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184 カナタ、頑張る





 11月15日。


 夜明け前の時間にパチリと目覚めて最初に感じたのは、私の左右で寝ていたシロとクロのもふもふとした柔らかい感触だった。

 寝る前には、いなかった気がするけど。


 私が身を起こすのに合わせて、2匹も目を覚ました。


「うう。もう起きるのですかぁ。早いのですう」

「おはよ、マスター。今日はどうするの?」

「今日はすぐに異世界に行くから、2人は予定通りにこちらをお願いね」

「わかったのですう。シロは家を守るのですう」

「ボクは姫の護衛だね。了解」


 2匹は身軽にベッドから飛び降りた。


「そういえば、2人はご飯っているの?」

「なくてもいいけど、あれば貰うよ」

「シロは食べてみたいのです。マスターの好物をよこすのです」


 なら、まあ、せっかくなので。

 2匹には私の好物、ハムパンを食べさせてあげることにした。

 ハムパンとは、食パンにマヨネーズを塗って、そこにロースハムを乗せたものだ。

 シンプルなので、すぐに作ることができる。


「はい。どうぞ」


 1匹1枚は多い気がするので、半分に切って、さらに半分にして――。

 4分の1ずつを、それぞれに差し上げた。

 サービスで、マヨネーズはたっぷりとつけてあげた。

 2匹はむしゃむしゃと食べる。

 私も半分をいただいた。


 うん。

 おいしいっ!


 私は大いに満足したのですが……。


「ふーん」

「なのです」


 2匹の感想は、なんとも乾いていた。


「あんまり合わなかった?」

「こんなもんか、って感じだね。ちょっとしょっぱかったかな」

「なのです。ちょっと食べるのが辛かったのです」


 あまりご好評はいただけませんでした。

 残念。

 ただそれについては、ハイネリスに飛んで、そのことをカメキチに愚痴ったところ、


「猫は強い塩気が苦手なのでマヨネーズは避けた方がよかったのかも知れません。ハムとパンだけなら美味しく食べられると思いますよ」


 とのことだった。

 なるほど。

 サービスしたのが裏目に出てしまったようだ。

 次からは気をつけよう。


 ともかく気を取り直して、私はファーの姿に戻って、朝一番からカメキチと作業をする。

 今日は昼からリアナのところに行く予定だけど、それまでいろいろと制作するのだ。

 タイム・イズ・マネー。

 時間を無駄にせず動く私は偉い子になったものなのだ。


「で、なんだけどさ、カメキチ。実はキナーエに総合施設みたいものを建てたいなと思って。できれば早めに」

「12月始めの挨拶会で使用するのですね」

「うん。そう。間に合うかな?」

「もちろんですとも」

「おおー! 間に合うんだ!」


 正直、さすがに無理かなーと思っていたけど。

 さすがはロストテクノロジーの塊、カメキチとハイネリスだけはあるねっ!


「マスター、船外に賢者イキシオイレスが来たようです。ハイネリスのハッチを開け、迎え入れてよろしいですか?」

「うん。お願い」


 さすがは石木さん、キッチリ時間通りに来てくれた。

 実は昨日の夜、連絡しておいたのだ。


「おはようございます、陛下、それにカメキチ君」


 石木さんはすぐに現れた。


「うん。おはよー」

「おはようございます、賢者イキシオイレス」


 軽く挨拶を交わして、すぐに石木さんにも先程のことを伝える。

 その上で、どんな施設にしたらいいのかを相談した。

 石木さんは迷うことなく答えてくれた。


「それでしたらもちろん、かつての大宮殿を再現するべきでしょう。華麗にして荘厳、陛下の御威光を世界に示すのに、それ以上の建造物はありません。もちろん、そんなものがなくとも陛下の御威光が変わることはありませんが、時に凡人どもは、サイズや装飾でしか権威というものを見い出せないものですので」

「大宮殿って、またすごそうだよね……」

「もちろんです。大宮殿は、本当に素晴らしい世界でした」


 石木さんは輝く瞳でうなずいた。


「でも、そんなのパパッと作れるの?」


 私はカメキチにたずねた。


「パパっとは無理ですが、マスターに魔力供給をいただき、ハイネリスで設計を行い、賢者イキシオイレスと賢者アンタンタラスがそれを受け取って創造魔法を行使すれば生成は可能です。賢者2名がかつての能力を現在でも有していることが前提ですが」

