180 新しい家族、シロとクロ
「やあ、マスター。始めまして、ボクはクロというんだね。これからよろしく」
「シロなのです! なのです!」
魔法で生成した黒猫と白猫は、普通に言語を操れるようで、私のことを認識すると、まずはそれぞれに挨拶をしてくれた。
黒猫のクロは、ちょっと斜に構えた感じの大人びた子だ。
白猫のシロは、幼い感じの元気っ子だね。飛び跳ねて挨拶してくれた。
うん。
はい。
なんとなく、どこかで見知った性格な気がするのは、多分、気のせいではない。
なぜなら2人を生成する時に、黒と白かぁ……、と私は考えて、ついうっかり、闇の神と光の神を想像してしまったのです。
結果として、まるで2人のような性格の子が現れたのでした。
うーむ。
私はじーっと2匹のことを見た。
まさかとは思うけど……。
「どうしたの、マスター。ボクたちに不具合でもあった?」
「あ、うんん。なんでもっ!」
あははー!
中に神様方が「入っている」ということは、ないよね、さすがに……。
なにしろ1000年の謹慎中なのだし……。
「なら、使命を言ってよ」
「そんなことより遊ぶのです! まずは仲良くなるのです!」
「はぁ? 何を言っているのかな、キミは? ボクたちは、使命を成すために使い魔として生み出されたんだよ。まずはそれを聞かなきゃ、寄って立つところがないでしょ。いきなり遊ぼうとかどうかしているよ」
「きぃぃぃぃぃぃぃ! 生意気なのです! 使命なんかより、まずはマスターのことをよく知ることの方が大切なのです! 生まれたばかりで何にも知らないクセに、何を生意気なことを言っているのですかこの黒猫は!」
シロが毛を逆立ててクロを威嚇する。
「それはキミもでしょ」
だけどクロは相手にせず、しれっとした顔をしている。
しかし、うん。
生まれたばかりなのに、本当に個性豊かだ。
「ねえ、カメキチ。使い魔って、こういうものなの?」
「一般的にはここまで自我を持つことはありませんが、さすがはマスターですね。見事な使い魔だと感心します」
「そっかー。ありがとー」
私はのんびりと、2匹の猫の喧嘩する様子を見ていたのだけど……。
「力の差を思い知らせてやるのです! 食らえなのですううう!」
え。
いきなりシロが光の矢みたいなものをクロに放ったぁぁぁぁ!
「うわっ!」
それをクロは間一髪のところでかわしたけど……。
かわりに光の矢が壁に激突――しかけたところで、カメキチが防壁を張ってくれて、光の矢は霧散して消えた。
「なにするのさ!」
今度はクロが闇の矢を放った!
「ふん! なのです!」
それをシロは、なんと前足ではたき落とした!
私の部屋の中で2匹の戦闘が始まる。
2匹の喧嘩は、光と闇の交わる、まるで何かのショーだった。
シロは光の魔力を、クロは闇の魔力を、それぞれ手足のように自在に操っていた。
なかなかにすごい子たちのようだ。
「マスター、止めた方がよいのでは?」
「あ、うん。そうだね」
カメキチが被害を抑えてくれているので、つい私は見学者になってしまった。
「はい。そこまで」
私は左右の手で1匹ずつ、2匹の首根っこを捕まえた。
すると2人は大人しくなった。
そういうところは、ちゃんと猫のようだ。
「2人とも、最初の命令です。家の中で喧嘩をすることは禁止です。今日はたまたまカメキチがいてくれたからいいけど、そうでなかったら家が壊れていたよ。キミたちには、家を守るために来てもらったというのに」
「ごめんね、マスター。ボクとしたことが、ついカッとしちゃって」
「なのです」
「うん。わかってくれればいいよ」
私は2人を床に降ろした。
「しかし、そこのカメはすごいのです。シロたちの攻撃をすべて防ぐなんて。そいつもマスターの使い魔なのです?」
「ううん。この子は私のサポートメカだよ」
「カメキチと申します。使い魔の皆様、これからよろしくお願いします」
空中に浮かんだまま、カメキチが丁寧に頭を下げる。
