169 リアナとの会話
私とリアナは、立ち話もなんなので、ということで、門の脇にある兵士詰め所の応接室を借りてお話をすることにした。
門のまわりは先程の騒ぎもあってピリピリしていたけど――。
本当に幸いなことに今は落ち着いていた。
外に住む人たちも、リアナの声に従ってくれたし。
男のことについては大至急で兵士たちが調べることになった。
いったい、どこの誰だったのか。
破れた衣服しか手がかりがなくなってしまったのが難点だけど、なんとか頑張って素性を明らかにしてほしいところだ。
私が魔力や敵意で感知する限り、関連組織みたいなものはなさそうだけど。
ともかく落ち着いたところで……。
私はまず、どうしてシータが公開処刑なんてことになったのか知っているなら教えてほしいとリアナにお願いした。
「実はね、本当に申し訳ない話なんだけど、シータという子の公開処刑は神聖国の勇者オーリーと私の親戚のアドラスが画策したことなの」
「アドラスってボイド男爵の息子だよね? 兵士を率いていたボンボンの」
「そ。今はボイド男爵も王都にいてね、ヨードルはあいつが仕切っているのよ。今回の件はあいつの独断なのよ。あいつ、メルフィーナ様の顔に泥を塗るような真似をして、許せないから私は文句を言いに来たのよ! ファー、これは信じてほしいんだけど、ファーのパーティーに参加したい人間は多いんだからね? 私もお父様も国王陛下だって」
「うん。ありがとう。わかってる」
「……まあ、もっともあいつの場合、勇者と違って大義なんてなくて、単に功績がほしかっただけなんだろうけど」
「私たちのことも逃がしちゃったしねえ」
アドラスはジルを捕らえようとしていた現場指揮官だった。
なのにみすみす逃がして、あれは大失態だったことだろう。
「そのことも、もちろん、あるだろうけど……。それ以前に、あいつ、まともに仕事ができていなくて影で笑われていてね。焦っていたんでしょうね」
「それは、尚更悪いことをしたねえ……」
「ほら、私がさ、超有能で通ってたでしょ。『未来視』の子として。実は、すっごい比較されていたみたいでさぁ……。私も悪いことをしたとは思うんだけどね……」
「あはは……」
リアナの『未来視』は、嘘だったわけだしね。
もっとその嘘は、実は無意識の発現だったのかも知れないけど。
なにしろリアナには光の力がある。
今はまだ、完全には開花していないけど。
「だけど今回のことは別! 公開処刑なんてメルフィーナ様が厳禁していたことなのに! 絶対に許せないわ!」
「勇者の方はどうなの?」
「勇者オーリーは、ね……。ずっとメルフィーナ様の右腕として活躍していたのに、最近では完全に仲違いしているみたいで、メルフィーナ様も心を痛めていたわ……」
「メルフィーナさんが裏切ったから、怒っているとかなの?」
「そうね。向こうからすれば、まさに手のひらを返したのは――って! 違うでしょ! ファーが言うセリフじゃないわよ、それは!」
「それもそうか。ごめんね」
たしカニでした。
カニカニ。
なにしろパーティーを開くのは私でした。
「ねえ、ファー。私たちは、みんなで新しい時代を作るのよね」
「そうなんだ?」
「だーかーらー! どうして当事者どころか主役のアンタが他人事なの! ファーエイル・ザーナス陛下なのよね? と、あ」
「どうしたの?」
「そうだったわよね……。ザーナス陛下って呼ばなきゃ」
「やめてねっ! 私、ホントに陛下とかじゃないから!」
「……そうなの?」
疑わしそうな目を向けられた。
「オトモダチにそんな呼ばれ方をしたら私は泣きます。普通にファーでいいから。少なくとも、こういう場ではさ」
「わかった。なら、そうする。友達だものねっ!」
「うん! そう!」
それに私が目指しているのは、オトモダチ・パーティーなのです。
新しい時代ではないのです。
まあ、うん。
とはいえ、みんながパーティーをきっかけに仲良くなってくれればいいかなぁ……。
とは、本当のことを言えば、思ってもいるのですが。
「ともかく勇者オーリーは魔族殲滅の主流派なの。魔族との共存なんて有り得い、ってね。人族では未だにそちらの意見も強いから。――ねえ、ファー」
「うん。なぁに?」
「……魔族の方は、私たち人間との共存を望んでくれているのよね?」
「さあ」
「さあって」
思いっきり呆れた顔をされた。
「いや、うん。だって私、ウルミアとジル以外の魔王とは会ったこともないし……」
「会いなさいよね!? 陛下じゃなくても、伝説の大魔王なのよね!?」
「と言われても……」
困るというものだ。
いきなり出向いて、おい出てこい、とかなんて失礼だろうし。
それこそパーティーで会えばいいよね……。
「あ、でも、魔族の側にもメルフィーナさんみたいなヒトがいてね、そのヒトが魔王に声をかけてくれているから、きっと上手くいくと思うよ」
そう。
思い出したけど、魔王のことはアンタンタラスさんにお願いしてあるのだった。
「そっか。なら私も頑張らないとね。これからすぐにヨードルに行って、アドラスに囚人の返還請求を書かせて、私が神聖国に乗り込んでやるわ!」
「え」
「ん?」
そういえば、まだ最新情報を伝えていなかった。
私はシータをすでに助けて、今は異世界で保護していることを伝えた。
「そうなんだぁ……。それはよかったわ。ホッとした。でもそれだと、神聖国は今頃どんな騒ぎになっているんでしょうね」
「どうなんだろうね……」
「光の力で、勇者オーリーとかも全員、拘束したのよね?」
「うん。さすがに闇の力は使わなかったよ」
「それだとすごいことになっていそうね。本当の光の化身が現れた、とか」
「化身の話って、まだ続いてるんだ?」
「いいえ。おわったことだけどね。それにしても、もう公開処刑が行われただなんて。いくらなんでも早すぎるわ。普通に考えれば、即座に実行なんてできるわけがないのに」
「そうなんだ?」
「そういう野蛮な行為はメルフィーナ様が禁止されているの。勇者オーリーはメルフィーナ様の意向を無視して強行したのね。悲しいわよね。メルフィーナ様と勇者オーリーは、ずっと一緒に戦ってきたのに」
ここでドアがノックされた。
現れたのは、リアナのメイドのパンネロさんだった。
ヨードルへ向かう早馬の準備ができたという。
「ファーも来るでしょ? て、あ、そっか。ファーなら」
「うん。転移魔法で行こう」
「ありがとう。お願いするわ。ともかくアドラスには文句を言ってやるんだから!」
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