『大吉』。
「占師はな」
師は、いつもの感情の読めない顔で私に言った
「人の定めが視えるだけではな、足らぬ」
言葉の意図が解らなかったが、『それを探せ』という事らしかった
昨年の明け
寝て起きて、総てのはじまりに占った時のことだ
魚を食み、喉に骨が刺さった事はあるだろうか
師の言葉は実に一年、私を刺し続けた
その棘の外し方はよりによって、それまでの経験では思い付く事が出来ないものの様に私には思えた
刺されれば痛むかとも思ったが、この一年、私は辻に立つ事を初めて許され、そんな事など気にする間も無かった
心の何処かには常に師の言葉が在ったが、未熟者の私には実践のさなかに考える余裕など無い
多くを学んだ
占術の意味とは何か
人は何故、占術を求めるのか
占術の術理は何故、今日の形となったのか……
それらを『知識』としてだけ得る事も可能だったかも知れないが、実践の中での学びは私に多くのものを教えたような気がする
気が付けば『昨年』という戻らない時間は、矢のように去って、私の遥か後ろに存在して居た
そして新しい春が来て、私は辻に立つ
『これからいくさに発つ』という男が、最初の客だった
結果を視て
私は表情こそ変えなかったが、内心で動揺した
「どうだ」
「己れの武功は、どれ程のものになる」
昨日、男は故郷で髪を整えたのだという
私は内心の動揺を振り払うと、男に答えた
「試練が襲い掛かります」
へらへらとしていた男は、急に真面目な顔になり私を視る
「しかし────」
「貴方様は、それを乗り越える強さもお持ちです」
そうか、と男は、再び明るい表情を取り戻す
私は「必ずや貴方様の勇猛さは、千代に語り継がれる事でしょう」と話を締めくくった
男は私に何度も感謝し礼を支払うと、いくさ場へ向けて歩いて居った
男が去ったあと、私はあらためて占具を視た
占いの結果は率直に、英雄的ではない単なる死相を表していた




