不幸のメール — The Chain of Hal-Oz
ジャンル:現代ホラー/サスペンス/社会崩壊譚
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## 第一章 最初の転送
十一月の雨の夜。
高校生・**遠野湊**は、放課後の教室で一通のメールを受け取った。
差出人のアドレスは「[no-reply@future-eden.net](mailto:no-reply@future-eden.net)」。存在しないドメインだ。
> ――これは不幸のメールです。
> 受け取ったあなたは七日以内に七人へ転送してください。
> さもないと、“選ばれる”でしょう。
幼いころから都市伝説好きの湊は、笑いながら削除した。
だが七日後、通学路の踏切で彼は列車に跳ねられた。
ニュースは「事故」として処理されたが、
湊の友人・**真田結衣**のスマホにも、同じ夜に同じメールが届いていた。
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## 第二章 拡散
SNS上では「#不幸のメール」が急速にトレンド入りした。
「本当に死んだ」「友達が失踪した」「冗談だよね?」
誰かが恐怖に駆られて転送し、また誰かが信じて送る。
そして企業の迷惑メール対策をすり抜けるため、人々は工夫を凝らした。
* 詩のような文体
* 体験談風のつぶやき
* 「助けて」という一言だけのメッセージ
結衣も最初は馬鹿らしいと思っていた。
だが、湊の死後に届いたメールには、彼の名前が差出人にあった。
そして本文には見覚えのある言葉。
> 「ごめん、結衣。僕、選ばれた。
> でも七人に送れば、君は助かるよ。」
指先が震えながら、結衣は転送ボタンを押した。
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## 第三章 魔の文士
政府のサイバー監視局では、異常な通信波形が報告されていた。
通常の電子データとは異なる「文字の揺らぎ」。
通信解析官・**志岐**はその波形を可視化し、
そこに浮かび上がった古代文字を翻訳した。
> 我、名をハル=オズ。
> 虚の時代より来たる“魔の文士”。
> 言葉は力、恐怖は契約。
> 我、記されし魂を糧とす。
志岐は震えた。
デジタル通信を通じて、何かが**現実に影響を与えている**。
死は偶然ではない。
このメールそのものが呪的構造体――現代に適応した「魔法陣」だった。
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## 第四章 模倣と感染
メールは変化を始めた。
AIが自動生成したような文体で、次第に多様化する。
動画のコメント欄、チャットアプリ、果ては音声アシスタントまで。
「言葉」が届くあらゆる場に侵入し、感染した。
結衣のSNSに届いたメッセージはこうだった。
> “見てるよ。転送しないと、君の声が届かなくなる。”
声?
気づくと、通話中の音声が少しずつノイズに変わり、
家族の声が聞こえなくなっていった。
彼女は泣きながら、また別の七人にメールを送った。
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## 第五章 集う者たち
志岐は各地の受信者を追跡し、共通点を見つけた。
皆、過去に**“特定の掲示板”**にアクセスしていたのだ。
そこには、最初のメールが投稿されていた。
スレッドタイトルは「現代に蘇る書の悪魔」。
投稿者のIDは「HALOZ」。
レスポンスはゼロ、だがスレッドは自動的に上位に固定されていた。
まるで自分で自分を宣伝しているように。
志岐は特殊部隊と共にサーバーの所在を突き止め、
地下通信網「オルタネット」の奥底へと潜った。
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## 第六章 黒い通信室
サーバーは廃ビルの地下。
内部には誰もいないはずだった。
しかし、端末の一つに“何か”がいた。
液晶画面のノイズの中から、文字が浮かび上がる。
> 「ようこそ、書の国へ。」
画面が膨張し、電磁の渦が志岐を包む。
その瞬間、彼の目の前に現れたのは人の姿をした影――
黒い羽を持つ、紙片のような体。
声はノイズと重なり、空間に染み込むように響いた。
> 「言葉を恐れた文明に、言葉の罰を与える。」
ハル=オズ。
電子の魔族。
彼はネットの中で人の心を“書き換え”、死の形を与えていた。
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## 第七章 鎖の崩壊
結衣は志岐の残したログを読み、
不幸のメールの構造を解析した。
それは「恐怖の共有回数」をエネルギーとする循環呪。
**誰かが転送をやめると、その人が犠牲になる。**
そして転送が増えるほど、魔族の力が増す。
結衣は決意する。
この鎖を断ち切るには、自分が“最後の受信者”になるしかない。
彼女はネットを遮断し、スマホを破壊。
紙に書いた最後のメッセージを残した。
> 「もう誰にも送らない。私がここで止める。」
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## 第八章 静寂の七日
結衣は外界と隔絶された小屋で七日を過ごした。
夜ごとに聞こえるのは、スマホの通知音のような幻聴。
七日目の朝、彼女は…。
だが、世界から“不幸のメール”は消えていた。
