155 パラディンと異世界に
「ひゃっはー! 今日はやってるやるぜ! 俺は今、猛烈にやる気全開だぜ! しかもこれがあれば今日は俺も会話できるんだよな!?」
「まあね」
「楽しみだぜー! もちろん、お姉様との異世界デートを楽しむのが一番だけどな! わかってるわかってる安心してくれ!」
「テートではありません。断じて絶対に。今回はヒロに頼まれたので、仕方なく特別に同行を許しているだけです」
「おう。今の嘘です。ジョークです。いえす! まい・うぇい!」
というわけで。
翌日。
私は仕方なくパラディンを異世界に誘った。
東京のいつもの公園で合流して、これから『テレポート』するところだ。
パラディンは死ぬほど上機嫌だった。
まったくね。
早くも私は疲れている。
すでにファーの姿にはなっているので、パラディンに気後れすることはないけど。
「あーしかし、早く異世界人と会話してみてーなー!」
パラディンには、すでに翻訳の指輪を貸してある。ハイネリスでカメキチに作ってもらった魔道具のひとつだ。
本来は、時田さんとアーシャさん、それにリアナのために作ったもので、パラディンの使用は考えてもいなかったんだけど。
まさか、最初に貸すハメになるとは……。
「あと、はいこれ」
「うお!?」
「剣。パラディンなんだから、一応、持ってなさい。勇者の聖剣のレプリカだから、人間相手なら少しは強がれると思うよ」
「お、おう……」
私はパラディンに、剣入りの鞘とベルトを渡した。
パラディンに剣がまともに振れるわけはないけど、万が一、私と離れて1人になったところを襲われたら大変だ。
聖剣って権威がありそうだし、抜くだけで助かる可能性もあるだろう。
というか、うん。
相手がどんな反応を示すか興味がある。
パラディンなら、実験に使うのにちょうどいいよねっ!
問題なしっ!
「で、今日はファルシのスクレちゃんには会えるのか?」
「会えません。別の町です」
「なら、別の出会いだな!」
なんて前向きな。
というか、軽い。
まあ、うん、それは十分に知っていたけれど。
今日、私が行くのは城郭都市ヨードル。
王都ではない。
ヨードルは、一斉討伐の時にジルを逃がして以来、ずっと避けてい場所だ。
だけど今回、オトモダチ・パーティーを開くに当たって、できればシータには招待状を渡して参加してほしい。
なので、今日は探しに行くのだ。
シータは逃亡中だろうし、見つかるかはわからないんだけどね……。
残念ながらシータとは、ヒロのように個別指定できるほどの関係にはなっていないし。
「さて、と。私は変装するから、見失わないでね」
私の銀色の髪を茶色に変えた。
「お姉様は確か、人間の国では犯罪者なんだっけか?」
「そ。今は国を揺るがす大罪人」
「へー。さすがー」
「少しは怖がってくれてもいいよ?」
「わはは! そんなんで怖がってたら、お姉様どころか、時田や石木、それにアーシャとなんて付き合えねえだろうさ」
「まあね」
まったく、この度胸だけは認めるところだ。
「アンタがどこまで知っているのかは知らないけど、一応、言っておくね。今、名前の出てきた中に人間は1人もいないからね?」
「へ? 人間って? 魔法使いなんだよな?」
「違う。時田さんと石木さんは魔人と呼ばれる純粋な魔族で、アーシャさんは吸血鬼」
「お姉様は?」
「私は闇の化身」
「闇?」
「そ」
「へー」
それだけかよ! とツッコミかけて、やめた。
なぜならパラディンが、
「お姉様、俺は本気だからな! 俺は本気で仲間になる! 任せてくれって!
何でも言ってくれよ! 何でもやってやる!」
とか、力説したからだ。
「はいはい」
私は受け流したけど。
当然ながらパラディンを相手に、え、今何でもって? とかやるつもりはない。
まあ、うん。
現実的には仲間だと言えば仲間なのだろうけどね……。
ヒロが贔屓にしているし……。
これから再び異世界に連れて行くわけだし。
ただ、ハイテンションがウザすぎて、私的には否定したくもなるのです。
さて。
ともかく準備は完了。
「じゃあ、行くよ。私のそばから離れないでね」
「おう!」
転移!
私たちはサクッと、城郭都市ヨードルの郊外に到着したのでした。
「おおおおおー! 久しぶりの異世界だー! やったぜー!」
感動したパラディンが大声を出す。
すると、目の前にあったお店の扉が開いて、
「なんっすか。うるさいっすね。知らないものは知らないと何度言ったら――。って」
そんな風にぼやきながら――。
頭にバンダナを巻いた猫人族の少女、見習い職人のミミさんが現れた。
「おおおおお! 猫耳少女ー! やったぜええええ!」
感動したパラディンがさらに大声を上げた。
スクナさんの時といい、どれだけ猫耳が好きなんだ。
「ちょ! まさかファーさんっすか!? いや、ファーさんっすよね……?」
驚いて目を見開いた後、声を潜めてミミさんが質問してくる。
「う、うん……。変装、バレちゃったかな?」
「バレるも何も髪の色を変えただけじゃないっすかぁ……。一目でわかったっすよ。変装になっていないっすよお……」
「あはは。そっかー」
髪の色だけではダメだったかぁ。
不覚です。
「とにかく誰かが来る前に中に入るっすよ! 見つかったら大変っすよ!」
私たちはミミさんに引っ張られて――。
武具屋マリスに入った。
やっぱり私は、大いに指名手配されているようだ。




