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189 夜のこと


 夜、ハイネリスのトレーニング・センターにて。

 すっかり回復した石木さんが、魔力覚醒して仲間となったクルミちゃんに、厳しい口調で訓示を垂れ流していた。


「まず自覚しなければならないのは、一般的に、人間の魔力が成長するのは1歳から10歳までの間であるという事実です。それ故に幼少期から英才教育を受けることのできる貴族の子弟は優れた魔術師に育つことが多い。そして今、貴女は16歳です。つまり普通なら、いくら魔力覚醒したとしても使えるのはせいぜいお遊び程度の魔術。しかし、それはあくまで一般の話。貴女はこれから常識を超えて一流を目指すのです。覚悟はありますね?」

「はい! あります!」


 トレーニングスーツ姿のクルミちゃんが、直立した姿勢のまま勢いよく返事をする。

 いつもぽわんとしたクルミちゃんだけど、今は珍しく真顔だった。


「宜しい。ではこれより、まずは朝まで、体内の魔力を認識するためのトレーニングを行う。その後はハイネリスの設備を借りて貴女の中に強制的に魔力を浸透させる。それによって明日中には一般魔術師程度の魔力を有してもらう」

「はい! ありがとうございます!」

「礼は不要です。やる気だけを見せなさい」

「はい! 頑張ります!」


 私とヒロは、その様子をホールの脇で静かに見ていた。


「……ねえ、お姉ちゃん。大丈夫なの? 強制的とか言っているけど……。クルミ、強化人間とかにされちゃおうとしていない?」

「さあ」

「さあって……。ここ、お姉ちゃんの施設なんだよね?」

「そうなんだけどね。私もよく知らないし。だけど、まあ、平気だと思うよ」


 カメキチも平気だと言っているし。

 魔力の強制浸透は、大帝国の時代では普通に行われていたらしい。

 ただし、多大なエネルギーを消費して費用がかかるので、普通といっても市民が気楽にできるものではなかったようだけど。


 なんにしても、うん。


 さあとは言ったけど、強化人間というのは言いえて妙だね……。

 まさにその通りだと思う……。

 人格が崩壊することも、たまにあるらしいし……。


 まあ、今回は、大帝国時代でも超一流の魔術師だった石木さんが付いているので、さすがに崩壊はないだろうけど。

 うむう……。

 ヒロに不安がられて、私もほんの少しだけ不安を覚える。

 とはいえ、今さら止めるのは申し訳ない。

 クルミちゃんはどうやら、本気の本気で魔法少女になりたいようだし。

 正直、私なら、ちょちょいと魔力を付与することもできるけど、それはそれで違うとわかるのでやるつもりはない。


 ちなみにアンタンタラスさんは、回復してすでに魔王城に戻った。

 大宮殿生成成功の報告をウルミアやジルにするためだ。

 来てもいいよーとは言っておいたので、もしかしたら今夜中にも来るかも知れない。


「なんにしても、クルミちゃんは明日は無理そうだね」


 私は笑った。

 明日は東京に行く予定だったけど、夕方まで訓練なのは確定の様子だし。


 目の前では早速、トレーニングが始まっていた。

 と言っても瞑想からなので、静かなものだけど。


 邪魔になるだろうし、私とヒロは最高管制室こと私の部屋に戻った。

 メイドロボに紅茶を出してもらって、しばし寛ぐ。


「……クルミ、魔法使いになんてなって、本気で将来をどうする気なんだろうね。居場所とかちゃんと作れるのかなぁ」

「平気だと思うよー。日本の魔術師世界って時田さんが仕切っているみたいだし」

「時田さんかぁ。最初は、何を考えているのかわからなくて怖かったけど……。お姉ちゃんの部下の1人なんだよね?」

「まあ、うん。そうなのかなぁ」


 部下にした記憶はないけど、いつの間にかそんな感じだし。


「なら、日本の魔術師世界もお姉ちゃんの手中にあるんだ?」

「それはないけどね。私は関わっていないし」


 うむ。

 むしろ関わりたくない。

 大変そうだしね。


「こっちの世界は、支配を進めているんだよね?」

「ないないっ!」

「でも、この船のまわりの浮遊する島はもうお姉ちゃんの領土で、今度はオトモダチ・パーティーを開くんだよね?」

「それはね、開くけど」

「だよねえ」


 いったい、何がだよねえ、なのか。

 おそるおそるたずねてみると、


