143 ザ・オトコアサリ
これが大都会……!
東京!
実はここも異世界ではないのですか!?
正直、私は戦慄した。
今日は平日の昼間だというのに、人が波のように絶え間なく行き交っている。
そして、その流れはとても早い。
みんな、立ちすくむ私たちの脇を、すごい勢いで歩き過ぎていく。
見上げれば、銀色の森が遠くまでそびえる。
ビルまたビル。
どこまでもビルが続いていた。
いや、うん。
別に見るのはこれが始めてではないけど……。
都会の景色なんて、漫画でもネットでも、いくらでも見たことはあるしね……。
しかし、実際に自分の目で見ると違う。
すごいものはすごいと思ってしまう私のであった。
「ファー様。どうする?」
「あ、うん。歩こうか」
「りょ」
フレインに呼びかけられて、私は人の流れに乗ることにした。
スタスタスタ……。
歩いていく。
しばらくすると駅についた。
どうしようかと思ったけど、そのまま流れで駅の中に入ってみる。
そして私は……。
迷った!
あっという間に、自分がどこにいるのかわからなくなる。
「ファー様、どこにいくの?」
さ、さあ……と言いかけて、私は見栄を張った。
「ふふー。いいところだよー」
「イイトコロ……。楽しみ」
それはどこなのか。
私にもわからない。
なにしろ、目的地があって歩いているわけではないのだ。
ただ、うん。
前向きに考えれば、これならむしろ声をかけられやすいのかも知れない。
それはよいことだ。
なにしろ今日の私たちの目的はオトコアサリ。
迷子とは、その意味で考えれば、むしろ完璧な気もした。
だけど何も起きなかった!
そもそもみんな、とても忙しそうだ。
気づけば私たちは、再び駅の外に出ていた。
空は青い。
太陽が眩しいです。
「ファー様、戻ってきた?」
「う、うん。そうだね」
「イイトコロ?」
「そ、それはこれからかなー。あははー」
「ファー様」
「う、うん。なぁに?」
「オトコアサリをするなら、もっと乱雑とした歓楽街の方がいいカモ」
「カモなんだ? カニじゃなくて?」
カモネギってヤツだろうか。
と思ったら。
「カニカニ」
フレインがカニカニするので、私も真似をした。
v(・v・)v
往来の真ん中で立ち止まって、私たちは何をやっているのか。
これは目立っちゃったかな。
と思ったけど、誰も視線すら向けて来なかった。
完全無視。
さすがは大都会。
私はスマホを取り出して、ポチポチした。
ちょっと石木さんにメッセージアプリで質問を送ってみる。
――東京で、乱雑とした歓楽街ってありますか?
すぐに返事は来ないかもだけど。
仕事中だろうし。
と思ったら、1分も待たずに返事が来た。
――歌舞伎町でしょうか。日本最大の歓楽街です。
「あー」
なるほど、私も聞いたことがある。
しかも地図アプリで確認すれば、意外と近くだった。
――何かあったのですか?
――ううん。聞いてみただけ。ありがとう。
さすがに、オトコアサリに行きます、とは言えない。
私たちは物陰で姿を消して、空に飛んで――。
すぐに現地に到着した。
歌舞伎町は、まさに乱雑とした繁華街だった。
早速、ふらふらと歩いてみる。
ただ残念ながら、すぐに声をかけられたりすることはなかった。
「ファー様、ここならできそう」
「オトコアサリ?」
「してもいい?」
「いいけど……。自分からするの?」
「当然」
「そ、そっかぁ……。自分からするのかぁ、フレインは肉食だねえ……」
「肉は好き」
フレインは平然としている。
気負いはない。
「ね、ねえ、フレイン……。私、ついていくだけでいい?」
「いい。任せて」
「通訳だけはするね?」
私たちは普通に会話しているけど、これは異世界語。
まわりの人たちには通じていない。
「必要があれば」
なんとフレインは、言葉が通じなくても、なんとかしてしまう気のようだ。
すごいね。
これからフレインのことは、先輩と呼ばせてもらおうかな……。
フレインが歌舞伎町の町を歩き始める。
フレインはすたすたと進んで……。
どんどん怪しげな、裏通りの方へと入っていく。
今は昼間。
まだ明るい時間とはいえ、不穏な雰囲気が濃くなって……。
私は、かなりドキドキしてきた……。
ただ、うん。
せっかくの人生経験なので、最強スキル「平常心」をオンにするのはやめておいた。
あと、自動反応もオフのままだ。
今の私なら、ただのニンゲンなんて、どれだけ襲われても平気だしね……。
ナイフ片手にぐるりと囲まれても撃退する自信がある。
とはいえ、怖いものは怖いけど……。
ただそれでも――。
視線を感じるだけで、いきなり襲われるようなことはなかった。
やがてフレインが立ち止まる。
見れば物陰に、6人ものガラの悪い男たちがいた。
目が合うと、男たちの方から近づいてきた。
「よう。仕事がしたいなら紹介してやるぜ。それか遊びたいのか?」
男の1人が声をかけてきて、馴れ馴れしくフレインの肩に触れようとする。
あ。
男が前のめりに倒れた。
フレインが問答無用で腹を殴ったのだ。
「なっ! なんだいきなり! テメェ! ぐはぁぁ!」
2人目はぶん殴ったぁ!
男は吹き飛ばされて、壁に背中からぶつかって、そのままズルリと崩れた。
さらに、3人、4人、5人、6人。
フレインはあっという間に全員をぶちのめした。
「少しスッキリ」
フレインが無表情で言う。
そして、男たちの懐をまさぐって、財布を抜き取っていく。
「えっと。あの。フレイン……?」
私は呆然とした。
フレインは全員からいただくものをいただくと――。
「さあ、ファー様。次のオトコアサリに行こう。やっぱりオトコアサリは最高」
と、言った。
私はここに来てようやく理解した。
オトコアサリって、そういうことかぁぁぁぁぁぁぁ!
いや、うん。
ただの強盗だよねこれ!
私は男たちに回復魔法をかけて、財布も返して、その場から急いで逃げた。




