なにかおかしい。
なにかおかしい。
僕はインターフォンの音で目が覚めた。
時計を見やれば3:37…いやな時刻だ。
寝ぼけ眼で玄関へと近づき、ふと…違和感に気がついた。
「こんな時間に来客が……?」
多くの人にとって一人暮らしの住まいはそうだと思うが……この場所は僕にとって地元ではない。なので当然だが……夜中に突然やってくるはた迷惑な知り合いなどいないし、ましてや宅配を頼んだ記憶も当然ない。
来るはずがないのだ。
体内の眠気が全て吹き飛んだ。
なにかが起きている。
だが幸いにも、先ほど鳴った音は共有玄関のインターフォンだ。玄関ドアを隔てた先で、なにかが起こっているわけではない。
それに、鳴ったと認識したのは一度きりだ、追撃があるわけではない。少々気がかりだが、眠ることにしよう。
布団に戻り、微睡へと無意識を導いていると……今度はドン!と大きな音が響いてきた。突然耳を打つ音に、縮こまった背筋を冷たいものが走る。
「なんだ、上の階の住人の足音か…今日はやけに騒がしいな」
布団から顔を出し、白い天井を見上げた。そのまま睨みつけたい衝動に駆られる。
目を凝らすも視界に捉えるのは宵闇の深さばかり。
それでも眠気を待ちながら、ぼうっと天井を眺めていると、またしても音が響いた……いつもは静かすぎるくらいだというのに。
ドンッドンッ……
「うるさいな……」
いや、待て。
違和感の正体に気がついた。
この音は上の階から聞こえているわけではない……むしろ、横から聞こえている……とすれば隣の空き部屋、もしくは通路から壁伝いに反響しているのか?
そんな馬鹿な、この部屋はRC造だ。どれほどの力で叩けば分厚いコンクリートと壁を貫通して、室内にまで音を届けられるのだ?
異音の源は外ではない。
とすると、考えたくなかったが音は……
そこまで思い至り、僕はようやく思いだした。
この部屋は、周りの部屋よりも不相応に安いことを。そして、契約時の不動産屋の微妙な言葉を。
「調べたところ、なぜかこの部屋は持ち主が何度も何度も変わってるんですよ。これといった理由はないみたいですが……不思議なこともあるものですね」
片鱗は、常に内側にあったというわけだ。