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170/190

170 ヨードルにて



「ひぃぃぃぃ! やめろ、やめるんだリアナぁぁぁぁ!」

「黙れ! このバカがぁぁぁ! アンタの、そのくだらない功名心のせいで! 人類国家の平和が崩れようとしているのに! なぁにが、私こそが新時代の英雄だ! アンタ、自分が何をやったのか本当にわかっていないのかぁぁぁ! アンタのやったことは、今まで人類世界を支えてきた聖女様と勇者の間に、亀裂を入れたことなのよ! 万死! その罪はまさに万死よ! だからここで死になさいアンタはあぁぁぁ!」


 はい。

 えー。


 今、私の目の前では、清廉たる聖女の衣服に身を包んだ新時代の聖女リアナ様が……。

 新時代の英雄を名乗る男爵家のボンボンに……。

 殴る蹴るの暴行を加えております……。


 正直、私はけっこうドン引きして、その様子を見ております。


 まわりにはボンボンことアドラスの部下もいて、止めようとする者もいるのですが……。

 そうすると、リアナの怒気は部下にも向いて……。


「アンタたちもわかってるの!? 領主たるボイド男爵が不在の間に、メルフィーナ様の意向を完全に無視するようなことをして! ネスティア王国もボイド男爵も、それからアステール侯爵家もメルフィーナ様の側に付いているというのに! アンタたちは、この新時代の英雄様を頭に据えて反乱でもするつもりなのかしら!? 勇者オーリーとは、どんな密約を交わしたのか、ぜひ聞かせてほしいところね!」


「い、いえ……。密約など決して……」

「そうです! 少なくとも我々は何も知らされておりませんので!」


 少なくとも部下の中に、この場でリアナを捕虜にして、アドラスと独立するまでの覚悟を決めている者はいないようだった。

 敵対反応ない。

 なのでもしかしたら、本当に誰もそこまでは考えていなくて、リアナの言葉は寝耳に水だったのかも知れない。

 だとすれば逆にすごいけど。


「……本当に、どういうことなのかしら」


 リアナも呆れ返っていた。


 というわけで。


 私とリアナは北の城郭都市ヨードルに来ています。


 すぐにアドラスとの面会は叶って、リアナが激怒して今に至ります。

 アドラスはね、うん。

 大いに予測はできていたのだけど、堂々と大威張りで今回の功績を誇ったのでした。

 アドラスの語りには誇張もあっただろうけど……。

 ただ、事実として……。

 アドラスこそが、勇者オーリーに手紙を送って、勇者オーリーに公開処刑の実行を決意させた犯人であることは間違いなさそうだった。


 まったく、ね。


 シータについては助けられたからまだよかったけど……。

 本当にロクでもないことをしてくれたものだ。


「で、アンタたちはこれからどうするの? 教えてあげるけど、公開処刑はとっくに失敗して、女の子は保護されたわよ。勇者オーリーとその仲間たちは真の勇者の怒りを買って、公の場で拘束されたわよ。多分、残念だけど、彼らは失脚でしょうね」

「そんなバカな……。それは本当なのですか……」

「遠からずここにも情報は届くと思うから、その時に精査すればいいわ。身の振り方は今の内から考えておくことね」


 そこまで言うとリアナは、髪をさらりと手で流して、


「さあ、行きましょう、カナタ」

「え。あ。うん」


 私を連れて、アドラスの執務室から颯爽と出ていくのでした。

 私たちはすぐに屋敷からも出た。

 追いかけてこられるのも面倒なので、そのまま走って大通りにまで入ってしまう。


 ヨーデルの大通りは、何事もなく賑わっていた。

 今日もいつも通りの様子だ。


「あーすっきりした! どうだった、私? 連中の肝を冷やせたと思う?」


 足取りを緩めて、リアナは背伸びをする。


「思う思う。すごかったよ」


 いや、うん。

 ホントに。


 勇者一行の結末を聞いた時のアドラスの顔は、実に素晴らしかった。

 これで少なくとも、さらに余計なことをしようとはしないだろう。


「でも、実際のところ、公開処刑の後はどうなったのかなぁ……」

「見に行くことはしないの?」

「んー。なんとなくねえ、気が重くてさぁ……」

「なんなら、王都のお父様たちのところに飛んで聞いてみる? 王都になら、もう情報が届いているかも知れないわ」

「んー……。そうだなぁ……」

「国王陛下にも紹介してあげようか? 私、こう見えて顔が利くのよっ!」

「正直に言うとね」

「うん。なぁに?」

「私、難しいことは、まったくわからないの」

「ファーが? ファーなのに?」

「うん」


 だから話を聞いても、何をどうすればいいのかわからないことは確実だ。

 そういうのは、王様とかにすべて任せておきたい。

 メルフィーナさんの意向を汲んでくれているなら、悪いことにはならないだろうし。


 私は正直にそのあたりのことを告げた。


「あはは。またまたー」


 リアナには、なぜか笑われたけど。


「あ、わかった! そっか! そういうことねっ!」


 それどころか何かを理解された!


「え。うん。なにが……?」


 私はおそるおそる聞いてみた。


「人族のことは人族で、なのよね」

「うん! そうかも! やっぱり自分たちのことは自分たちで決めないとね!」


 よかった!

 勘違い系ではなかった!


 私は全力で乗った!


「わかったわ。帰ったら国王陛下やお父様たちと相談してみるわね。メルフィーナ様とも連絡が取れればいいけど」

「メルフィーナさんって、今は神聖国にはいないんだよね?」

「ええ。各国を回って、今度のパーティーへの参加を要人に説いているわ」

「私、なんか悪いことをさせちゃってるねえ……」


 ありがたことではあるけど、メルフィーナさんが神都にさえいれば、勇者オーリーが暴走することもなかっただろうし。


「でも、世界の運命を決める大切なパーティーに私たちが参加しないなんてダメよね。それこそ運命も未来も自分で捨てることになるでしょ」

「そこまでのものではないけどね。ただのオトモダチ・パーティーだし」

「ええ。わかってる」


 わかってくれているならいいけど……。


「それより、ファー。さっきの謎のバケモノのことだけどさ」

「え。あ。うん」

「世界の外側って、もしかしてダンジョンのこと? だからファーは遊ぶって名目でダンジョンを調べに来たのかしら?」

「なるほど、ダンジョンかぁ……」


 言われてみれば、たしカニ。

 カニカニ。

 ダンジョンって亜空間で、外の世界とつなぐにはもって来いな気もする。


「あの男も、ダンジョンに潜って、何かを見つけて、おかしくなったとか。どう?」

「……それはあるかも」


 考えて私は納得した。

 実際、あの男の凶行は単発のものに感じられたし。











目標の1000ポイント、達成できました!

ありがとうございます!

ついに念願の4桁になれて感動なのであります\(^o^)/

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― 新着の感想 ―
ポイント1000越えおめ この作品にカナタの理解者(カナタは考えなしだと理解している人)はいないのか? 別作品のクウには理解者(クウはノリで生きている能天気だと理解している人)が何人もいるのに
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