154 会社設立!
こんにちは、カナタです。
今日は秋の某日。
私はついに、自分の会社のオフィスに来てしまいました。
「……えっと、本当にここなの?」
「はい。もちろんです」
「そっかぁ。すごいね」
そこは、感嘆の声が漏れるくらいに綺麗に整った、ドラマに出てきそうな空間でした。
となりの時田さんに確認を取っても、冗談との言葉は出てこなかった。
なので本当なのだろう。
実際、飾られたプレートにはこう会社名が刻まれていた。
株式会社ハムエッグ・プラス
私がつけました。
我ながら意味不明です。
いったい、なんの会社なのかわけがわかりません。
普通の人は惣菜パンの会社だと思うのでしょうか。
もちろん違いますが。
そして、プラスとは何なのか。
わかりません。
いえ、わかります。
それは朝、お母さんがハムエッグを作ってくれて、私のお皿にハムを追加してくれたので思いついた名前なのです。
まさにプラスだったのです。
ちなみにハムエッグ・プラスは、異世界の魔石から魔道具を作って、魔術世界に超高値で販売するためのダミー会社です。
表面的には、アンティーク売買の会社として稼働するそうです。
なんか、うん。
それだけ聞くと、まさに違法業者ですが……。
そこはそれ、そもそも魔術世界が社会の表に出るものではなく、しかし太古の時代から世界には存在していて――。
世界の支配者層とも深くつながっていて――。
魔道具の流通システムはすでに出来上がっていて――。
裏的には合法で問題はないそうです。
「さあ、こちらへどうぞ。ハムエッグ・プラスの本体、魔術工房へご案内します」
時田さんの案内で私はオフィスの奥の扉に入った。
ちなみに石木さんが一緒にいる。
あと、吸血鬼のアーシャさんと政治家の根本さんも来ていた。
2人は異世界ツアーの参加メンバーで、私の正体を知っている数少ない人間だ。
アーシャさんはうちの社員。根本さんについては、事前に同行させてもいいかと聞かれたので許可を出しておいた。
ちなみにアーシャさんは、当初、異世界への転居を希望していたけど、現代世界もいろいろと面白くなってきたとのことで――。
当面は、この会社を中心に日本で暮らしていくそうだ。
奥の扉の中は、セキュリティールームになっていた。
人体照合で扉を開けて、さらに奥に進む。
するとその先には、学校の教室ほどの窓のない密室があった。
いろいろな道具が置かれていて――。
まさに研究所といった雰囲気がある。
「ファーさん、お久しぶりですー! どうもですー!」
工房には、なぜかヨヨピーナさんがいた。
私が入ると笑顔で手を振ってきた。
「あ、どうも」
私はペコリとお辞儀した。
ちなみにスキル「平常心」はつけていない。
平時はできるだけ素のままの私でいて、私としてちゃんと行動できるように頑張ろうと思っているのです。
ヨヨピーナさんは作業着姿だった。
作業台の椅子に座って、たくさんの工具を使って、木製の何かを組み立てていた。
何か、というか、魔道具か。
微弱ながらも風の魔力反応があわるのでわかる。
「それって、幻影を作る魔道具?」
「さすがはファーさん。一目でわかるとは。大正解のその通りです」
「ヨヨピーナさんが作ってるんだ……?」
ものすごく意外なことに。
「私、これでもハムエッグ・プラスの社員ですからね! あれ、ですよね?」
「あ、うん。そうだね」
ヨヨピーナさんの会社入りは以前に私が許可した。
なのでそれは事実だ。
「今のところ僕と時田に加えて、ヨヨピーナとアーシャが魔道具の制作には関わっています。工房に入れるのもこの4人だけです。無論、当然ながら陛下もですが」
石木さんが教えてくれた。
私はちらりと政治家の根本さんに目を向けた。
すると笑って言われた。
「いやあ、実は私も、ここに入るのは始めてなのですよ。今まで頼んでも、頑なに見せてすらもらえなくてですね。陛下の許可を頂いて、ようやく入れた次第です。思ったよりも普通というか工作教室のようで驚いているところです」
根本さんは相変わらず物腰が柔らかくて謙虚で、悪い印象はない。
まあ、うん。
まだ30代なのに閣僚入りすらネットのニュースに流れてくるやり手の政治家だし、油断は禁物だろうけど。
「魔石の加工さえ済ませれば、魔道具の制作自体はそれほど難しいものではないからな。もちろん手先の器用さは必要だが」
時田さんが言うと、ヨヨピーナさんが声をかけてきた。
「ファーさん、ぜひ私の作品を見て下さいよ! 自信ありますよ!」
「彼女については収穫でした。最初は、ただの組み立て要員で考えていたのですが」
石木さんはヨヨピーナさんを認めているようだ。
見せてもらったけど、ヨヨピーナさんが作っていた木製のランタンのようなものは、確かにまさに工芸品だった。
私が素直にほめると、自信満々に、
「伊達に日本中の、いえ、世界中の神秘を探っていたわけではありませんからね。模様や記号は自分でも再現しまくってきたので。ペンダントや置き物なんかは、今までにも動画でたくさん作ってきたんですよ」
とのことだった。
ホント、好きなことをどこまでも突き詰められる人ってすごいね。
私は大いに感心するのでした。
「陛下ー、私の作った魔道具も見てほしいのー。私も自信はあるわー。伊達に長い年月を生きてきたわけではないからー」
「アーシャのガラス細工はたいしたものですよ」
「へえ」
こちらも見せてもらったけど、本当に綺麗で繊細だった。
みんな、すごいね……。
「ねえ、私も試しに作ってみてもいいかな?」
見れば粘土もある。
粘土くらいなら、私にもできそうだ。
「もちろんです。どうぞ」
時田さんに許可をもらって、では、早速。
こねこね。
ぺたぺた。
そして、活性化させた闇の魔石を埋め込んで――と。
「できたー! 邪神像ー!」
はい。
いえ。
邪神像なんて、作りたかったわけではないんです。
謎のオブジェにしかなりませんでしたぁ。
ただ、その反面……。
「こ、これは……!」
「なんという膨大な闇の力の発生機……!」
時田さんと石木さんが戦慄して、
「ああ……。心と体が安らぐわー。これは大いなる癒しの魔道具なのー」
アーシャさんがうっとりして、
「ファーさん……。な、なんか胸が重くて苦しいんですけど……」
「そ、そうですな……。これは呪ですかな……?」
ヨヨピーナさんと根本さんには害だったようだ。
私は急いで魔石を外してアイテムBOXに入れた。
謎の邪神像は、無害な謎の邪神像になりました。
邪神像は、時田さんと石木さんとアーシャさんが競ってほしがったけど、ぐしゃりと潰して粘土に戻しましたとも。
私、黒歴史は残さない主義なのです。
「そういえば、パラディンは?」
ふと気づいて、私はたずねた。
パラディンもこの会社には関わっている。
出資していたはずだけど。
「もちろん連絡などしていませんが――。申し訳ありません。ヤツも必要でしたか?」
時田さんが言う。
「あ、ううん。ごめん、いらないよね。いらないいらない。あははー」
正直、邪魔だし。
と私は本音で思ったのだけど――。
その夜。
おうちのPCで、なんとなくパラディンの配信に行ってみると……。
最近、仲間外れにされている件について。
というタイトルで、お酒を飲みながら泣いていた……。
えー。
私はドン引きしたけど、まあ、うん、仕方がないから何かには誘おう……。
仲間外れはよくないよね……。
翌朝、ヒロからもお願いされてしまったし……。




