最高峰の戦い方
「着席。二日目だな」
今日からやっと授業が始まる。…と言うのに。
「なんで今日は二人しかいないんだ。不二原は少し心を開いてくれていただろう。なのになんで!」
まさか昨日より減っているとは思ってもいなかったので、つい言葉が出てしまう。
「先生早く授業をしましょう。そんなクソつまらない話をしに来ているわけではないので。」
「あ、あぁ。すまない」
いやちょっと冷たすぎないか?え?クソつまらない?クソってなんだクソって。
「不二原さんはいつもそうなんですよ。最初は結構いるんですけどね」
「音乃瀬はちゃんといてくれるんだな。ありがと〜」
「ちょっと泣かないでくださいよ。普通ですって」
「そう。普通。だから早く授業して。」
はいはい、わかったよ。と俺は授業を進める。実力自体はないが教えることぐらいなら俺にもできた。
このクラスは担当を持てる教師がとても少ないらしく、ほぼ全ての授業を俺が担当する。…そんなことより、
「お前はあんだけ勉強好きです。みたいな雰囲気出してて、こんなんもできないのか?」
只今やっている教科は数学。まー苦手な人もいるだろうが、こいつは群を抜いている。小三ぐらいで知能が止まっているんじゃないかと思うほどだ。
「うるさい。教え方が良くない。早く続き。」
「なんだお前。他の生徒に比べて実は素直なのか?」
「これ以上の会話は無駄。時間ないから早く。」
「わかったよ…」
仲良くなれそうにないな〜
「愛ちゃんはそう言う人だからね〜」
「愛?」
「え、嘘ですよね」
音乃瀬がそんなことを言うので疑問に思ってしまった。愛、愛、愛。
「授業に集中しろ」
「だったら、先生も早く授業して。」
「わかった」
「っていやいやいや。愛ちゃんも普通に流さない!」
「いいよ別に。名前なんてなんでも変わらない。」
「良くないよ。大切にしよ?ね」
「そうだ。そこは誇りを持てよ。………って、お前の名前か。愛って」
「そう。早く授業して。」
「先生それは最低ですよ、最高の教師像はどこ行ったんですか」
「いや悪かった。愛か。いい名前じゃないか」
「うん。次の授業は。」
ダメだちょっとの雑談の間すらもらえない。と言うか、この性格で愛か。と思いつつも言葉には出さないことにした。
授業も終わり合間の休憩時間になった。愛…は今も勉強をしている。復習か?
「ちょっと先生」
「音乃瀬、その顔怖いから辞めてくれよ」
「先生が悪いんですよ?名前間違えるって、昨日帰ってから何してたんですか」
「すまん、俺にも色々あったんだ。ちゃんと覚えるさ」
「も〜ちゃんと紹介します。私は昨日も話したので少しで、音乃瀬です。あの子は犬塚愛ちゃんです。いぬずかですよ。ランキングは五位です。」
あら随分と可愛い名前だな。性格は冷え切ってるわけだが。
「今失礼なこと考えました?」
「いえ。全く」
「そうですか。とりあえず次です。昨日先生と話して教室から出て行ったのが仁王堂凪ちゃんです。このクラスのランキング二位に属します」
「一応レベルは高いってわけだな。少なくとも俺は格下に見られたわけだ」
「そうですね。次です。私と同じぐらいの身長のショートカットの昨日いた子。先生も知っている通り」
「不二原環」
「あら、ちゃんと知ってるんですね。そうです。不二原さんはランキング四位に属しています」
俺が知ってたことがそんなにおかしいのか、大袈裟に驚いているように感じた。
「とまぁ、先生が会ったことがあるのはその四人ですね」
「そうだな」
「ここからは、会ったことがない三人を紹介します」
「よろしくお願いします」
「では、ランキング六位、白石夢香さんです。彼女が一番頑固でしょうね」
「しらいし、ゆめか。聞いたことないな」
「きっと親御さんのことは知っているでしょう。次です。三位、天ヶ瀬霊さんです。あまがせと読みます」