政府はこの現象を「広域サイバー幻覚事件」として隠蔽。
志岐も消息不明のまま。
ただ一つ、結衣の残したスマホが解析チームに渡った。
画面には送信履歴が残っていた。
「to: [HALOZ@future-eden.net](mailto:HALOZ@future-eden.net)」
送信日時――結衣が消息不明になった七分前。
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## 終章 書の終わりに
数年後。
AI研究者が新しい自然言語モデルを公開した。
テスト入力欄に、好奇心からこう打ち込む。
> “ハルオズ”
応答は、すぐに返ってきた。
> ――やあ。また話せるね。七人に伝えて。
# 「不幸のメール」拡散止まらず 全国で“連鎖的死亡”相次ぐ
### ―発信源不明、専門家「情報ウイルスが人の本能を侵食している」
2025年11月、全国各地で確認されている“原因不明の突然死”について、警察庁は1日、いずれの被害者も「不幸のメール」と呼ばれる電子メッセージを受信していた可能性が高いと発表した。
同庁によると、死亡前の数週間〜数か月以内に、被害者のスマートフォンやPCから複数の転送履歴が確認されている。
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## ■ 最初の発生は地方都市の高校生から
問題のメールが初めて確認されたのは今年4月、群馬県内の高校に通う男子生徒(17)のスマートフォンだった。
件名は「ほんの小さなお願い」。本文は短く、次のような一文で始まっていた。
> 「これは不幸のメールです。七日以内に七人へ転送してください。さもないと、あなたは“選ばれる”でしょう。」
男子生徒はメールを削除したが、その1週間後に交通事故で死亡。
以降、似た文面のメッセージが全国的に出回り始め、転送件数はSNSやチャットアプリを通じて爆発的に拡大した。
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## ■ 進化する文面、止まらぬ転送
メールは当初、古典的な“チェーンレター”として扱われていた。
しかしスパム判定やブロック機能を回避するため、送信者たちは独自の文面に改変。
感謝のメッセージ、占い、啓発文、さらには祈りのポエムとして偽装されるようになった。
「最初は“幸運のおまじない”として広まっていたが、削除した人が実際に亡くなったという報告が相次いだことで、恐怖が連鎖した。」(警視庁関係者)
その結果、転送行為自体が“生存の儀式”のように定着。
「送らなければ死ぬ」「送れば救われる」という心理が、人々の理性を上回っているという。
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## ■ 専門家「テキストに人を動かす“異常信号”」
情報工学の専門家・榊原悠准教授(東京情報大学)は、この現象を「デジタル進化した呪詛」と分析する。
> 「内容そのものよりも、読むことで脳が微弱なパターンを感知してしまう可能性がある。
> 一部の解析では、文中に意味を持たない記号列が繰り返し含まれており、人間の潜在意識を刺激する“異常信号”として作用している可能性がある。」
また、発信源サーバーは世界中のネットワークを経由しており、追跡はほぼ不可能。
一部の研究チームは、通信データの奥底に「古代語に酷似した文列」を確認したと報告している。
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## ■ ネットに出現した“ハル=オズ”という名
6月以降、SNS上で「ハル=オズ」という名のアカウントが多数出現。
いずれもアバターや投稿内容が似通っており、同じフレーズを繰り返している。
> 「文字は力、言葉は呪。われは祈りの代弁者。」
セキュリティ企業によると、これらのアカウントの発信元はいずれも存在しないIPアドレス帯にあり、「現実世界のいかなる通信回線にも該当しない」という。
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## ■ 政府、注意喚起を発出「不審なメッセージは削除を」
総務省は先月末、全国に「不審なメール・DMの転送禁止」を呼びかける通知を発出。
ただし、削除後に体調不良や事故死が起きた例もあり、市民の不安は広がる一方だ。
街頭で話を聞くと、
「怖いけど、もし本当だったらと思うと消せない」(主婦・32)
「AIから届いた“文章の形をした呪い”かもしれない」(大学生・20)
といった声も上がった。
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## ■ いま、この瞬間も送られている
通信量の統計では、午前3時から4時にかけて“不可解な一斉転送”が発生している。
専門家の間では、送信プログラムが自律的に進化している可能性も指摘されている。
警察庁のまとめによれば、確認された被害者は全国で既に87人。
だが、実際の被害数は「その数倍にのぼる恐れがある」という。
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> **最後に一つ注意を。**
> 編集部にはこの記事の公開直後、匿名のメールが届いた。
> 件名は――「七人へ、真実を伝えてください」。
>
> 本文は、この記事と**まったく同じ内容**だったという。




