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17.明かされる真相




「は……離してっ、ディーのニセモノッ! 離してったら!!」



 シェラルは力の限りバタバタと暴れるが、ディクスは彼女の身体をしっかりと抱き竦め、離そうとしない。

 そして、再びディクスが口を開いた。



「シェラ。……落ち着いて聞いて下さい、シェラ。()()()()でない事が分かった君なら、この“悪夢”から抜け出せる筈……! お願いです、目を覚まして下さい……!」



 その声音は、シェラルに何とかして言い聞かせたい、深い切実さが含まれていた。



「……え……?」

「シェラ、これは全て“悪夢”です。そう、貴女が馬車の事故に遭った時に見た“悪夢”と同じ……。その『幻覚』に負けないで下さい、シェラ! それに打ち勝って、戻って来て下さい、僕の所へ……!!」



 ディクスが悲痛に叫んだその瞬間、シェラルは、



(あぁ……。そうか、これは“夢”なんだ。“夢”だから、ディーが“ディー”じゃないんだ――)



 と、胸にストンと落ちたように認識した。


 刹那、シェラルの視界が一気に真っ白に染まった。



「…………っ!?」



 余りの眩しさに、シェラルは思わず目を閉じる。

 その光が徐々に無くなっていくのを感じ、シェラルはそろそろと瞼を開けると、一番に目に映ったのは、心配そうな面持ちのディクスの顔だった。



「……ディー……?」

「……っ! シェラッ! 良かった……本当に良かった……!! すみません……僕が遅れを取ったばかりに、貴女をまたこんな辛い目に遭わせて……っ」



 目を潤ませ、ディクスがシェラルを強く抱きしめる。

 訳が分からず周りを見回すと、そこは先程と変わらない城の休憩室だった。

 シェラルは、ベッドの脇でディクスに抱きしめられていた。



 そして、先程とは顔触れが変わっている事に気が付いた。

 ディクスはいるが、倒れていた筈のエルモアの姿がどこにも見当たらない。

 代わりに、青緑色の髪と瞳をした短髪の青年が、床に寝そべっている何かの上にドンと座って足を組んでいた。


 シェラルと目が合うと、青年は人懐っこい笑顔を浮かべて手を軽く上げた。



「やっ、奥サマ。何事も無く目覚めて良かったッスよ~。団長、すっごく心配してたんスよ~?」



 彼は、ディクスの右腕である、騎士団副団長のケイン・バラッドだ。



「ケイン様? どうしてここに――」



 尋ねようとして、ケインの下にいる何かが目に入り――ギョッと目を剥いた。


 それは、元の原型を留めていない程、顔をボコボコにされうつ伏せになって倒れているセリュードだった。



「え? せ、セリュード様……? え……? そ、その顔は……? え……ど……どういう事……?」



 セリュードはシェラルの戸惑いの声に、小さく呻いて言った。



「う……な、何故だ……? 『幻覚魔法』は完璧だった……。それが“現実ではない”と……認識されない限りは解けないのに……。そんな事は決して有り得ないのに……。何故……破れた……?」

「え、『幻覚魔法』……?」



 聞き慣れない魔法に、シェラルの眉根が寄せられる。



「団長ー。コイツ、まだ喋れるッスよ~? 更にボコボコにしていいッスか~?」

「死なせない程度に頼みます。今はその声を聞くだけでも非常に不愉快ですので。勿論“正当防衛”、ですよ」

「りょーかいッス! ――うわーっ、コイツに反撃されそうッス! 対抗しないと確実にやられるッス! 死に物狂いでやるッス! とりゃーっ!!」

「――お、俺は何もしてな――ギャアアァァァッ!!」

「……シェラは何も見ないで聞かないで下さいね」



 シェラルはディクスに深く抱き込まれ、目と耳を塞がれる。

 暫くして少し身体が離れた時シェラルが見たものは、気絶し、先程より膨れ上がったセリュードの顔だった。



「え、え……? ど、どうしてセリュード様に、そんな……?」



 シェラルは何が何だか分からない。



「シェラ……。貴女はセリュードの『幻覚魔法』に掛かっていたのですよ。先程奴が呟いたでしょう? 貴女にどう伝えて信じて貰おうか、ずっと考えていたのですが……。奴が自白してくれて助かりました」

「……『幻覚魔法』……私に……?」

「えぇ、最初から説明しますね。馬車の事故は、奴が意図的に起こしたものです。貴女を気絶させる為に。貴女はその日、公務に向かう為馬車を予約していました。その予約した馬車屋に賄賂を渡し、貴女が利用する日にちと時間を教えて貰ったんでしょう。そして、自分が乗った馬車の馭者にも金を積み、貴女が乗っている馬車に軽く接触するよう指示をしたのです」

「え……」

「事故で意識を無くした貴女を、奴は『一先ず安全な場所で休ませる』と周りに言って、近くの宿屋に運びました。そして、そこで貴女に『幻覚魔法』を掛けたんです」

「…………」



(全く……記憶に無いわ……)



「『幻覚魔法』は、魔力と魔法技術、術式を複雑に組み合わせた最高位魔法です。この王国では魔法士団長であるセリュードしか使えません。この魔法は意識の無い者にしか使えないのですが、成功したら、自分の思うがままの“幻覚”を見せる事が出来ます。それは、実際にその身に起きたと錯覚するくらい、現実感のある“幻覚”です。その“幻覚”によって、掛かった者を実際に動かす事が出来ます。貴女は宿屋で奴の手によって“幻覚”を見せられ、本当に『離婚届』を書かされたんです」

「…………!!」

「僕の方の署名は、セリュードが僕の筆跡を似せて書きました。騎士団長室には、僕の署名が書かれた書類なんて幾らでもありますからね。『騎士団長室に用がある。団長には入室の許可を得ている』等言って僕の部下に通して貰い、書類をこっそりと持ち出し、それを見ながら文字を似せて書くのは容易だったでしょう。けれど、当然ですが貴女の筆跡はどこにも無かったので、本人に書かせるしかありませんでした」

「…………」

「署名が書かれたその『離婚届』を、第二王女が僕達夫婦の“代理”として役所に提出しました。王家である王女に頭が上がらない役所は、筆跡をサッと確認しただけでそれを受理してしまったんです」

「…………そんな」



 青褪めるシェラルの頭を、ディクスは慰めるように優しく撫でる。



「僕はそれを知って、急いで役所に『取消申請』をしました。僕の筆跡と署名に書かれた筆跡が違う事を証明して。王女が持ってきたというだけで、本来しなくてはいけない明確な筆跡の確認を簡単に済まして受理し、『不正処理』をしてしまった役所は蒼白です。何とかその事実を隠そうとしましたが、『不正』が発覚した時点でそんな事は出来ませんよね」

「あ――」



(だからあの時、受付の人は言葉を濁したのね……)



「離婚届を書く『幻覚魔法』を貴女に見せ、実際に離婚しているので、貴女がすぐに僕と別れ実家に戻ると思っていたセリュードと第二王女は、貴女がなかなか侯爵邸から出ていかない事に業を煮やし、次の作戦に出ました。――それが、今回の事件です」

 



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