181 家族に紹介!
夕方、家に帰ってきたヒロに、私は早速、シロとクロを紹介した。
ちなみにカメキチはすでに帰っている。
キナーエの監視もあるしね。
「というわけで、ヒロ。この子と仲良くしてやってね」
「よろしくね、姫」
「なのです。姫には特別に、シロをシロと呼ぶことを許してやるのです。用がある時には遠慮なく声をかけるのです」
「……お姉ちゃん。この子たち、しゃべってるよね?」
「うん。そうだね。しゃべる猫だし」
「そうなんだ。すごいね」
帰宅してすぐのリビングだったので、さすがにびっくりさせてしまったけど、幸いにもヒロは順応が早かった。
「初めまして、私はヒロと言います。お姉ちゃんの妹です。でも、どうして姫なの?」
ヒロがしゃがんで、床の2匹に笑顔で挨拶する。
「あ、ごめん。それ、私からの提案でね。これからいろいろあった時、この子たちとヒロの関係を名前で特定されない方がいいかなと思って。姫なら、ほら、だれだれ? ってなるよね。町中で呼びかけられたとしても」
ヒロが帰ってくるまでの間に決めたのだった。
その方が安全だよね。
「そういうことなんだ。わかった。でも、いろいろありそうなの?」
「ないように頑張ってはいるけど……。ごめんね」
「謝ってもらう必要はないよ。少しくらいの危険はあっても、私はお姉ちゃんたちと一緒に異世界に関わっていきたいもの。でもとりあえず、着替えてくるね?」
「あ、うん」
ごめんね、いきなり。
ヒロは2階へと上がっていった。
「あれがマスターの妹ですか。カナタとは逆で頭は良さそうなのです」
「だねー。カナタみたいなトロンってタイプを想像していたから、けっこう意外だったよ」
「ごめんねー。頭が良さそうじゃなくて、トロトロでー」
私はニコニコと2人を膝に乗せた!
なでなで!
「……マスター、シロの背中がビリビリするのです。なんだか怖いのです」
「ねえ、痛いんだけど……。なにこれ……」
「あははー」
少しだけ怒りを込めて、魔力を込めてみました!
伝わったようです!
でも、まあ、残念ながら事実なので、すぐに離してはあげたのですが。
「ごめんねっ! おまたせっ!」
しばらくすると部屋着に着替えたヒロが戻ってくる。
少し息が切れていた。
大急ぎで支度してきたようだ。
「別に慌てなくても、もう用事はないのです」
シロがそっけなく言う。
「あ、そうなんだ……?」
「何言ってるの。あるでしょ」
「まあ、なのです。どうしてもと言うなら、遊んでやらなくもないのです」
シロがそっけないままヒロの足元に寄った。
「そうだね。せっかくだし、遊んでほしいな」
ヒロは優しくシロを抱きかかえて、喉をゴロゴロとしてあげる。
「これはいいのです。マスターと違って優しいのです。ふあああ、なのですう」
するとシロは、すぐにうっとりした。
「ふふ。よかった」
「ふああああ……」
「ヒロ、猫の扱いになれてるんだね」
私は思わず感心した。
生意気なシロをあっさり陥落とは、かなりの手さばきだ。
「クルミの家にいるから。よく遊んでいるんだ」
「そっかー」
感心していると、足元をクロが前足で突いた。
「マスター、遊びじゃないでしょ。今後の打ち合わせをしないと」
「あ、うん。そうだね」
私は笑って、クロを抱きかかえようとすると――。
バッと飛び退かれて、
「な、なに!?」
うわあああ……。
思いっきり警戒されたぁぁぁぁ……。
「いや、うん。おいで」
「どうして?」
「ゴロゴロしてあげる」
「……ゴロゴロって、もしかして、さっきのビリビリの上位版?」
「ちがうよー。なでてあげることー」
「ならいいけど……」
しゃがんで笑顔で手招きすると、クロはおそるおそる寄ってきた。
もうすごく嫌そうな顔だ。
魔力を込めるのは、オシオキの時以外はやめておこう。
というわけで。
シロとクロをなでなでしつつ、私とヒロは今後の打ち合わせを行った。
膝の上では、私にとっては悲しい攻防が繰り広げられていたけど……。
「ねえ、シロ。そろそろボクと位置を替わろうか?」
「何を言っているのですか。シロはマスターをクロに譲っているのですから、感謝してクロはマスターに甘えていればいいのです。シロは我慢して姫でいいのです」
「なんか、すごい気持ちよさそうだよね……? ボクは緊張しきりなのに」
「気のせいなのです」
「そう?」
「そうなのです」
どうやら猫たちは、すっかりヒロびいきのようです。
まあ、うん。
いいんだけどね。
その方が、護衛を頑張ってくれるだろうし。
ともかくヒロは、クロとシロがこっそり護衛していくことに同意してくれた。
あと、コードネーム「姫」にも。
そんなこんなの内、あっという間に時間はすぎて――。
次はお母さんが帰ってきた。
私はドキドキしつつも、シロとクロのことをお母さんに紹介する。
もらった子なんだけど、飼っていいかな、と。
「にゃー♪」
「にゃー♪」
シロとクロは猫のフリをして、というか猫ではあるんだけど、しゃべれない猫を装ってお母さんに愛想をふるった結果――。
お母さんはあっさりと陥落して、快く認めてくれた。
よかった!
お父さんにも同様の作戦は成功して、シロとクロは、見事、我が家の一員となったのでした。




