182 夜の部屋にて
夕食を済ませて、お風呂も済ませて、夜。
私はシロとクロを連れて、2階の私の部屋に戻った。
ヒロも一緒だった。
「ヒロ、期末テストの勉強はいいの?」
「平気。現段階で、ほとんど理解はできているし。少しくらい休んでも、学年のベスト10くらいには入れると思うわ」
「そっかー」
さすがはヒロ、優秀だ。
私なんて学生時代、いつでもそれなりには頑張ってきたのに……。
どんなによくても平均点を少し上回るだったよ。
ぐすん。
まあ、いいか。
なにしろ今の私は超すごいのですから!
さて、では。
ヒロの護衛の件はすでに夕食前に話したので、夜の寝るまでの時間は私の実態や近況についてをシロとクロに伝えようと思う。
希望してきたのでヒロにも。
私は早速、私が現代日本に会社を持っていて、異世界にも領土を持っていて、多方面で活動していることを伝えた。
あと、ヒロが気にしていたリアナの周囲のことも。
「さすがはマスターなのです。まさに、パワー・イズ・ジャスティス、なのです」
「ホント、すごいね。それで手が足りなくて、ボクたちの出番になったと」
「うん。そう。シロとクロには基本的にはこの家の守りをお願いするけど、場合によっては異世界に来てもらうから、今度、向こうも案内するね」
「楽しみにしておくよ。でもまずは、この家の周囲の確認からだよね。明日から早速、いろいろと見させてもらうね」
「そんなことよりも、まずはキッチリとこの近辺の猫どもをシメて、このシロサマがボス猫となることが肝心なのです。ボス猫となっておけば、この近辺の警戒と警備は簡単なのです。やってやるのです。闘争なのです」
「くれぐれも猫としてお願いね?」
私としては、侵入者があった場合だけ対処してくれればよかったんだけど、近辺から守れるならそれにこしたことはない。
なので、それはダメですとは言わないけど。
「任せるのです。これでもシロは強いのです。普通の猫なんてワンパンなのです」
実際、猫どころか猛犬や熊にさえシロならば勝てる。
なにしろ、異世界で活躍する熟練の冒険者に等しいスキル『ランクⅢ』相当の戦闘力を持つ私の使い魔なのだ。
だからこそ、心配ではあるけど……。
「クロ、お願いね」
「はぁ。もう。先が思いやられるよね、実際」
「あはは」
やる気満々のシロを見て、クロはため息をついた。
「でも、そっかぁ……」
そんなやり取りの中、ずっと考え込んでいたヒロが口を開いた。
「どうしたの?」
「あ、うん。リアナのこと……。いきなり人間がゴーレムみたいになるなんて、どんな事件に巻き込まれているのかと思って……」
「うーん。そうだねえ」
「お姉ちゃんにもわからなかったんだよね?」
「だねえ」
異質な魔力は感じたけど、それが何なのかと言われると答えがない。
憶測はできる。
外なる神、邪神、そうした存在のことは聞いているし。
ただ、確証はない。
たまたまダンジョンで拾った呪具の類を使ってしまっただけの可能性だってあるのだ。
まずは、男の身辺調査の結果が出るのを待つしかないだろう。
「とりあえず明日、リアナのところに行ってみるよ。何かわかったかも知れないし」
「私にも力になれることがあれば言ってね?」
「最悪、また連れてくるかもだから、その時にはお願い」
「うん。任せて」
「ねえ、ヒロ。でも、本当にいいの?」
「何が?」
「だって、さ……。力になってくれるのはありがたいけど……。危険かもだよ?」
そう。関われば関わるほどリスクは高まる。
それは明白だった。
「ねえ、お姉ちゃん」
「うん」
「魔法とか異世界とか、そんな面白いこと、絶対に他にないよね? パラディンさんやヨヨピーナさんが仲間になりたがる気持ちは、本当によくわかるよ。私もね、危険なのはわかるけど、でも関わらせてほしいです」
「あはは。そっかー」
「それにリアナのことは心配だしね。責任も重いのよね?」
「リアナは聖女で貴族令嬢だからね。民衆に訴えたり、すごく頑張っているよ。光の力にもついに目覚めたしね」
「いいね、そういうの。私にも力があればなぁ」
「ほしいんだ?」
「それは、ね。ほしいに決まってるし」
ヒロはあきらめ顔でため息をついた後、何かを思いついたように私に目を向けて、それなら戸惑いがちながらもこう聞いてきた。
「ねえ、お姉ちゃん。もしかしてお姉ちゃんなら、さ、私にも魔法が使えたり……するようにすることって……。できちゃったり……する?」
「うん。できるけど」
「できるんだ!? え!? できるの!?」
「うん。できるよ」
なにしろ私は種族すら変更できるのだ。
それに比べれば魔力覚醒なんて容易い。
具体的には光魔法『マナ・アウェイクニング』を使うだけで、その人の中に眠る潜在的な魔法の力を励起させられる。
とはいえ、気軽にはやらないけど。
リアナもそうだけど、自ら目覚めてこそ価値のあるものなのだし。
あと私は、属性すら自由に付与させることができる。
魔力の拡張もできる。
聖女の量産すら、実は私には可能なのだ。
世界のバランスを簡単に崩すことができてしまうのです。
さすがは私。
神なき世界の神は伊達ではないということだ。
とはいえ、やらないけど。
それはさすがに、世界で頑張っている生きている人たちにあまりに失礼なことだ。
できること自体、誰にも言うつもりはない。
もちろんヒロにも言わない。
ただ、とはいえ……。
うん。
すでに種族変更はしてしまっていますけどね。
しかも2人にも。
まあ、うん。
「してほしいならしてあげようか?」
なので、魔力覚醒くらいなら、少しは気軽にやっちゃってもいいかなーと。
思ったのであります。
でもヒロは、手放しでは喜ばなかった。
「ごめんちょっと待て! いきなりだと心の整理が! それってつまり私が魔法使いになれるってことなんだよね!?」
「魔力覚醒さえすれば、後は訓練だけだね」
「だよね! だよね!」
「どうしたの?」
「え。だって! いきなりそんなこと言われてもぉぉぉぉ!」
あわあわするヒロは、けっこう可愛かった。
普段は見ない姿だけに、実に新鮮でもある。
私は微笑ましくレアな妹を見守るのでした。
結果としてヒロは、散々に迷った後、「保留」ということで落ち着いた。
「……ごめんね。また今度でお願い。魔法使いなんて、あまりに特別すぎて、やっぱり気楽にはなれないよ。よく考えてみるね」
「いつでもいいよ。その気になったら言ってね」
「ねえ、お姉ちゃん。あと、このことって、クルミにも言っていい? たとえばクルミも魔法使いになるとか……」
「うん。いいよー」
クルミちゃんは正直、最初こそ大丈夫かなぁと思っていたけど……。
なにしろふわふわしたミーハータイプの子なので、秘密だよと言いつつ秘密を漏らしまくってしまうかも知れないなぁ、と。
ただそれでも、ヒロがクルミちゃんは大丈夫というので、同行は許していた。
実際、ヒロには見る目があった。
クルミちゃんは意外にも口が硬かったのだ。
私たちと異世界に行ってさえ、何事もなかったように毎日を過ごしている。
仲間検定は合格でいいだろう。
魔法使いになりたいというなら、ヒロと一緒にしてあげてもいい。
クルミちゃんは、両手離しで希望しそうだ。




