144 ストレス発散!?
「……オトコアサリ、もっとしたかった」
フレインがシュンとする。
私たちは表通りに戻った。
「いや、うん。あいつらは確実にいいヒトではなかったと思うけど、それでもね、一応、さすがに今のはマズイからやめとこうね」
むしろこちらが捕まる。
「ファー様。私はこの高ぶる気持ちをどうにかしたい」
「どうにかと言われても……」
困るけど。
「ファー様が受け止めてくれる?」
「熱っぽい目で見つめるのはやめてね!?」
照れるから!
しかし、どうするか。
私は周囲を見渡して……。
「そうだ。カレー、食べてみようか?」
「彼? 誰? カニ?」
「ううん。人でもカニでもなくてね、カレーっていう料理があるの。揚げた肉も乗せられるし、美味しいと思うよ」
ちょうど近くに専門店があるし。
「それは期待。食べたい」
「じゃ、決まりだね」
私たちはカレーのお店に入った。
カツカレーを2人前、注文する。
私は普通。
フレインはかなり食べるので、カツを2枚も乗せた超大盛り。
しばらく待つと出てきた。
「おおー」
思わず私は声をあげた。
メニューに写真が載っていたのでわかってはいたけど、実物はやはり迫力が違う。
ステンレスのプレートに盛られた、ご飯と黒っぽいカレー。
その上には、キャベツの千切りとソースのかかったカツが乗せられていた。
家で食べるカレーとは、まったく違う。
それは私にとっても、未知との遭遇だった。
まずはルーだけ味見してみる。
うむ。
こってり、濃厚。
普通に食べるには濃い気もするけど、だからこそのキャベツだろう。
実に考えられている。
ぱくぱく。
もぐもぐ。
「ごちそうさまでした」
美味でした。
「……異世界の料理は、本当にすごい。おすしもこれも最高」
「あはは。それはよかった。少しはすっきりできた?」
「カニカニ」
フレインも気に入ってくれた様子だ。
私たちは楽しい気持ちでお店から出て――。
はい。
ガラの悪い人たちに囲まれました。
「おい、テメェ。さっきはよくもやってくれたなぁ」
裏通りでぶちのめした人たちが、仲間を連れて挨拶に来たのだった。
ちょっと失敗したようだ。
記憶も消しておくべきだったね。
「ファー様。オトコアサリしていい?」
「あー、うん。でも、ちょっと散歩してからにしようか」
「りょ」
とりあえず目立たない場所でオハナシしませんかというと――。
ガラの悪い人たちはついてきてくれた。
で。
フレインがまたぶちのめした。
今度は向こうからなので、回復魔法の必要はないだろう。
財布は取らないけどね!
ただ、それで帰ることはできなかった。
「へえ――。やるねぇ。アンタらもしかして、噂の天使様ってヤツのお仲間? ただの女がこいつらを1人でなんて不可能だよなァ」
1人の男が、ヒュウと口笛なんて吹いて、気軽な様子で物陰から姿を見せた。
それは一見――。
強そうには見えない、20代前半のチャラついた男だけど――。
「いや、もしかしてご本人ですかァ? 髪色は違うようだけどォ」
『フレイン、気をつけて。こいつからは魔力を感じる』
『むしろ楽しみなオトコアサリ』
私は異世界語でフレインに警告を発した。
「ああ、自己紹介をしておこうかな。俺は、あば」
ちなみに、あば、とは、多分、名前ではない。
彼の嗚咽だ。
フレインが問答無用で腹に一撃を入れちゃったのです。
残念ながら彼に物理耐性はなかった。
彼は気絶して倒れた。
いや、うん。
とはいえ、実際には、ほんの少しながらも魔術的な障壁はあった気がする。
あっさり砕かれただけで。
彼が魔術師であるのは、確かだったのだろう……。
『雑魚だった』
『あ、うん。はい』
まあ、いいか。
面倒だし、細かいことを気にするのはやめよう。
ただ、彼は私を天使様と呼んだ。
うーむ。
すでに知ってはいたけど、現代世界の魔術師たちの間で、やはり私ことファーはそれなりに認知されてしまっているのだねえ。
時田さんが動いてくれているようだけど……。
一度、魔術結社とやらに、挨拶にいった方がいいのかも知れない。
もしかしたら、オトモダチになれる人がいるかも知れない。
敵対反応の出ていた相手は、全員1年分の記憶を消して、いったん、まっさらになってもらったわけだしね。
目の前で倒れている、あばさん(仮)を起こして――。
伝言――。
だと齟齬があるといけないから――。
お手紙を渡してもらおうかな。
というわけで私は、いそいそと手紙を書かせてもらうのでした。
内容は、こんな感じにした。
----
こんにちは。初めまして。
私は最近、天使と呼ばれている者です。
近い内に、みなさんのところに挨拶に行かせてもらいます。
よかったらオトモダチになりましょう。
では。
----
名前は、ファーではなく天使とした。
ファーと名乗ってしまうと、思いっきり身バレするかも知れないので……。
少しだけボカしてみました。
あとは、よかったらオトモダチになりましょう、なんて……。
私にしては、超積極的なことを書いてしまいました。
頑張りました。
さすがに敵対反応の出ていた人たちを、いきなりオトモダチ・パーティーに招待するのは怖いのでやめておいたけど……。
仲良くなれたら、招待するのもいいかも知れないねっ!
うむ。
カンペキではなかろうか。
これをあばさんに、魔術結社まで届けてもらうとしようっ!