「だってそれで、敵と味方を選別して、一気に動くんだよね?」


 とか言われた。


「いや、ないからね?」


 もちろん私は否定しましたが、


「でも、みんな、その前提で動いているんだよね?」


 とかさらに言われた。


 私はなんとなく、カメキチに目を向けた。

 するとカメキチはヒロに言った。


「姫、そういうことは、わざわざ確認するものではありませんよ。大号令のその日まで、それはないということなのです」

「そっか。そうだよね。ごめんね、お姉ちゃん」

「あ、うん……。いいけど……」


 まあ、いいか。

 わかってくれたのなら、それでいいや。


 私は話を戻した。


「クルミちゃんについては、最悪、うちの会社で働いてもらってもいいしね。実のところ、人手がまったく足りていないし」

「ニホン世界では、特に人材が必要ですしね。いっそ姫もどうですか?」

「私ですか?」


 カメキチに問われて、ヒロがまばたきする。


「はい。マスターの妹君であれば、幹部として相応しいかと」

「私は今のところ、普通に生きるつもりなので」

「そうですか。それは残念です」


 ヒロは優等生だしね。

 普通に高校を出て、大学にも行くことだろう。

 なので働くとしても、まだかなり先だ。


 話していると、予想通り、ウルミアたちがやってきたとの報せが届いた。

 完成した大宮殿を見に来たのだろう。

 ヒロも見たいというので、外に出てウルミアたちを出迎えて、そのまま行ってみようということになった。


「でも、外って空の上だよね? また抱っことか……?」

「ふふー。今はもう平気だよー」


 なにしろ私の権能は開放されている。

 風魔法『フライ』を、他人にかけることも可能なのだ。


 というわけで、『テレポート』の魔法でハイネリスの外に出た。

 美しい夜空の世界だ。


「え。わ。きゃああああああ!」


 ヒロはすっ飛んでいってしまったけど。

 私もうっかりしていたけど、いきなり飛行魔法の制御は無理だったようです。


「ヒロぉぉぉ!?」


 私はあわててヒロを追いかけた。

 ただ、さすがはヒロ。

 冷静でいれば平気と教えたら、すぐに浮かんでいられるようになった。

 魔法の才能も、かなりあるのかも知れない。


 しばらくするとウルミアたちが飛んできた。


 ウルミアにフレイン。

 ジルにアンタンタラスさん。

 いつもの魔王と側近コンビだね。


「ねえ、お姉ちゃん。なんか、大軍じゃない……?」

「そだねー」


 まわりには、なぜかドラゴンたちもいた。

 ただドラゴンたちとは、とっくに仲良しになっている。

 なので私は気にしなかった。

 以前に助けてあげた、小さな子も一緒だった。


「ぴぃぃぃ!」


 嬉しそうな声をあげて、真っ先に私のところに突っ込んできた。


「久しぶり、元気だった?」

「ぴぃ!」


 どうやら元気そうだ。

 よかった。


「お姉ちゃん、ドラゴンとも仲がいいんだね……」

「そだねー」


 可愛がっていると、ウルミアたちも来た。


「ごめんね、ファー様。この子たちも見たいっていうから連れてきちゃったけど」

「うん。いいよー」

「それで見学、いいのよね?」

「うん。いいよー」

「やったわ! 伝説の大帝国の伝説の中心地! 楽しみだわ!」


 ウルミアが喜ぶと、フレインがカニカニして、ジルが「なのー」とうなずいた。

 今夜は珍しくいつもとは逆のパターンだった。


「夜分で早速にも関わらず、ありがとうございます。私も一刻も早く大宮殿を見たく、図々しくも参じてしまいました」


 アンタンタラスさんが丁寧にお辞儀をする。


「……ところで、こちらの御方は?」


 アンタンタラスさんがヒロに目を向ける。

 そういえば初対面か。


「私の異世界での妹。名前はヒロだよ」

「初めまして。よろしくお願いします。羽崎ヒロと申します」


 ヒロが礼儀正しく挨拶する。

 それに対してアンタンタラスさんは柔和に紳士的に挨拶を返してくれた。

 アンタンタラスさんは、この世界の人類にとっては仇敵で、今まで数多くの人間を殺してきた恐怖の魔人だけど……。

 ホント、立場が変われば人も変わるものだ。




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