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147 閑話・3つの余波 異世界魔王編




「さて、本日、皆さんにお集まりいただいたのは他でもありません。偉大なる陛下がご開催されるオトモダチ・パーティーへの参加を、皆さんにお願いするためです」

「フンッ! 何が陛下だ! 本当にご復活なされたのでれば、我等とて従う! だが、その姿を見たのは貴様1人! 陛下の遺産を手に入れたからと言って、いい気になって、ついに野心を顕にしたなアンタンタラス!」


 今にも掴みかかってきそうな勢いでそう怒鳴るのは、魔王デイルダーズ。

 レンガのように赤く灼けた砦のような肉体と4本の剛腕を持つ、巨鬼族の猛者です。


「然り。真実であれば、偉大なる陛下が自らの御姿で我等を見下せば良いだけのこと。さすれば圧倒的力の前に我等は抗う術もなく頭を垂れる。だが、それは、貴様の拾った古代人形には無理なことだ。そうだろう? 賢者殿」


 続けて私を煽ってくる武人肌の男も、また魔王です。

 名はノーラン。

 外骨格でその身を包み、己の手足を武器とする、甲蟲族の猛者。


 そんな彼らに明確な敵意をぶつけられる私は、見た目で言えば彼らより遥かに小さく脆弱にも見える吸血鬼族です。

 もっとも、私に怯えなどはありませんが。


「その御姿を見る機会として、パーティーが開かれるのですよ。陛下にわざわざ会いに来いなど傲慢が過ぎますよ」


 私は賢者アンタンタラス。

 彼らが生まれるよりずっと以前、大帝国の時代から生きている者です。

 私の目から見れば彼らなど、恵まれた資質を振り回しているだけの小物に過ぎません。

 脅威ではないのです。


「ホント、気に入らないわね、その余裕の態度。古代遺産も手に入れて、賢者様的には魔王なんてすでに鎧袖一触ということなのかしら」


 しかしその余裕が、反感を買ってもいるようですが。

 普段は我関せずの妖魔族の魔王リリサキュイレにまで睨まれてしまいました。


 とはいえ――。


 彼らは私の呼びかけに応じ、集まってはくれました。

 皆、今が非常事態であり、話し合う必要があることは理解してくれているのです。


「リリサキュイレ様こそ、私は参加するべきだと思いますけどね」

「あら。それはぜひ理由を聞こうかしら?」

「なにしろ妖魔族は、先のキナーエ防衛戦において眷属の1人すら出していません。このままでは相手にされませんよ?」

「むしろ望むところだけど?」

「それは新たなる帝国の枠から外れて、孤立してやっていくということになりますが」

「貴方はまるで、デイルダーズやノーランが従う前提の言い方をするのね」

「彼らは気質として、無関心など無理でしょう。オトモダチの道を選ばないのであれば、暴発して討伐されるのみです」


 その私の言葉に、デイルダーズとノーランがいきり立ちます。

 まあ、当然でしょうが。


「みんな、落ち着くのお。アンも言い過ぎなのお」


 あくび混じりにジル様が言います。


「失礼いたしました」


 ジル様の注意を受け、私は皆に頭を下げました。

 それで皆は席に戻ります。


「ちなみにい、私とウルミアはぁ、もうとっくに偉大なる陛下の下僕なのお。その事実はよく理解しておくといいのお」

「そうよそうよ!」


 ジル様の言葉に、ウルミアが同意します。

 ウルミアの背後にはフレインが立っていて油断なく目を光らせています。


「ともかく皆様には陛下からの招待状をお渡しします」

「このパーティーは選別なのお。陛下の敵となるかぁ、それ以外となるかぁ。よく考えて決めることをオススメするのお」

「そうよそうよ!」

「陛下からは、くれぐれも強引なことはするなと言われています。参加するかどうかは、あくまで皆様の意思です」


 私は魔王の皆様の前に、それぞれ、招待状を置いていきます。

 幸いにもその場で破る者はいませんでした。

 皆、私には反発しつつも、少しは理解している部分もあるのでしょう。


 緊急で開かれた魔王会議は――。

 こうしてつつがなく、殴り合いなしにおわりました。


 私たちは会議場である闇の大神殿から歩いて外に出ます。


 闇の大神殿は南方大陸の中央に位置し、その周囲の湿地は聖域、温厚な沼トロール族が暮らすだけの不干渉地帯となっています。


 陛下が復活された今、その大神殿も長い役割をおえるのでしょうが。


 外に出たところで、魔王たちはそれぞれに転移魔法で自分の領土へと帰りました。


「ホント、アンタンタラスは嫌われているわね! あれなら私が言った方がよかったわ! みんな最初から警戒しちゃってさ!」


 私たちだけになった途端、ウルミアが吠えます。


「誰が言っても同じなのお。すぐに信じろという方が無理なのお」

「実際に見たヤツだっていたのに? デイルダーズなんて、あの時キナーエにいて、人間どもと普通に戦っていたのよね?」

「それでも実際に間近で見たわけではないのお。それに確かに、あれ以来、ファー様が皆の前に遠間からでも姿を見せたことはないのお。ハイネリスも浮いているだけなのお。それを考えればアンの策謀は疑われて当然なのお」

「……はぁ。賢者様は、今からでも日頃の行いを改めるべきね」

「それは不要でしょう。なにしろ陛下の前では、私など小物の1人ですし。それに賢者と言えばイキシオイレスもいます」

「あー。もう1人、賢者がいたんだったわね。友達なんだっけ?」

「ええ」


 ウルミアの問に、私は笑顔でうなずきました。

 するとウルミアはうんざりした顔で、


「うわあ。サイアクね」


 とか言いましたが。


「カニカニ」


 それに同意するフレインは、相変わらずの様子ですね。

 なぜ蟹にこだわるのか。


「ふふーん。でも、まあ、ファー様の一番の腹心は、私たち竜人族で決まりなんだし、別にどうでもいいんだけどねっ!」

「それは聞き捨てならないのお」

「フレイン、言っておやり! 私を大いに嫉妬させた先日のことを!」

「りょ」


 何を言うのかと思えば……。


 なんとフレインはファー様に誘われて、ファー様が暮らす異世界の国に行って――。

 2人で男漁りを楽しんだというのです。


「お、男漁りですか……?」

「そう。楽しかった」

「…………」


 私は正直、言葉を失ってしまいました。

 ファー様の姿を私は思い出します。

 それは、どこまでも支配者然とした、闇に満ち、闇そのものの存在でありながら、星と月の光すら内包する――。

 まさに夜の天空を映したような、美しく神聖なる御姿です。

 その御方が……。

 そんな御方が、男漁りを楽しむ、なんて……。


「フレインばかりずるいわよねー。私もオトコアサリしたかったわー」

「羨ましいのお。ジルも混ぜるのなのお」


 ウルミアとジル様までそんなことを言います。

 これは……。

 なんということでしょう。


 足元からぐらつくほどの衝撃です。


 蕾はやがて咲く――。


 それはまさに、そういうことだというのでしょうか……。


 いえ、はい。


 オトコアサリとは、すなわち、男をぶちのめして金品を奪うことでしたが。


 ともかく……。


 魔王たちに招待状は渡しました。


 あとは彼らが、最善の判断をしてくれることを願うばかりです。







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