恋愛禁止の時間旅行
坊ちゃん文学賞落選作品をこちらで供養...!
初めてこちらに投稿するので、何がお気づきの点あればご指摘ください!
目の前に迫る黒い海。
「お姉ちゃん、危ないよ!」
間一髪のところで”それ”をかわす。黒々と渦を巻いたブラックホールだ。
「ふ~~危なかった…」
「気を付けてよ!お姉ちゃんが飲み込まれたら、僕どうやって現代に帰ればいいのさ」
(あたしの心配よりその心配?!)
少しカチンときたが、まあ良いとする。
だってあたしがこのような非日常の旅に出られているのは…弟・レイリのお陰なのだから。
「ね、そんなことよりそろそろ場所変えようよ。次どこに行きたい?」
「ん~~そうだなあ…」
レイリの行きたがっていた白亜紀には一発目で行ってしまった。尤も恐竜には触れずに、この船の中から見るだけだったのだけれど。
「中世ヨーロッパ、宇宙誕生の瞬間…行きたいところには大体行っちゃったでしょ。どうする、そろそろ帰る?」
「何言ってんの!僕まだまだあるから…」
ほんとにもう体力ないんだから、と頬を膨らませる。
「そうだ!僕行きたいところあったんだ」
「お父さんとお母さんの若い頃!見たくない?」
「二人のデートとか覗いちゃったりしてさ」
「え~~~~キモ…」
何言ってんの、と弟が強引に舵を奪い取る。
(まあいいか…この件ではレイリに頭上がんないし)
(装置から何から、借りてきてくれたのはレイリだもんね)
気ままな大学生で、フラフラと生きているけど、そこでかき集めたのか強大な人脈のあるレイリ。彼の力がなければ、帝都の研究機関からこのような最新の機械を拝借するなど、とても無理だっただろう。
そして操作をできるのは、大人でかつマシンオタクで…このようなマイナーなマシンの免許を取得しているあたしだけ。Win-Winな時間旅行なのだ。
「まだあまり経験した人もいないんだから。何が起きるかわからない。慎重にいかないと…」
「はいはい。じゃあ、行くよ」
レイリが急発進の舵を取る…。
ワープに入る…
…
あれ?
「…!」
(あれ…ここどこ?)
よく知ってる天井。
「お姉ちゃん!!」
「レイリ?」
「あたしたち...」
「なんか記憶がなくて...あの後、どうなったんだっけ?」
(あの時確か…時間旅行をしていて。レイリと二人で)
(レイリが、パパとママの若い頃を見に行こう、…って)
「レイリ?」
扉の向こうから女性の声がする。
がちゃりと扉が開く。整った容姿の女性が、心配そうにこちらを見つめている。
「…ママ」
「なーに、鳩が豆鉄砲食らったような顔しちゃって。ご飯できてるわよ」
レイリの好きなハンバーグよ、というママの言葉に、レイリは大喜びしている。
「リサも帰ってきていたのね。いっぱいあるから、リサも食べて行って」
ママがあたしにも優しく声をかける。
「…」
あたしも静かに降りていく。
夕食が終わって、あたしはそっと家を抜け出した。
タイムマシンはきっと、車庫に…。あった。
「お姉ちゃん!!!」
聞き馴染みのある声に体が強張る。
「…レイリ」
「何やってんの!お姉ちゃんだけでそれ乗っちゃダメでしょ」
「…ごめん」
「なんで?もう十分色々巡ったし、お姉ちゃんも帰ろうかって言ってたじゃん」
「…最後」
「え?」
「最後パパとママに会った時の記憶が、全くないの。何かやらかしちゃったんじゃないかって不安で」
「…そっか」
僕も。実は僕も、途中から記憶がないんだ」
「あの時代に着いたところまでは覚えてるんだけど…その後が全く…」
「レイリ」
「一緒に戻ろう」
「何があったのか、一緒に確かめよう」
弟と二人で、再び乗り込む。
「揺れるよ。気を付けて!」
...
