Prolog 2人の魔女
目の前で大きな炎が揺れる。
「人間に罰を!」「殺してやる!」「人間を破滅させろ!」
人間への恨み言はやがて断末魔へと変わっていく。
「わかった……わかったから……私が『背負うから』」
彼女達が私の肩を掴んだところで目が覚めた。
彼女達の復讐を終わらせるまで私は死ねない。
だって私はみんなの意志を背負った災いの魔女なのだから。
この世には魔法を使う魔女と普通の人間がいる。
魔女と人間は互いに知恵を出し合い助け合う。それが昔。
ある時代人間の王が言った。
「魔女は我々人間を滅ぼし乗っ取ろうとしている!」
もちろん魔女達にはそんな気はない。
だが人間の中には彼女達をよく思わない連中もいたらしい。
国家転覆などというあらぬ罪を着せ魔女達を火あぶりにした。
それからだった。『魔女狩り』が始まったのは。
魔女として疑われたら終わり。
たとえ魔女でなくとも火あぶりだ。
魔女裁判において無罪はない。
人の子であろうと。
その中で生き残った魔女は2人だけ。
後に白魔女、黒魔女と呼ばれる者だ。
人間視点で言えば殺さなかった魔女と殺し損ねた魔女だ。
【白魔女の話】
「「白魔女様〜!」」
幼い子ども達が駆け寄ってくる。
「はいはい。みんな走ると転ぶからゆっくりね〜。」
「「はーい」」
笑顔で寄ってくる姿に昔のことを思い出す。
そしてもう慣れてしまった呼ばれ方に少し胸がくもる。
私は『魔女』なのだ。
魔女狩りによってかつての同胞は殺されてしまった。
でも私は……思考を遮るようにふいに袖を引かれる。
「見て!ママがね白魔女様と似てる髪飾りを作ってくれたの!」
ふわふわとした髪には白と金を基調とした髪飾りがついている。
「ふふふ。とても似合っているわ。」
髪を撫でるとくすぐったそうに少女は笑った。
「僕はこれ持ってきたんだ!白魔女様にあげる!」
その手には林檎が握られている。
「まあ!ありがとう。これでアップルパイでも焼こうかしら?」
「「ほんとに?!」」
やった〜!と口々に言う子どもたちを見ていると突然数人の兵士が来た。またか。
「リリアン・ホワイト来てもらおうか。」
「白魔女様……?」
ただならぬ雰囲気に子ども達はぎゅっとスカートの裾を掴み不安そうに見つめる。
「すぐ行きます。」
兵士に伝えてからしゃがみ子ども達に言う。
「ちょっとお仕事に行ってくるわ。みんなも気をつけて帰るのよ。」
「絶対帰ってくるよね?」
「当たり前じゃない。」
子ども達を見送ったあと私は城へ向かう。
「参りました。」
そこには現王と近衛がいた。
「国の外れの谷の町が霧に閉ざされた。分かっているな。」
「えぇ。」
お互いに話などしたくないのだ。
私は魔女リリアン・ホワイト。
人間に殺されなかった魔女。
魔女の姿が城の至る所にある鏡に映る。
白い髪と金色の瞳。
魔女だからと人間から排斥され、その見た目から魔女からも排斥された。
でも同胞と仲が悪く村の人間と仲良くし、助けてていたことによって処刑を免れてしまった。
魔女でも人間でもない。それが私だ。
【黒魔女の話】
1人暗い部屋で目が覚める。
背中には汗をびっしょりとかいている。
きっとひどい顔をしているだろう。
もう慣れたことだ。
お腹も空かない。
それも慣れたことだ。
安楽椅子に腰掛ける。
安楽椅子って名前は死からは程遠い名前だ。
椅子は何も答えない。
もう慣れたことだ。
壁に貼られた地図を見上げて✕の多さにため息をつく。
それは私が滅ぼした街。
今日はどこへと行くのか。意志を持たないはずの右腕が突然動き出しある一点を指す。
国の外れの谷の町。
はぁ。とまたため息をついた瞬間右腕が私の首を締め上げる。
「ゴホッゴホッ。分かってるからメルシーやるから!」
これも……慣れたことだ。
私は魔女狩りで生き残った魔女だ。
私は魔力が弱く魔法がほとんど使えなかった。
魔女はそんな私を蔑み虐めた。
人間は油断したのか最後まで私を放置した。
生き残ること彼女達はそんなことを許すはずもなかった。
身体を焼かれた彼女は魂を私の中へ放り込んだ。
「私達の力をやるから人間に復讐しろ。」
「で、でも私には……。」
「お前も『魔女』だよな?ドロシー?」
「分かった……。」
それから私は持ちえるはずもないほどの大きな魔力で街を破壊していった。
全ては死んだ魔女のため。
「うぐっ。」
安楽椅子から転げ落ちて倒れ込む。
ぼーっとしている私が気に入らなかったのか脇腹あたりに内側から強い衝撃を感じたのだ。
最近邪魔が入り完全に焼き尽くすことが出来ないことが多いから彼女たちも気が立っているのだろう。
「ごめん。」
地図の横の写真をちらりと見るとまた右腕が動き出す。
ドンッ。
手に取ったナイフはその写真の真ん中に刺さっている。
「憎いのね。大丈夫今度こそ。」
右腕は止まらない。何度も何度も執拗に写真を突き刺している。
その写真には1人の女の子が写っている。
彼女も『魔女』だ。
私と同じ生き残りだが私とは全然違う。
リリアン・ホワイト。それが彼女の名。
白い髪に金色の瞳。魔女というより天使のような見た目だ。
リリアンは人間に助けられていた。
人間と協力し人間の治療をしてそれで生き残った。
それだけではない最近は復讐の邪魔をするように現れてはこちらを攻撃してくる。
私の中の魔女たちは人間に向ける感情を彼女にも向けている。
「人間に媚び私たちを滅ぼした女。」
「魔女にあらず。」
「殺してしまえ。」
未だ写真を刺し続ける右腕に同調するように声を出す。
もちろんそれは私の意思ではない。
「そろそろ行きましょう?」
私の意思でそう言うと右腕は止まった。
同胞の為に復讐をする魂のいれもの。それが私。
「私は人間のために。」「私は仲間のために。」
これは残された魔女の葛藤。