ。殺さないと。

 そうしないと...弟は生まれてしまう。

 お母さんは、一生、報われない。

 

 ごめんね。さようなら、レイリ。


 「お姉ちゃん」

 消えかかる弟から、声が聞こえた気がした。

 あたしは思わず振り向いて…

 ごめんね、と、もはや弟とわからなくなったそれが、泣き笑いのような声で、そう言っていた。


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