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148 キナーエの統治について




「なるほど、手紙ですか。それはよいですね。ところで返信先はどちらにされたのですか? 異世界の自宅の住所をお知らせに?」

「え。あ」


 しまった。手紙に返信先を書き忘れた。

 こんにちは、ファーです。

 私は今、ハイネリスの自室で、カメキチと平和な時間を過ごしていたのですが――。

 先日の手紙について、恐ろしいミスに気づいてしまいました。


 と、私は絶望しかけたのですが。


「まあ、不要ですか。マスターから行くのですよね」

「あ、うん。そうだね。あはは」

「その際は、どちらに行かれるのですか?」


 結局、ダメでした。

 どこに行けば挨拶できるんだろうね、私。


 と、絶望していると――。


 時田さんからメッセージアプリで連絡が来た。

 内容は、なんとタイムリーなことに日本の魔術師たちのことだった。

 私からの手紙は時田さんも読んだらしい。

 私はびっくりしたけど、時田さんもまた『スカラ・センチネル』という魔術結社に所属する正規の魔術師なのだった。

 で、時田さんが、うまいこと話をまとめてくれたそうだ。

 さすが頼りになる。


 ――挨拶の日時と場所はいかが致しましょうか?


 んー。どうしようか。

 直近すぎるのは失礼だろうし、私の心の準備もあるし、少し先の方がいいかな……。


 ――12月最初の日曜日でお願いします。午後2時。場所はお任せします。


 ――わかりました。手配します。


 ほんの30分ほどで、時田さんは場所を決めてくれた。

 東京にある高級ホテルのホールだった。


「よかったですね、マスター。楽しい挨拶ができるとよいですね」

「ありがとう、カメキチ。私、頑張るね。できれば日本の魔術師さんもオトモダチ・パーティーにも誘えるように」


 さて、次は石木さんとの面会だ。


 今日は石木さんをハイネリスに招いて、カメキチと共に、これからキナーエをどう統治していくかの相談を行う。

 石木さんには、キナーエの管理をお任せする予定なのだ。

 私の頭脳では無理だしね。


 いつもの待ち合わせ場所、東京某所の公園に行くと、すでに石木さんは来ていた。

 すぐに転移。

 ハイネリスの私の部屋に戻った。


「こちら、お土産です。ちょうど売っているのを見かけまして、よければと思い」

「うわぁ! ありがとう!」


 テーブルに置いてくれるのは、超美味しそうなスイーツ。

 さすが、出来る男は違う。

 メイドロボに紅茶を淹れてもらって、美味しくいただきつつ会議を始める。


 カメキチがテーブルの上にスクリーンを出してくれた。

 そこにはキナーエの俯瞰図が映る。


 さて。

 では、あらためて。


「ファー様、その前にお願いしたきことが」

「うん。なぁに?」


 何かと思えば、日本での魔術師さんたちとの挨拶会に、石木さんも是非参加させてほしいとのことだった。

 時田さんから連絡が来たらしい。


「……石木さん、今までずっと隠れていたんだよね? いいの?」

「はい。陛下がいよいよ世に出るという時に、私が隠遁してはいられませんので」

「あはは。世に出るって大げさだなー」


 ただ挨拶するだけなのに。

 こんにちは、って。

 同席については、快く了承しておいた。


 さてさて。

 ではでは。


 今度こそキナーエの話を始めよう。

 まずは最初に私が、先日に整地した場所にペンで丸を打った。

 カメキチの投影するスクリーンには、スマオのお絵かきの要領で簡単に線を引いたりすることができるのだ。


「とりあえず、人の住めそうな環境のいい島として、こことここは、もう整地して――。竜の岩島も安全地帯にしたんだけど……。これから先、キナーエを安全に統治していくには、あとはどうすればいいと思う?」

「まず確認ですが、ファー様は、キナーエの島々を魔法的に結ぶ空間の歪みについては除去されない方向なのですよね?」

「うん。それは消さない方がいいと思う」


 島から島へと自動的に渡れるのは、とても便利だしね。

 人が暮らすのであれば、欠かせない手段になる。


「では、最初に行うべきなのは、南北端の島に砦を建設することでしょう」

「砦……?」

「はい。現状では、ファー様の宣言に従って人間も魔族もキナーエから離れておりますが、それは時間の問題で破られると思われます」

「そうなんだ……?」


 ハイネリスの勇姿を見せつけて、しっかり威圧できたつもりではいるけど。


「ファー様が動かれていない以上、人族も魔族も現状に対する思惑を巡らせ、勝ち残るための答えを導くことでしょう。そしてそれは、キナーエやハイネリスの領有所有へとつながる可能性が高いと思われます」

「そうなんだぁ……。私なら、現状が動いていないのなら寝ているけど……」

「それはマスターが最強無敵だからですね。そうでない者は、生き残るために少しでも先んじようと必死になるものです」


 私がぼやくと、カメキチは言った。


「そっかぁ」


 ここでいう人族や魔族は王侯貴族のことであって庶民ではない。

 それはわかる。

 なので、そういうものなのかも知れない。


 いや、違うか。


 私だって考えてみれば、現状が動いてなくても、なんとかしようとしていた。

 配信とか。

 あー配信かー。

 最近はあんまりやってないなー。

 キャベツ軍師さんも待っているだろうし、そろそろ本腰を入れないとだねー。

 なにしろ私は配信こそが本業なのだから。

 おっと、いかん。

 私は真面目に話し合うためにスキル「平常心」をオンにした。

 途端、頭はクリアになる。


「とりあえず、わざと無防備にして敵を誘い込むとかのつもりはないから、無用の騒動は起こらないようにしてもらえると嬉しいかな。詳細については後で2人で相談して。カメキチは資材の準備もお願い。インペリアル・ガードの常駐が必要ならその手配も。どれくらいの規模にするのかも2人に任せるから決めちゃって」

