162 空での出会い
パラディンとシータを東京に送って、私は1人になる。
2人のことはまだまだ心配だけど、さすがに私も笑顔を見せる限界だった。
そう――。
私の内心は、とても暗かった。
私はシータを助ける時、他に何もできなかった。
勇者にも神官たちにも。
何より群衆たちに。
私は何かを語るべきだったのだ。
でも、できなかった。
だって、何を語ればいいのか、それがまるでわからなかったから。
私は1人、空の上に浮かんだ。
東京の空は青い。
快晴だ。
異世界の空は、今にも雨が降りそうだったのに。
「公開処刑、か……」
シータの処刑は、完全に見世物だった。
酷いことだと思う。
ただ会場には、それどころか神都には、メルフィーナさんの姿がなかった。
公開処刑はメルフィーナさん抜きで行われていたのだ。
それはいったい、どういうことなのか。
いや、なんとなくはわかる。
勇者たちは、魔族と徹底的に戦いたいのだ。
それで世論形成のために、おそらくメルフィーナさんの不在の時を狙って、シータを裏切り者として処断しようとしたのだ。
さらには私の首も狙って。
正直、あの程度の罠で、私を拘束できるわけがないのにね……。
それに私は闇属性とは言っても、光属性も自在に使いこなせる。
光属性では弱点ではないのだ。
だから、闇の化身とは言っても純粋な闇ではない、という意味を込めて、最後は光の力で縛らせてもらったけど。
あの時にも私は何か言うべきだった。
私がもっと饒舌なら、何かを変えることができたのかも知れない。
でも、できなかった。
私には何も思いつかなかった。
いったい、どうすれば、みんなで仲良く暮らせる、そんな世界の素晴らしさを――。
そんな理想を――。
現実の中で、みんなに訴えることができるのだろうか。
どんな言葉があれば、いいんだろうか。
わからないや。
「私、配信者なのにね……。失格だよね、これじゃ……」
私は目を閉じて、空の中、陽射しに身を任せた。
いっそこのまま溶けてしまいたい。
そんな風にも思った。
それは、そんな中でのことだった。
ツンツン。
ツンツン。
なにやら肩に感触を覚えた。
なんだろ。
鳥に突かれているのかな。
私はそんな風に思って、最初は相手にしなかった。
ツンツン。
ツンツン。
だけど、けっこうしつこく突かれたので、仕方なく目を開けて、そちらを見て――。
「え」
素直に驚いた。
だってそこにいたのは、同い年くらいの女の子だったから。
ここは青空の中。
東京の上空。
歩いて来れる場所では決してないのに。
その子は、雲みたいにふんわりとした白い服を着ていて、長い髪は陽射しに溶けているかのような金色で、瞳は空を透かしているかのように青い。
それはまるで、闇な私とは真逆の、光のような子だった。




