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177 ロジェンツとの会話2





「でも、ロジェンツさん、そんなにペラペラとしゃべってもいいの?」

「今回の件について私は主から呪縛を受けておりません」

「それって、つまり、東京の破壊活動みたいなことには乗り気じゃないってこと?」


 敵対反応もないし、良識派の魔術師ということでいいのだろうか。

 簡単に信じるのは危険すぎるけど……。

 何しろ魔術結社『センチネル』では、時田さんを上回る第2階位『マスター・ウィザード』の魔術師だと聞いている。


「……ねえ、もしかして、センチネルのボスってテネーなの?」

「はい」


 あっさりとうなずかれた。

 でも、うん。

 それなら話は簡単なのかも知れない。

 つまり、テネーと話をつければ、私は平和を手に入れられるということだ。


「テネーに連絡はすぐに取れる?」

「申し訳ありません。神出鬼没な御方なので、すぐには……」

「すぐじゃなければ?」

「可能です」

「ならさ、伝言をお願いできるかな。12月の最初の日曜日に、実は日本の魔術師連中に挨拶をしようと思っているの。その時に、来てくれないかな? テネーとロジェンツさんと、あと来たいのなら他の魔術師の人たちも。私の力が見たいのならその時に見せてあげるよ。対決なんていうのもいいかもだね。私もそっちの力を見てみたいし」


