142 フレインと日本で
「オトコアサリを希望」
「え。今、なんて?」
「私は異世界でオトコアサリがしたい」
え。
ええー!?
はい。
こんにちは、ファーです。
私は今、フレインを連れて日本の自室に戻っているのですが――。
そこでフレインに何がしたいのかとたずねたところ――。
とんでもないことを言われました。
「あの……。なんで?」
「私は向こうでは、これでも魔王の腹心。オトコアサリはできない立場。なので異世界でアサラセテほしい」
「な、なるほど……」
羽目を外したい、ということなのね。
「でも、こっちにいるのは、みんな、ニンゲンだよ? いいの?」
「いい」
「いいんだ?」
「ただの遊び。好奇心。刺激。むしろニンゲンの方が好都合」
「な、なるほど……」
なんて奔放な。
「経験豊富なファー様に、ぜひ教えてほしい」
「え」
今、なんて?
「経験豊富なファー様に、ぜひ教えてほしい」
真顔で繰り返されましたが……。
いや、うん。
いったい、引きこもりのプロであるこの私を、どう見ているのか。
謎だ。
謎すぎるのですが。
私に経験など、あるわけがないのですが。
でも、うん。
それなら、「ないない! 無理無理!」って断るだけなのに……。
「そ、そっかぁ。私にねえ」
あはは。
なぜか私はこの時、すぐには否定をしなかった。
そう。
私はフレインに、ちょっといい格好をしたいと思ってしまったのだ。
ファー様としての矜持が、不意に生まれて……。
すなわち見栄なのである。
「い、いいけど?」
私はなぜか、そんなことを言ってしまった。
経験ゼロで何がいいのか!
それは謎ですが!
「感謝。興奮してきた」
「興奮って……」
いったい何をするつもりなのぉぉぉぉぉ!
いや、うん。
オトコアサリかぁぁぁぁぁ!
「で、でも、ここは異世界だからね!? 手加減! 手加減はしっかりとして! 十分に優しくソフトになめらかにね!」
「りょ」
「な、ならいいけど……。大丈夫かな……。あはは」
何が大丈夫なのか!
でも、うん。
私、思う。
実は私だって、オトコアサリ、できてしまうのかも知れない。
うん。
ファーならね。
なにしろ美少女だし。
いや、うん。
そんなこと、したいわけではないけど……。
でも、まあ……。
フレインがどうしてもというなら、試してみてもいいのかも知れない……。
だって、ね……。
興味がないかと言えば、まったくないわけではない……。
想像くらいはすることもあるしね……。
いろいろと……。
それ系のソシャゲに夢中になってしまったことも、ないわけではないのだし……。
「じゃ、じゃあ、まずは準備しようか。私たちの格好だとさすがに目立つしね。まずは町に溶け込む姿にならないと。服は私が出してあげるね」
「りょ」
幸いにも私とフレインは体型が近い。
私の服なんて地味なのばかりだけど、着ることはできるはずだ。
そして、問題はないはずだ。
なにしろフレインも、ハッキリ言って綺麗だ。
ファーと並んでも遜色ない。
まさに美少女コンビとして人目を引くこと確実だろう。
ただ、あくまでも外国人だし、声をかけられることはないかも知れないけど。
というわけで……。
そそくさと服を脱いで、2人で日本の私服に着替えました。
もちろんフレインには武器もしまってもらう。
フレインには自前の亜空間収納があるので、すべてそこに放り込んでもらった。
いざとなれば、すぐに出して戦えるように。
なにしろオトコアサリなんて……。
なにがあるかわからないしね……。
ホント、その気になれば人間なんて100人単位で蹂躙できる私たちでなければ、絶対にやってはいけないことだ。
着替えた服装は、私もフレインも、パーカーに長ズボン。
我ながら地味で普通です。
「ねえ、フレイン。髪の色も変えようか。銀色と桜色だと、さすがに目立つし」
「ファー様にお任せ」
「じゃあ、2人とも黒髪にしようか」
魔法でパッと変えました。
ついでに瞳も黒にした。
うむ。
これでそれなりに親しみやすくなった気がする。
「あとは、どこに行くのかだねえ……」
魔法を使えば、即座にどこにでも飛ぶことはできる。
ただ、オトコアサリできる場所なんて、私はまったく知らない。
私はこっそりとスマホで「オトコアサリできる場所」と検索してみた。
すると、ずらりと――。
潮干狩りスポットが出てきた!
まさかの結果!
なるほど、これが安全対策というものか!
私は感心するのでした。
私はしばし考えて、東京の新宿というところに飛んでみることにした。
なんか、うん。
日本の歓楽の中心地っぽいイメージがあるので。
ちなみに行ったことはない。
実のところ、私も生まれて始めてです。
とう。
転移魔法を使えば、次の瞬間には、すでにそこは東京の空の上。
私たちは姿を消して、まずは地上に降りて――。
物陰で透明化の魔法を解いて――。
おそるおそる、混み合う往来へと足を踏み入れるのでした。