「天ヶ瀬家。なるほどな」
「知ってるんですか?不二原とか仁王堂に比べたらかなり弱いとは思うんですが、」
「んまー気にするな。それで一位は?」
「そうですね。一位、レイニウド・レクリア。海外のような名前をしていますが、血筋上仕方がないです。日本に住んでいますし、ほぼ日本人と変わりません」
「まじか、ここでその名前聞くとはな。レイニウド、俺でも知ってるレベルの財閥。そんなレベルのやつがこの学園か」
「そうですね。今年のS+のランクは過去最高人数らしいです。その質も濃いと言うわけですね」
「なるほどな。そしてランキングはテストと任務で上下すると、」
「その通りです。先生はまだ知らないかもしれないですけど、愛ちゃんは実力だけなら三位以上にいてもおかしくないと、そう言われています」
「つまり五位なのは、あのバカさにあるわけか」
「ちょっと失礼なこと言わないでくださいよ。生徒の気持ち考えたらどうですか?」
「おっとすまない。口が滑ってしまったようだ」
「おっとじゃないですよ本当に」
「大丈夫。と言うかもう次の授業始まる。」
「とのことだ。とりあえず次の授業をしてしまおう。国語だ」
「わかりました」
一度ここで会話は終わった。六位の夢香、三位の天ヶ瀬、そして一位のレクリア。有益な情報を手に入れることができた。今のところこの三人は放置でいいだろう。教師として俺ができること、それを探さないとな。と、そんなことを考えてる間にも時間は進み国語の時間も残りわずかとなった。音乃瀬は上がってきただけあり、頭が良かった。犬塚は…。
「お前は国語もできないのか。得意科目はなんだ?」
「関係ない。次。」
かなりできなかった。勉強量はかなりあるだろう。じゃ何がダメなんだ。
「お前効率悪いだろ絶対」
「だから。関係ない。」
「先生失礼ですよ」
この女本当に読めないやつだ。仲良くなれそうでなれない。謎の壁が俺と犬塚の間にはあった。この大きな壁の取り除き方をどうにか探さないとな。とりあえず今は授業だ。切り替えようと俺が気合を入れた瞬間。クラスに常備されているブザーがなかった。
「え、なになに」
「任務要請。静かにして」
ー〇〇区協力要請。Sランク以上の生徒の出動を要請するー
「この感じ、」
「他国の襲撃。急ぐよ。」
「どう言うことだ?なぁ音乃瀬」
「えっとですね。私たちみたいなこの学園の生徒は国の指示や国の危ない時、普通のスパイや戦力として戦いに参加しないといけないんです。それは戦争や紛争も例外ではないです」
「は?政府直下だとしても、そんな危険な場所に経験も実力もこれからの生徒に向かわせるのか」
「そうです。とりあえず早く準備していきましょう」
「実力主義の国。政府直下の学園。他国の襲撃。本当に大丈夫なんだろうな」
「S+は大人に匹敵する。急いで。」
俺が心配していたのは生徒の安全なんだがな〜犬塚には伝わらなかったようだ。俺がぼーとしていた間にすでに二人は出動の準備を終えていた。
「先生は待ってますか?」
「待ってるわけねーだろ。お前らは俺の生徒だ」
「さすがです。先生は最強だと、間違ってなさそうです」
そんなこんなで俺たちは移動することになった。普通に車で電車かと思っていたが、走っていくらしい。二人は相当速かった。俺と足は速い方なのでギリギリ追いつけたが、戦いに参加するとなるとそれは別だ。足手纏いでしかないだろう。
「先生、しっかり卒業迎えさせてくださいね」
そう訴えかけてきた音乃瀬の目は恐怖している小動物のように見えた。上がりたてだし、家庭的な特別な才能があるわけでもない音乃瀬にはまだ恐れがあるのだろう。ならなんのために戦う?音乃瀬を動かしているものはなんなんだろう。気になった俺は聞いてみることにした。
「音乃瀬、お前がそこまでして戦う理由ってなんだ?」
「任務だからですよ。それ以上なにも………なにもないです」
