最高峰の成長
私はその一部を見ていた。こんなに早くあの子の悩みを払拭するだなんてね〜。期待、してもいいかもね。
「と、まぁ。協力するとは言ったがどうするか」
「無計画にあんなこと言い出したんですか?」
「だってあそこはそういうしかなかっただろ。あのまま放置は無理だ」
気づいた頃には雨も止み、川の荒れも収まっていた。
「ふふ。そうですね。ただ先生、」
「なんだ?改まって」
音乃瀬は静かに顔を上げて、俺に微笑みかけた。
「私、自分に正直になるんで、いい子だと思わないでくださいね?」
こんな笑顔が見れるんだ、それくらい安いものだろう。
あぁ、と返事をするとさらに可愛い笑顔を見せてくれるのだった。
さてさてさて、無事音乃瀬を家まで送ることに成功した。きっと音乃瀬は成長をし、自分を認められるようになったことだろう。
音乃瀬のように他の奴らとも距離を縮めることができたらいいのだが、きっかけが無かった。凪は俺を相当毛嫌いしてるイメージあるし、どうしたもんかな〜と俺がそんなことを考えている直後だった。
「麻弥ちゃんと………何してたんですか?」
聞き覚えのない声がその場所に響き渡った。
その声の主の方に振り返るとそこには、
「誰だよ。知ってる人の流れだろ今」
「はぁ?知ってるはずでしょう」
「嫌なんだよ。いきなり話しかけてきて知ってるだぁ?頭おかしいのか」
こいつはやばいと直感で理解していた。顔は幼い、髪の毛は短髪で白髪。………そして、腰には刀が添えられている。
「おかっ、、仮にも生徒にそんなことを言うんですねあなたは」
「は?生徒?」
なるほど、そういうことか。俺は全てを理解することができた。
「Sとかそこら辺の生徒だろ。おおよそ唯一音乃瀬と仲良くしてくれていた、とかか?だとしたら感謝するよ。それじゃ」
と、その子の横を通り過ぎようとしたのだが。
「なるほど、そういう人間でしたか」
シュッ
「何するんだ?いきなり」
俺の足元には毛が舞った。もちろんそれは俺の髪の毛で、切ったのは目の前の女だった。
「案外冷静なんですね。あなたは今命の危機に陥ったわけですけど、」
「お前は殺さなかった。何が目的だ?」
「目的というほどの目的はありません。ただ私は証明しないといけないんです」
「証明…?そもそもお前は何者だ?」
「全く…、本当にわからないというのですね」
「あぁ、悪いな」
俺はこの世界の家系というものや人間に疎い、だから多少の有名人なら俺は知らない。だからそいつの名前を聞いてもわからないと思っていた。
「いいでしょう。私の名前は……白石夢香…知りませんか?」
あぁ〜と、しら、いし。…………
「………………え?」
「はっ。それの生徒のやつか?確か六位の」
「あなた、担任で間違えないですよね」
「あぁ、紛れもなく担任だが、仕方なくないか?会ったこともないんだぞ」
そうだ、俺たちは会ったことがない。こいつが授業に来ないのが悪いんだ。だというのにこいつは。
「嘘でしょ、呆れました。名簿と顔写真はあったでしょう」
「すまんな、あんなん一度として見たことがないんだ」
「これまでの教師の中でもかなりマイナスな印象からのスタートですよあなた」
「一度も授業に来ないお前も俺の中でマイナスだが?」
「はぁ、そうですか。あなたとは仲良くすることができないような気がします」
「そうかい。ただ俺の生徒だと言うことは忘れるなよ?」
少し高圧な態度を取ってしまう。こんなんになってしまう俺はまだまだガキなんだろう。
ただいいだろう。俺はそいつの横を通り過ぎようとした。
何か目的があって話しかけてきたのかもしれないが、それは俺から聞きに行くようなことはない。その何かをこいつが言ってくるまで俺は待つことにした。
「……麻弥ちゃんを………しっかり守ってください。
いつもは私が守ってました。ですが今日からはそれができません。それぐらいやってください」
「なんだ?それは生徒から教師へのお願いか?」
「…お願い、と取れるでしょう。麻弥ちゃんは優しく頑張り屋さんです。ですが力がないです。私は今回のランキング変動テストでランキングを上げないといけないんです。だから私はもう関与できない。だから…」
「嫌だ」
生徒からお願いされたわけだが、俺はきっぱりそう断った。
「音乃瀬を俺が助ける?なんでそんなことしないといけないんだ?」
「何故って、あなたが教師という立場だからでしょう。それにあなたは実力が認められている。それなら別にいいでしょう」
「実力がどうとか、立場とか、そんなことを言っているわけじゃない」
そうだ俺が思うのはそんなことじゃない。
「じゃ……なんですか?…私が、真面目でお利口な生徒じゃないから、お願いなんて聞きたくないと?」
「お前も俺の生徒に代わりない。ただお前が言ってることに賛同はできない」
「………何故」
「そんなに守りたきゃ自分で守ればいいだろう。それがなんだ?人一人を守ってたら自分のランキングは上げられないと?」
「そんなことを…言ってません。私は強い。強くなくてはならない。だから弱者の麻弥ちゃんを守らないといけない。だか」
「そのお前がいう弱者の麻弥ってのを俺は知らない。守りたいなら勝手にしろ」
それだけを置いて俺はそそくさと帰路についた。あいつの抱えてるもの、それはまだ俺は知らない。ただ今知るべきことでもないと、そう思ったのだ。
このクラスの生徒はいつもそうだ。どいつもこいつもクセが強い。白石も一癖も二癖もあるようなやつだった。ただ他の奴らとは違うものがある。
それは圧倒的なランキングへの固執だ。ランキングを上げなければいけない。下のものは弱い。その意識が他より数段強いように見えた。
「あぁ〜あ、めんどくせぇな」
俺は一人そう呟くのだった。