「畏まりました」

「はい。委細はお任せ下さい、マスター」

「じゃあ、次ね。次は、竜の居住区と移民の居住区のことかな。移民についてはまだ完全に未定だけど、将来的には、困っている人がいるのなら助けてもいいと思っているから、あらかじめ準備しておきたいんだよね」

「その対象は、人族でしょうか、魔族でしょうか。それとも両者でしょうか?」


 石木さんが質問してくる。


「もちろん両方ね。どう思う? 人族と魔族を、いっそ共存させるとか。私としては別離するよりそれが希望なんだけど」


 うん。


 どうせ作るのなら、私は人族と魔族の共存できる世界がいい。


「マスター、竜はどうされるのですか?」

「さすがに竜は別かな。いや、うん。一緒でもいいのかな? どう思う?」

「さすがに竜は別の方が無難だと思います。一部の屈強な魔族を除いて、竜に踏まれれば潰されて即死ですし。それに人族にとって竜は一攫千金を狙える豪華な獲物です。残念ながら不埒な考えを抱く輩が現れるかと」

「そっか。なら今回は残念だけど別だね」


 幸いにも竜の居住区は、私が整地した島々から見れば、かなり離れている。

 間に魔物の生息地帯を置けば、狙われることもないだろう。


「あらゆる種族が繁栄して共存する世界……。それがやはり陛下の理想なのですね……」


 石木さんが感慨深げにつぶやく。


「そうだね。私は、それが一番だと思っているよ」


 それは私の本音だ。

 あくまで、理想ではあるけどね……。


「石木さん、私はそんな土地を、まずは石木さんに預けて、理想を目指していろいろとやってみてほしいんだけど――。どうかな。引き受けてくれる?」


 私は冷静な顔をしつつ、実はドキドキして、いや、うん、平常心があるからドキドキはていないんだけど――。

 石木さんからの返事を待った。

 なにしろ、私には他に引き受けてくれる人材がいない。

 石木さんに断られたら、自分でやるしかないのだ。

 もしもそうなったら、うむ、残念だけど、先の話はなかったことにするしかない。

 なぜならどう考えても、私には無理だからだ。


 石木さんは、座っていたソファーから身を起こすと――。

 床に膝をついて、頭を垂れてこう言った。


「――謹んでお受けいたします」

「そっか。ありがとう」


 私は冷静な顔をしつつ、心の底からホッとして――ということは平常心があるからしないのだけど、とにかく安堵した。


「では、石木さん。いいえ、賢者イキシオイレス」

「私を、私も再び賢者と――?」


 なぜか、すごく感動した様子で石木さんに顔を上げて問われた。

 もともと石木さんって賢者だったと思ったけど……。

 まあ、いいか。


「賢者イキシオイレス」


 私はあらためて言った。


「はっ!」

「貴方をキナーエ執政官に命じます。軍事と行政に関する全権限を差し上げますので、賢者アンタンタラスや魔王ジルゼイダ、魔王ウルミア、魔人フレイン、あとできれば――。人間側からメルフィーナさんやリアナの協力も得て――。将来のこの地が、人族と魔族の共存する理想世界の先駆けとなるようによく整えておいて下さい」

「ははーっ!」

「カメキチも協力してあげてね。ハイネリスの安全をもちろん第一として」

「了解しました、マスター」


 なにしろハイネリスは私の安住の地だ。

 これは失えない。


「あと、カメキチ。例のものの最終的な調整はおわった?」

「はい。万全です。マスター」

「じゃあ、持ってきて」


 頼むと、カメキチはすぐにテーブルに置いてくれた。

 それは手のひらサイズの箱だった。

 中を開けると、銀色の指輪がひとつ入っている。


「石木さん、これを差し上げます。受け取って」

「これは――。まさか――」

「完成第一号の異世界転移の指輪ね。魔力をしっかりと込めれば、設定した場所から設定した場所に転移できます」


 設定した場所は、異世界はキナーエの上空、現代は東京の上空。

 飛べない人間が使えば確実に死にます。

 もっとも、それ以前に、万が一の盗難に備えて使用者登録機能をつけたので、登録者以外が身につけても反応はしないのだけれど。


「これは極めて貴重なものでは……。私が……。いただいても……?」

「うん。これを使って、異世界と現代、大変だと思うけどよろしくね」


 私としては、他に人材がいないからのことではあったんだけど……。

 石木さんには感涙するほど喜ばれたので、余計なことは言わないように気をつけた。

 それに、とはいえ、信頼していることは確かだし。


 石木さんには早速、登録してもらって、それから使ってもらった。

 私もついていった。

 結果は、うむ。

 カンペキ。

 石木さんは無事に自力での異世界転移を果たした。

 これであとは、私は寝ているだけでいい。

 まさに、果報は寝て待てなのです。

 あ、でも、まだあと、急いで現代の会社名は決めねばなのですが……。


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