タイムリープ完了。
「ふ~~、何回やっても落ち着かないな…」
「さて…ここでいいんだよね」
揃って船から降りる。
"あの時"の場所に、到着した。"あの時"より、少し後の時間。あの時のあたしたちがいる瞬間に、あたしたちは同時に存在することはできないから...。
広い広い湖のほとり。パパとママが出会った場所だ。湖の近く、小屋の中に二人で身を潜める。
「きた…!」
まずはパパが湖の周囲を歩き、こちらに向かってくる。あたしたちにとっては見慣れた顔。どこから見ても普通、とても美男とは言い難い一般的な中年男性だ。
そして、反対側から歩いてきたのは…まるでそこだけ光っているかのように見える、とんでもない美女。顔がちっちゃくて、腰は掴めそうなほど細い。見慣れていたけれど、こうして見ると本当にきれいだ。
「…ママ」
レイリが呟く。
二人が立ち話をはじめる。あたしたちになど、全く気付いていないみたい。
「ここで偶然出会って、気が合っちゃったんだよね。何回も聞かされたから覚えてるよ」
レイリが、呆れたような顔を見せる。
「でも…あの時の僕たちは来ないね?」
「やっぱり、何もやってないんじゃない?」
「とにかく僕たちは無事に帰れたんだし。現代に戻った方が…」
「ちょっと黙ってて」
弟を静止させ、なりゆきを見守る。
ママがパパの隣に座る。二人は意気投合してしまったみたいだ。
あたしは、おもむろに立ち上がる。
「レイリ。ちょっと、ここで待ってて」
「…え?お姉ちゃん…!」
パパは席を立ち、近くの自販機へ飲み物を買いに行った。
今だ。あたしはベンチに駆け寄り、あの女の後ろから勢いよくブロックを振り下ろした。
血がだくだくと流れる。あの女を始末したのだ。
「お姉ちゃん…?」
後ろにレイリが立っている。追いかけてきたのか。
「あれ…?」
少しずつ、弟の体が透き通っていく。
やった。今度こそ…成功だ。
「ママ…」レイリが呟く。
ママ...。
レイリの、ママ。
レイリのママは、あたしのお母さんじゃない。
あたしのお母さんは、レイリのママに、夫を…あたしのお父さんを盗られた。
あの女の、レイリとそっくりな、綺麗な顔。そばかすだらけのあたしとは似ても似つかない。
本当に、憎らしい顔。
あたしのお母さんは、あたしとそっくりの冴えない顔。あたしを産んでから、あたしが5歳だった頃…レイリのママに、パパを盗られて…交通事故で死んだ。
警察は事故死だったって言ってたけど、あたしは自殺だったと思ってる。
その後生まれたのがレイリ。何も知らない、幸せな子。
レイリのママが、レイリばかりを可愛がっていること、…この子は、気付いているのだろうか?
今まで一度として、あたしの好物が食卓に出てきたことはない。それに…あたしはアレルギーで、玉ねぎが食べられない。それを知っていて、あの女はいつも、レイリの大好きなハンバーグを作っていた。…無論、玉ねぎをたっぷり入れて。
あれはあたしへの嫌がらせだと思っていたけれど、あたしが家を出て行ってからも作り続けているということは…本当にただレイリのためで、あたしのことなど眼中にもなかったのかもしれない。
けれど、もういい。一回はしくじったけれど…これで、計画通り。
あの時、レイリに若い頃のパパとママを見に行くことを提案された時、思いついた。
この時代に、パパからあの女を遠ざければ、あたしのママは死なない。そして、レイリは生まれてこないかもしれないと思った。
だから、あの時代に行ってすぐ、薬でレイリを眠らせた。そして…ママを誘導して、パパに出会わないようにした。
あの時あの時間に出会わなければ、もう会うことはないと思ったから。
でも…事を終えて現代に戻ったら、レイリは居たし、ママはあの女のままだった。
遠ざけただけじゃ、ダメだったんだ。殺さないと。
そうしないと...弟は生まれてしまう。
お母さんは、一生、報われない。
ごめんね。さようなら、レイリ。
「お姉ちゃん」
消えかかる弟から、声が聞こえた気がした。
あたしは思わず振り向いて…
ごめんね、と、もはや弟とわからなくなったそれが、泣き笑いのような声で、そう言っていた。




