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141 決めろ! 魂の一発芸!






「えー。どうも、こんにちは、ファーです。私は今――」


 今……。


 …………。

 ……。


 私はプロとしてベテランとして、いつものように開始の挨拶を始めて――。

 ふと。

 現実に気づいた。


 あれ、もしかして私、勘違いしていた……?

 だって、うん。

 配信と芸って、違うよね?


 挨拶して、それからどうすればいいの?

 何を実況すればいいの?

 いや、うん。

 それ以前に、実況なんて関係ないよね私がするのは芸だよね?


 …………。

 ……。


 やってしまったぁぁぁぁぁぁ!

 私は心の中で悶え狂った!

 なぜか、どうしてか、配信と芸を同一視していたぁぁぁぁぁ!

 ど、どうする――。

 私の目の前には、今、私の「面白いこと」を楽しみにしている――。

 フレインを始めとする数名の竜人――。

 それにたくさんの竜がいる。

 いや、いやいや。

 あわてるな私。

 いつものように配信の気持ちで、面白いことを言えばいいんだ。

 語尾におすしをつけたり、とか。

 ね。

 それできっと、大爆笑は間違いなし。

 って。


 相手は竜!

 ドラゴン!


 言葉は通じるのかぁぁぁぁ!?

 いや、うん、通じているニュアンスはあるけどね!

 いけると思うけどね!


 …………。

 ……。


「えー。ですし、おすし?」


 私はおそるおそる、言ってみた。

 だけど反応はなかった。

 しーん。

 みんな、まだ「面白いこと」が始まっているとは思っていないようだ。


 私は絶望した。


 眠らせる?


 いったん全員を「スリープ・クラウド」で眠らせて――。

 ハイネリスに戻って――。

 ネットで一発芸を検索して覚えてくる?


 それがいいかも知れない……。


 私は一瞬、暴挙に出かけたけど、ギリギリのところでそれはやめた。

 なぜなら、眠らせたことはバレるのだ。

 コッソリにはならない。


 くっ。


 この羽崎彼方、配信の中に面白さを忘れたか……!

 いちかばちか、やるしかないか。

 直感で。

 何かを。

 しかし、私は爆死する自分を感じずにはいらなかった。

 でも、私は負けない――。

 私は光の化身からだって、逃げなかった。


 もう今は――。


 逃げてばかりいた私ではないのだ。


 私は、戦う。


 よし。アレだ。

 面白いこと、芸といえば、アレしかない。

 私にはまだ、出来ることがあった。

 幼い頃――。

 まだ私が闇に染まる前――。

 光を持っていた頃――。

 私はよくやっていたではないか、思い出せ、あの時の自分を――。


 私は精神を集中させ――。


 己の中に眠っていた面白さを、今、解き放った!


 膝を曲げて、前かがみになって――。

 左右の肘を脇腹につけて、前腕を外に伸ばして――。


 あとは、こう――。


 手のひらを、可愛くパタパタとさせて――。


 小さく跳ねながら――。


「ぴよぴよ。ぴよぴよ。ひよこだよー。あたし、ひよこなのー。

 ぴよぴよ。ぴよぴよ」


 これぞ、我が芸。


 ひよこ!


 どうだ!


 私はちらりと、みんなの反応を見た。

 フレインと目が合う。

 フレインは無表情のままだったけど、そもそもフレインはだいたい無表情だ。

 なのでそれだけでは、まだわからない――。

 す――。

 と、フレインがその両手を胸の前に上げた。

 そして、ぱちぱちぱち。

 拍手をしてくれた。

 すると、それに呼応して竜たちが「ぐわ。ぐわぐわぐわ。ぐわぐわぐわ」とリズムを合わせて声を上げてくれる。


 ふ。


 ふふ。


 どうやら決まったようだ。

 竜にまで理解されてしまうとは、さすがは私だ。

 私は優雅に一礼した。


 ともかくこうして、竜のみんなは落ち着いてくれた。


 その後は、薬品と共にフレインが持ってきたお肉を竜のみんなに振る舞う。

 みんなは美味しそうに食べてくれた。


 私はフレインと会話する。


「ファー様、竜たちはここにいて大丈夫? 移した方がいい?」

「ううん。ここにいてくれていいよ」

「感謝」

「でも、危険はあるよね?」

「ある。でも、みんなが元気になれば、かなり大丈夫」

「ワイバーンたちは?」

「生き残りは、すでに魔王城下に移した。ニンゲンに殺されすぎて、キナーエ部族として存続するのはすでに不可能」

「そっか」


 ウルミア魔王城は断崖の上に建つ。

 その断崖には、たくさんのワイバーンが住んでいる。

 そこに移すということだろう。


「今さらだけど、すべて私の不覚。本当に申し訳ない」


 フレインが私に深々と頭を下げる。


「私には謝らなくていいよ。そもそも私は関わらないと言った身なんだし」


 私としては、苦笑いするしかなかったけど。


「でも、ここに来てくれた。感謝」

「それは、ね――」


 偶然だけど。

 でも、助けられたのはよかった。


「ファー様が管理してくれれば、竜たちは幸せに暮らせる」

「そうだねえ……。この一帯は竜の保護区にしよう。他の種族は住居禁止で。ワイバーンたちの住処も残しておこう」

「感謝」

「魔物が沸かないようにもできるけど、した方がいい?」

「住処のあたりだけは。魔物は餌にもなるから、完全にいなくなるのは困る」

「了解。わかった」


 この後はフレインの案内で、私はワイバーンの住処に飛んだ。

 竜の住処と合わせて魔素の流れを整えて、魔物が沸かないようにしておく。

 スムーズに帰れるようにね。


「ファー様」

「ん?」

「こっそりとお願いアリ」

「うん。なぁに?」

「ちょっとだけ異世界に行きたい。ちょっとだけ」

「あはは。いいよ」


 とりあえず、すべきことはしたしね。


 私は竜のみんなとお別れして、フレインを連れて日本へと飛んだ。



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― 新着の感想 ―
…この子に関してはほんとにウケたのか、空気を読んだのか、ちょっと分からんね? 消滅する系の魔物は食料になるのだろうか…切り離した部分が残るシンデレラ現象が起こるのかな? 魔石、魔族、消滅型の魔物、普通…
いつも楽しく読んでます! 一発芸は日本古来の忘年会の、偉くはないけど下っ端でない部長クラスが出世のための大一番(笑) な過去があったよね〜!? ファー様(カナタハートで)も頑張ったね! 現代に行…
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