 対決の場所ならいくらでもある。

 そう、異世界にね。

 キナーエの帯域であれば、誰にも迷惑はかからないし。

 我ながら名案だ。


 私は、すでに決まっている挨拶会場のホテル名と日時を伝えた。

 でも口頭だと、いまいち信頼性がないか。


「ごめん。ちょっと待ってて」


 転移。


 私はいったん、ハイネリスに戻った。


「おかえりなさいませ、マスター」

「うん。ただいま、カメキチ。ねえ、早速なんだけどさ、また招待状を作りたくて。お願いしてもいいかな?」

「はい。お任せください」


 そう、テネーに届ける招待状を作ろうと思ったのだ。

 口頭だけよりはいいよね。

 招待状自体は私も魔法で作れるのだけど、文面やデザインを含めると丸一日以上にかかるのでカメキチにお願いする。

 カメキチなら、あっという間に作ってくれるし。


「試合も兼ねたパーティーとは、懐かしいですね」

「そうなんだ?」

「前世のマスターもよく開催していましたよ。やはり、つながるものですね」

「そっかー。それは嬉しいねー。あと、そうだ。一通だけ豪華にしたいんだけど、どんな感じにすればいいんだろう?」

「相手は、どのような方なのですか?」

「私と対等の相手、かな」


 テネーは魔術世界のボスだというし、読まれもせずに捨てられないように、しっかりしたものにしたいところだ。


「マスターと対等とは、凄まじい相手ですね。それは神ですか?」

「神ではないかなぁ。でも異世界の権力者でオトモダチなんだよ」

「オトモダチですか。なるほどです。それでしたらやはり、招待状にマスターの魔力を込めるのがよろしいかと。あと特製の箱を用意されては」


 特製の箱は、大帝国時代にファーエイルさんが使っていた皇帝勅旨用のものがいいのではないかということでそうした。

 のだけど、対象以外が開けると死ぬということで、やめておいた。

 危険すぎる。


「では、木箱にミスリルで装飾をつけたものはいかがでしょうか? 贈り物の外装として大帝国時代には定番でしたよ」

「ミスリルかぁ。それくらいならいいかな」


 なにしろ以前に買った私のハルバードにも使われていた素材だ。

 貴重であるだけど、貴重すぎるものではない。


 早速、作ってもらった。


 招待状には私の魔力をたっぷりと込めて――。


「よし。これでいいね。テネーへの特別な招待状、完成」


 私はすぐにロジェンツさんのところに戻った。

 山奥の大きな岩の上だ。


「ごめんね、おまたせ。じゃあ、これをお願い。この箱はテネーにね」


 私は10枚の招待状とミスリルで装飾した木箱を渡した。


「畏まりました」


 ロジェンツさんは受け取ってくれた。

 受け取ってから、まじまじと木箱を見つめる。


「どうしたの?」

「いえ……。この箱の美しき輝きは……」

「あ、それはミスリルだよ」

「ミスリル……」

「うん。そうだけど、おかしい?」

「それは……。まさか、伝説に伝わる魔法金属の、ミスリルのことでしょうか……?」


 ふむ。これはアレか。

 もしかして私、また何かやっちゃいました、的な、アレかな。

 ハルバードを作ったのは異世界でのことであって、現代世界ではなかった。

 現代世界でのミスリルの価値を考慮していなかった。

 もしかして、とんでもなく貴重なものだったのかも知れない。

 でも、まあ、手遅れか。


「それはテネーへのものだからね。確実に渡してね」


 私は「平常心」を働かせて、澄まし顔で微笑んだ。

 特別なものだとしても、特別な相手に渡すのだから問題はないだろう。


「――畏まりました」


 ロジェンツさんは深くは追求せず、あらためてうなずいてくれた。

 よかった。

 というか、しかし……。


「ねえ、ロジェンツさん。貴方からは未だに敵意も邪悪な気配も感じないのだけど、いったいこれはどういうことなの?」


 私の家にまでわざわざ来ていた割には。

 今後、こうした敵が増えると困るので秘密があるのなら知りたいところだ。


「我が家は代々に渡って主より力と加護を授かっております。私も幼い頃から主に学び、力を得てきた身です。故に信頼をいただき、任務を仰せつかることも多いのです。今回の行為は敵意や邪悪な計画によるものではありません」

「ロジェンツさんは、世界でも屈指の魔術師なんだよね?」

「なればこそ、世界の理を超えた者の存在については、理解しているつもりです」

「なるほど」

「私からも聞いても?」

「なぁに?」

「できれば、お名前をお聞かせ願えれば、と」


 あー。

 そういえば、自己紹介すらしていなかった。


「ファーエイル・ザーナス。ファーでいいよ」

「では、ファー様。さらに聞いても?」

「いいよ。なぁに?」

「……ファー様は、我が主のオトモダチなのでしょうか?」


 やけに緊張感のある声で聞かれた。


「そうだね。友達だね」

「そうでしたか。なるほど、よくわかりました」

「わかってくれたのなら、それでいいよ。ともかくテネーに渡してね」

「はい。確かに」


 何をどうわかったのか。

 気にはなかったけど、そこはスルーすることにした。

 納得したのなら、それでいいしね。


「私、実はさ、まだこの世界の魔術師の魔術って、まともに見たことがないんだよね。どれくらいの力があるのか私も楽しみにさせてもらうね」

「……対決、でございますか?」

「試合ね。安心して、殺すことまではしないし、怪我をしても治してあげるから。気楽な気持ちで挑んできていいよ。あ、そうだな。こっちからは私以外も出そうかな。その方がちゃんとお互いの力を確かめられるよね」


 石木さんや時田さんも力試しがしたいだろうし。

 アンタンタラスさんやフレインも。

 みんな、そういうの好きそうだし。

 お試しでやってみて、好評なら「オトモダチ・パーティー」に取り入れるのもアリだ。


「こっちからは4人、私も含めれば5人か。だから、そっちも5人、試合ができるように準備をして当日は来てね」

「承知いたしました。その旨も伝えさせていただきます」


 私は従順なロジェンツさんの態度を見つつ、あらためて、ひとつのことを思った。

 しかし、そうか……。

 敵意や害意がなくとも、温厚に紳士的な態度が取れていても、東京半壊とかを計画しちゃう人間も世の中にはいるのか。

 そして、それは、私の危機感知には反応しない。

 私の関係者が巻き込まれない限りは、私にとっては他人事ということか。

 まあ、それはそうか。

 私は正直、今この瞬間にも世界中で起きている殺人や事件、あるいは以上の惨劇には、ほとんど関心を持っていない。

 まったくないわけではないけど、大変だねえと思う程度だ。

 まさに他人事だ。

 穢れなき世界、その言葉における世界とは、私の周囲のことでしかないのだ。

 なので私の危機感知の精度は、まさに正確なのだろう。

 それはスキルではなく、私の意識の問題だ。


「じゃあ、送るね。どこに飛べばいい?」

「できれば、先程の羽崎家に」

「えー。それは嫌だなー。できれば、このまま国に帰ってほしいんだけどー。最低でも宿泊先くらいにしてよー」

「いえ、あの……」

「どうしたの?」

「私の執事が、羽崎家には残ったままですので……」

「え。あ。そうだったんだ?」

「はい」


 ロジェンツさんには同行者がいたのか。

 気づかなかったよ。

 というわけで。

 私たちはいったん家に戻った。

 家では何事もなく、リアナとヒロがリビングでおしゃべりして、笑い合っていた。

 すっかり仲良しだ。

 パンネロさんとロジェンツさんの執事さんは壁側に立っていた。

 うーむ。

 やはり敵意がない相手だと、私は迂闊になるようだ。

 今度からは気をつけよう。









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