少し歯切れが悪かったが、音乃瀬がそう言うのだ、これ以上詮索するべきではないと思った。
俺たちが現場に着いた頃すでに争いは勃発していた。
「政府の人たち。加算するよ。」
「わかりました」
二人はそうして戦いに加わった。恐れていた割には音乃瀬も戦えていた。でも犬塚に比べると何が足りない。
「音乃せっ……ッ!」
そりゃそうか。ここは戦場、俺が襲われないはずが無いんだ。
とりあえず俺は近くにあった木の棒で殴りかかった。
でもその攻撃が相手に当たることはなかった。結局俺はそこまでだったのか?死ぬかは無いし、あいつらを見捨てる気もない。でもその気持ちに反して実力が伴わない。そうして飛来してくる攻撃。
「卒業を見届けるっ」
そう叫びなんとか相手の攻撃を避ける。ここには政府の人間もいるし生徒もいる。故に逃げ出すことはできない。教師としての人生が終わってしまう可能性が高いから、だから戦い続けないといけないんだ。
俺は強く無い。でも強く無いなりの戦い方がある。
俺はできるだけ、冷ややかな声を出し、仮面を被ってその男に向けて言う。
「お前、死ぬぞ?」
冷徹で圧を掛けた端的な一言。相手を怯ませることぐらいならできた。そして恐怖を覚えさせる。俺のポッケの中にあるその物で。
「はっ、死ぬ?さっきギリギリでかわしてたようなカスがか?と言うかなんだその仮面、今更つけても遅いんだよ」
「顔を隠すには最適だろう。ボイスチェンジもついているんだ。側から見れば完全に女だ」
「関係ないね。俺はもうお前が男だと知っている。もしお前が生き延びても、それを報告されたら終わりだ。お前以外の情報はある程度入ってるんでな」
「……死人がどうやって報告するんだ?」
相手の身が一瞬膠着する。俺もバカではない。その一瞬を狙った一撃。
「風船針じゃ」
「あが、ががががぁぁぁぁぁって痛ててててて」
風船の中に入った針をぶん投げただけだが、刺さるし痛い。このレベルの相手にはこのくらいで事足りるだろう。
「くっ、」
音乃瀬が何人かの男に囲まれていた。ランクS+といえど、流石に数には敵わない。その上音乃瀬はまだ経験も浅い。強くても戦い方一つで命を落とす。
「悪いな野暮用だ。少しここで待ってろ」
針塗れのそいつに告げ、俺は音乃瀬の方に向かう。ただ音乃瀬がピンチに入るような相手だ、俺が勝てるわけがないのだ。
………でも逃げる理由にはならないよな。先生っ。
心の中でそう呟き一目散にそっちへ向かう。後先なんて考えてる暇はなかった。一番近くにいた大柄の男を俺は殴り飛ばしていた。そして吐き捨てる。
「死ね、外道どもが」
「なんだ、こいつ」「殴り飛ばされた?」
様々な言葉が飛び交う。その中でも俺は冷徹さを失わず、相手に立ち向かう。視界の中で殴り飛ばしたやつが、普通に立ち上がった。………は?おい結構マジで殴ったのに、ピンピンしてんじゃなーか。くっそ、これを使うしかないか。
「あなた。少し目を瞑っていてくれませんか?」
「え、大丈夫なんですか?」
「いいから早く」
「はっはい」
とりあえず音乃瀬に目を瞑らせて、俺は戦闘体制に入る。
ー必殺、胡椒だんー
刹那周囲は胡椒で砂嵐のようなものができる。無論ただの胡椒ではない。目がめっちゃ痛くなるやつだ。
「くっそなんだかれ」「どこいきやがった」
「音乃瀬さんはまだ目瞑っといてね」
「え?あ、はい」
目を瞑っている音乃瀬にはもちろんこの攻撃は反映されない。そして仮面を被っている俺にも。これが弱者の戦い方だった。
「て、てめぇ。何者なんだ。そこの学園の生徒か」
そう尋ねられたので仕方なく答えてやることにした。
「口の利き方がなってないな?」
右手中指を立てて相手に向き直り言う。その声のトーンと圧は容易に相手に恐怖を植え付けることができた。
「私がマキだ。覚えておけ。次私の前に姿を表したら殺す」