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140 ファーと竜の住処


 本当にキナーエは自然豊かだ。

 小さな子に連れられて到着した浮遊島は、まさに山岳地帯だった。


 竜の住処は、切り立つ岩山の断崖にあった。

 たくさんの洞窟があって、そこを根城にしているようだ。


 陽射しの当たる広い谷底には、何体かの竜の姿があった。

 私たちは彼らのいるところに着地する。


 10体ほどの竜がそこにはいた。


「こんにちはっ!」


 私はニッコリと笑って、手も上げて、元気に挨拶した。

 あーでも、これは……。

 私はすぐに、竜たちの現状に気づいた。


 みんな、傷だらけだ。


 いったいどうして――。


 あーうん。


 そうかぁ、人間との戦いで、こっぴどくやられたんだったよね。

 その話は聞いている。

 人間の卑怯な振る舞いで、大打撃を受けたと。

 釣られて、囲まれて、ボカボカ。

 それでもドラゴンは強靭なので、なんとか多くは逃げることができたけど――。

 ワイバーンは、かなりの数が殺されたそうだ。

 しかも素材回収されて、切り刻まれて捨てられたらしい。


 まったく、ね。


 私は人間の世界にもいて、冒険者の人たちと話す機会もあったからわかる。

 魔物の角や皮は有益だ。

 肉も食べられる。

 魔物の体の中にある魔石は文明的な生活には何よりも欠かせない。

 なので素材回収は、当然、行うべきことだ。


 だけど、反対の側から聞くと、なんて残酷なんだろうか。


 ともかく……。


 竜のみんなに挨拶した私は、最初こそ睨まれたけど……。


「がぁがぁがぁ!」

「ぴーぴー!」


 私が助けた2人に何やらフォローされて、なんとか受け入れてはもらえた。

 言葉というか、鳴き声に込められた意味がわからないのは残念だけど、みんなの態度が軟化したことはわかる。

 私はみんなに『ヒール』をかけてあげた。

 みんなは回復した。

 うん。

 あっという間です。

 我ながら、いつものことではあるけど、とんでもないチートだ。


 回復させると、みんなは喜んで――。


 それからいきり立った。


 鳴き声の意味はわからなくても、怒っているのはわかる。

 それは私に対してではない。

 多分、人間に対してだろう。


「みんな、とりあえず落ち着こ、ね? 私が面白いことを見せてあげるからさっ!」


 私がなんとかあやそうとしていると――。

 最悪、魔法で落ち着かせるしかないかなぁと思っていると――。


「面白いこと」


 と言って、フレインが現れた。

 頭に2本の角を持って、赤模様の白衣姿で帯刀した、桜色髪の竜人族の少女だ。


「があ、がぁがぁががが」


 フレインが竜の鳴き声でみんなに何かを語る。

 すると、みんなは落ち着いて、なぜか私の前に並んで、座った。


「さあ、どうぞ」


 フレインも体操座りをした。


「えっと、なんて言ってくれたのかな……?」

「そのまま伝えただけ」

「というと?」

「これからファー様が私たちに面白いことを見せてくれると言った。みんな、それなら見てやろうということになった。ぱちぱちぱち」


 フレインが拍手すると、それに続いて竜のみんなは「ぐわぐわぐわ」と鳴いた。


「う、うん……」


 確かに見せると言ったのは私だ。

 それは事実だけど。

 なんか、うん。

 あらためて整列されて期待されると、とてもとても困るのですが……。

 とてとてなのですが……。

 私は正直、途方に暮れた。

 そうしてスキル「平常心」に頼ろうと思った。

 平常心さんなら、きっと冷静に名案を思いついてくれる。


 だけど――。


 うむ……。


 私はあえて、それをやめた。

 私は私として面白いことをしようと思った。

 なぜならば。

 私はこれでも配信者なのだ。

 配信者とは時に、面白いことを言って、リスナーを笑わせる存在なのだ。

 すなわち。

 私はベテランなのだ。

 私にはできる。

 できるはずなのだ。


 やってやる……。

 みんなを笑わせて、私が平和を守る。


 さあ、今。


 私は面白いことを始めよう――!


 と、その前に。


「ねえ、フレイン。あの人たちはいいの?」


 よく見れば脇に、フレインの部下らしき竜人たちが控えていた。

 彼らは何やら大きな荷物を持っていた。


「実は竜たちの治療に来た。だけどファー様のおかげで不要になった。感謝」

「そっか。それはよかった」

「皆もこっちに来る。一緒にファー様を楽しむ」

「はっ!」


 フレインに呼ばれて、部下の人たちも前列に体操座りで座った。


 さらに騒ぎを聞いて――。

 洞窟の中にいた竜たちも出てきて――。


 私は、岩山の住処のほとんど全員ではないかという竜たちの前で、みんなに面白いことを披露することになったのであった。

 でも私は、私にして珍しく怖気づくことなくポジティプだった。

 なぜなら私はベテラン。

 そしてプロ。

 すでに収益化を成し遂げた歴戦の配信者なのだから。


 ふふ。


 さあ、私の腕前、見せてあげますかっ!





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― 新着の感想 ―
すみません、前回の感想、誤字報告と明記すべきでした。 > みんなの態度が難化した 「難化」ではなくて「軟化」ですね
> みんなの態度が難化した 態度が難しくなったか(棒読み) さて、次回はかっぱん名物ギャグ無茶振りか
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