「おまえは強いので、特別によろしくしてやるのです。シロはシロなのです」
「ボクはクロ。よろしく」
「最後になっちゃったけど、私はファー。ファーエイル・ザーナス。あと、」
私はファーから羽崎彼方の姿になって、
「この姿でいる時には、羽崎彼方、カナタという名前ね。間違えるといけないから、マスターと呼んでくれるのならそれでいいけど」
「わかったのです。パッとしない地味な方がカナタで、パッとした綺麗な方がファー。どちらもマスターなのです」
「またシロは失礼な言い方をして。どっちも素敵なマスターだよね」
「何を言っているのですか。シロは別に、地味が悪いだなんて言っていないのです。地味は地味で素敵な個性なのです」
「はいはい。また喧嘩はダメだよ。2人とも、これから作戦会議をするからねー」
私は手を叩いて2匹を止めた。
「わかったのです」
「さあ、マスター。ボクたちは何をすればいいんだい?」
2匹がひょいとPCのテーブルにジャンプして、視線を合わせてくる。
「2人の使命は、家と家族を守ることです。特に私の妹については、しばらくの間、特に見守ってあげてほしいの」
お父さんとお母さんは、まあ、いいだろう。多分。
そもそも深い関連性はないのだし。
でもヒロは、ファーとのそれなりに密接な関係性もバレているだろうから、事件に巻き込まれる可能性がある。
「なので、どちらかは妹に付いて、どちらかは家にいてほしいんだけど。どうかな?」
「わかったのです。交代でやるのです」
「だね。いいよ」
「ありがと」
「不審者が現れた場合は、撃退すればいいんだよね? ここは普通の家のようだし、始末するのではなく幻惑等で追い返すのがいいのかな?」
すぐに話はまとまって、2匹は普通の猫として我が家に住むことが決まった。
しゃべるのは私とヒロの前でだけ。
結界を破った侵入者や、あるいはヒロに害をもたらそうとする者には、まずは意識系の魔法をかけて穏便に追い払う。
抵抗されてしまった場合には、私に連絡すること。
使い魔と主との間には、念話と感覚共有というスキルが存在する。
私はシロとクロの五感を通して現場の状況を知ることができ、距離が離れていても心の中でシロとクロとは会話できるのだ。
ただし、世界を超えての念話や感覚共有は無理だった。
なので通じないケースも発生するだろう。
なにしろ私は異世界にいることも多いし。
「万が一、危機的状況で私に連絡が通じない場合は、全部、任せるから、あらゆる全力の行為で状況の打破を試みて」
「それって、殺人もいいってこと?」
「うん。いいよ。最悪、事後に蘇生させるから平気」
「ふふーん。蘇生ならシロにもできるのです。クロにはできないのですね」
「ま、その分、ボクの方が強いけどね。ボクならそもそも、戦闘になる前に、いくらでもそれを回避する手段が取れるし」
「なにをおおおおお! シロより優れたクロなど存在するはずがないのです! シロの方が絶対に強いに決まっているのです!」
「喧嘩は禁止ね」
私はニッコリとシロを睨みつけた。
「なのです」
シロは反省してくれた。
けど、うん。
どうやらシロの方が、トラブルメーカーなのは確定的だね、これは。
蘇生と回復の魔法が使えるのは心強いけど。
最初の内は、クロにヒロの警護をお願いすることにしよう。
シロはクロから外の話をしっかりとよく聞いて、完全に理解してから、ヒロの護衛には付いてもらう方がいいね。
でも、そのまま言うと絶対に面倒なことになるから……。
私は大いに頑張って、それぞれの特性に基づいた決定として、シロには内、クロには外から固めてもらう旨を伝えたのでした。
2人は喧嘩することなく、ちゃんと納得してくれたのでした。
よかったのです。
かくして。
我が家には、新しい家族が増えたのでした。
ただ、うん。
まだ、家族からの許可は、もらっていないんだけどね……。
受け入れてくれるといいけど……。




