166 まっとうな道
正直、やる気をなくしました。
こんにちは、敗北者です。
ふと時計を見れば、すでに午後1時を過ぎていたのだけど、私は未だにベッドから起きることなく布団の中にいた。
目は覚めているけど、なんかね、動く気が起きないのです。
なにしろコメント0の女ですし。おすし。
スマホを見れば、石木さんや時田さんから定時連絡のようなものが入っていて……。
さらにはパラディンから、シータと上手くやっているという報告と共に、定食屋で撮った写真が送られて来ていた。
いったい、何を返信しろというのか。
負けました、とでも言えばいいのか。
むなしい。のです。
私はスマホを切った。
寝よ。
すやー。
そして、気づけば夜でした。
トントントン。
ドアがノックされて、
『お姉ちゃん、いる? 夕食だけど、どうする?』
「食べるぅ……」
お腹はすっかり減っていた。
私は頑張って身を起こして、部屋から出た。
すると廊下でヒロが待っていてくれた。
「今日は1日寝ていたの?」
「うん。そう」
ふぁぁぁぁ、なのにあくびがこぼれる。
「そっか。また大変だったんだよね、異世界から女の子が来ているんだよね?」
「あー、ごめんねえ……。ヒロにも言わないととは思っていたけど……。あ、もしかして、昨日の夜の配信を見たの?」
「ううん。昨日の夜は期末テストの勉強をしていたから」
「そっかぁ。大変だねえ」
もう期末テストの季節なのか。
早いものだ。
シータのことは、今日、パラディンからのメッセージで知ったそうだ。
「その子って、私やクルミも遊んで平気なのかな?」
「うん。いいよー。できれば仲良くしてあげてほしいかなぁ」
むしろパラディンより、ヒロやクルミちゃんだよね、友達になるとすれば普通は。
「ありがとう。ねえ、それなら次の日曜はどうかな?」
「いいけど、いいの? テスト勉強とか」
「1日くらいは平気だよ。クルミとパラディンさんに伝えちゃってもいい?」
ふむう。
私は寝ぼけ眼をこすりつつ、ちらりとヒロの顔を見た。
ヒロの様子は普通だ。
嫉妬でライバルのことを知らねば、とか、必死になっている様子はない。
私は快く、シータと遊ぶことを了承した。
どうやら本当に、ヒロのパラディン熱は覚めたのかも知れない。
だとすれば素晴らしい。
ヒロの未来は明るいね。
と思ったら……。
「ねえ、お姉ちゃん。ところで、ファーさんソックリの男の子っていた?」
「え。あ。ううん」
「そういう話は、やっぱりないのかな?」
「い、今のところはないかなぁ……」
「そっかぁ」
がっくりされたぁぁぁ!
それは私です、とは、今さら言えないぃぃぃ!
しかし、うん……。
私は夕食をいただきつつ、思った。
これは本気でなんとかせねば……。
こういうのは、これ以上、誤魔化してもいいことはない……。
というわけで。
決意するのに一晩かかってしまいましたが……。
翌朝。
制服姿でいつものように家を出て、自転車に乗りかけたヒロのことを捕まえて、いつものダム湖のほとりに飛んだのでした。
「急にどうしたの、お姉ちゃん? 今度は何があったの? カナタの時には、魔法なんて使わない方がいいと思うけど……」
「実はね、その、ごめんね。なかなか言い出せなくて遅くなっちゃったけど……」
私はいったん、背中を向けて。
それから青年姿になって。
くるりと表を向いて、
「実はね、ごめんね、こういうことなの」
青年姿で謝りました。
ヒロはそんな私をしばらくポカンと見た後……。
額に手を当てて、天を仰いで……。
「あー。そっかー。似ているとは思ったけど、そうだったかぁ……」
「ごめんね。ホント。ほら、あの時、ヒロが困ってると思ってね、でも女の子だとナメられちゃうかなぁと思って」
「私、アレかぁ。実は気づかなかったけど、とんでもないお姉ちゃんっ子だったのかぁ。お姉ちゃんに憧れて夢中になって、と思ったら……。今度はよりにもよって、……なんてさぁ。あは。あはは。あははははははは……」
あああっ!
ヒロが壊れかけているぅぅぅ!
「ごめんね、ホント! でも、ファーな私は本当の私だから安心して!? ちゃんとここにいる本物だからっ!」
ファーの姿に戻って、私はあたふたした!
ヒロはすぐに落ち着いた。
ふうと息を吐くと、清々しい笑顔で私にこう言った。
「ごめんね。家に戻してもらってもいいかな? 学校、行かないと」
「お、送ろうか……?」
転移すれば一瞬だし。
「ううん。帰りもあるし、普通に自転車で行くよ」
私は素直に自宅に転移しました。
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃい」
自転車に乗って通学するヒロを、私は笑顔で見送った。
ヒロの姿はやがて見えなくなる。
「ふううう……。よかったぁ……」
キチンと許してもらえたかは謎だけど、とにかく銀髪青年のことを説明できてよかった。
これでヒロは、きっと、まっとうな道に戻ってくれることだろう。
朝から疲れた。
私は部屋に戻って、ベッドにもぐった。
寝よ。
と思ったのだけど、やっぱり起きることにした。
「まっとうな道かぁ……。だよねえ……」
現実逃避していても仕方がない。
私が寝ている間も、時間は過ぎていくのだ。
それにやっぱり、やれることは、ちゃんとやった方がいい。
またシータの時みたいに後悔したくはないし。
私は異世界に飛んで、まずはリアナを探してみようと思った。