「それなら任せておいてほしい。僕もアンタンタラスも昔よりさらに進歩している。すぐにヤツも呼んでこよう。――よろしいでしょうか、陛下」

「うん。お願いー」


 石木さんは転移魔法で消えた。


 そしてほんの数分で、アンタンタラスさんを連れて戻ってくる。

 アンタンタラスさんはビシッといつも通りに、吸血鬼然とした黒地の正装姿だった。


「陛下におかれましては、かの荘厳たる大宮殿を復活なされるとのことで。ついに本当に大帝国の復活が始まるのかと思うと、身の引き締まる思いです。このアンタンタラス、誠意、全力で創造魔法を行使させていただきます」

「うん。お願いー」


 カメキチと石木さんとアンタンタラスさんは、早速、打ち合わせを始めた。

 創造魔法は、魔力からあらゆるものを生成する奇跡のような魔法だ。

 奇跡のような力故に、簡単に扱えるものではないけど……。

 ハイネリスであれば正確な設計図を描くことができて……。

 かつての大帝国世界で賢者とまで呼ばれた石木さんとアンタンタラスさんであれば、発動させることはできるようだ。

 ただそれには膨大な魔力が必要で、今の世界では私なくしては不可能のようだけど。

 だけど幸いにも私はちゃんとここにいる。

 すなわち可能なのだ。

 すなわち、なんと今日中に大宮殿は完成しそうなのだ。

 すごいね。

 というか、怖いよね、実際。


 準備の間、私もボヤッとしていないで、魔道具の制作をすることにした。

 大宮殿については、すべてお任せなのです。

 丸投げなのです。

 私は奥の工房に入らせてもらう。

 魔道具の制作は、今の私ならスキルで自由にできる。

 たとえば指輪を作りたければ、生成技能「彫金」を選んで、ずらりと並ぶ完成品リストからほしいものを選べばいい。

 生成には素材が必要となるけど、ハイネリスの異次元収納にはあらゆる素材が揃っている。

 つまりは、何でも作れてしまうのだ。


 まず作りたいのは「守りの指輪」。


 基本的には、いわゆる防御力アップのアイテムだ。

 はめておけば、ヒロやお父さんやお母さんも少しは安全になるだろう。

 だけど、うん……。

 まず問題なのは、その強度だった。

 なにしろ私が普通に作ると、おそろしく強力になる。

 それこそ、トラックに激突されても、逆にトラックを破壊してしまうほどに。

 さすがにそれはマズイ。

 奇跡的に助かった程度に収めておかないと、別の大問題が発生することは確実だ。

 その調整が難しくて……。

 なかなか「これだ」と決められないのが現状だった。


「とりあえずは殴られても平気でいられるくらいの強度かなぁ……。とりあえず作っちゃって、もう渡そうかな……。うーん、でも、殴られて耐えれても、誘拐とかが目的なら、それで助かるわけではないのかぁ……」


 もっと違う形での「守り」も実現できないかと考えている。

 こちらも今のところ、名案がないけど。


 ちなみに彫金で生成できる指輪は、素材、デザイン、魔力貯蓄量、魔力出力形態、等……。

 要素の異なる多くの品がリストには乗っているけど……。

 残念ながら、そこに「効果」はない。

 なぜなら「効果」は、私なら魔法で自由に付与することができるからだ。

 なので、リストから選んで決める、というイージープレイはできないのだった。


「うーむ」


 いったいどういう魔道具であれば、現代日本で自然に家族を守れるのか。

 理想の「守りの指輪」とは……。


「いっそ、対象を幻惑させる、幻惑の指輪の方が実用的なのかなぁ……。というか指輪は学校ではダメかも知れないかぁ……。となるとネックレス……。うーん。ネックレスもなぁ。紐で地味に作ればギリオーケーかなぁ……」


 考え始めるとキリがなくて、どうにも進まないのでした。


 とりあえず、プロボクサーに殴られても無傷でいられる程度の防御効果を付けたネックレスを10個だけ生成した。

 形は、爪サイズの青い石に、目立ちにくい肌色の紐をつけたシンプルなもの。

 効果は10回分。

 10回攻撃されると石は砕ける。

 さらに渡す時には使用者固定の魔法をかけて他人の使用は不可能にする。


 まずはこれを、お父さん、お母さん、ヒロ、クルミちゃん、ヨヨピーナさん。

 あとは、根本さんと、根本さんの秘書さんか。

 にプレゼントして……。

 まあ、パラディンにもあげておくか。

 パラディンと、アシスタントさんと、あとはシータにもね。


 それでちょうど10個だしね。


 そうこうしている内に、時刻はどんどん進んで――。

 午前11時になる頃。

 なんとついに、というか早くも、創造魔法の準備が整ったとのことで。

 私たちは大宮殿の制作に入るのでした。


 果たして。


 本当に完成するのか……!




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