最高峰の学園。テスト開始!
「まずは犬塚。お前からだ」
来てくれていた生徒の二人も別々にわけ、俺は個別に指導を行う。まず最初に来ていたのは犬塚愛であった。
「ぶい。なにするの?。」
「お前はここが弱い。そして、戦闘面。前の一度しか見たことがないがあれは独学か?」
俺が見たあの戦い方は今まで見たことがないような、そんな戦い方であり、独特のリズムを感じた。その時は戦闘の時のみ頭がキレるやつだとも思ったが、その説は薄いだろう。だったらどのようにあの戦い方を磨いたのか。それが気がかりであった。
「うん。独学。というか、能力の副作用。」
「能力……………」
まぁ、それはそうか。このクラスにいる以上何かしらの能力を保持していても、おかしくはない。
不二原であればあの強大な威力の攻撃。
音乃瀬は音を基軸とした異質な能力。
そのように思い返せば能力持ちがうじゃうじゃといるのがこのクラスであった。
「そんで?能力は教えてくれないのか?」
「見せるもんでもない。先生が敵なら弱点になる。」
「どう考えても仲間だろ」
ここまで授業に出てくれているものの、こいつからの信頼・信用はまだ薄いようであった。
「自分で勝てるようになる。てか。私より強いの?。」
そんなことを聞かれてしまった。
まぁ正直なことを言っちゃえばそんなわけはない。でも、俺の立場的にも俺のイメージ的にも、犬塚のためにも、俺は虚言で塗り固められた仮面をつける。
「あぁ、当たり前だろ?俺は世界最強だ」
「そう。ならよかった。」
一応納得はしてもらったようだ。
それから俺は少しの間犬塚の戦いを見た。
正直な感想を言えば、俺が教えられることは少なかった。それもそのはず、俺のようなある程度基礎に則った戦いしか知らない奴は、犬塚の本能任せな戦いはやりずらいだろう。
リズム、呼吸がまるで他と違う。よって、無駄に基礎に直そうとする必要もないように感じる。
これでは俺がここに長居する必要もないだろう。と、俺はそう思い一旦その場を後にしようとする。
「なぁ、犬塚。お前のその戦いで負けたことは?」
「前回のテスト。凪に負けた。」
あぁ、そんなこともファイルに書いてあったような気がする。ただ、この犬塚は相当だ。こいつに勝った仁王堂。一体どんな戦いをするのだろうか。俺は単純にそう疑問に思うのだった。
「そうか。それじゃ、俺は音乃瀬を見に行く。なんかあるか?」
「ない。」
「端的なこった。それじゃサボるなよ」
その場にその言葉を残し、俺は犬塚に背を見せるのだった。
そうして時は過ぎ去っていった。
もちろんあの後音乃瀬のところにも見に行ったが、それはまた後の話になる。
こうしてまた一日一日と日付は進み、その日はきた。
「お前ら、緊張してるか?」
俺はその日開口一番にそう声をかけた。
「自信。」
「相変わらずだな。お前は大丈夫そうだ」
「わ、私も、やれることはやりました。ただで帰る真似はしません!」
「音乃瀬も見違えてるよ。大丈夫だ」
俺の目から見たこの二人は、かなり成長したと言えるだろう。犬塚の独特なリズムも犬塚がしっかり使いこなせるようになってきた手前、相手からしたら相当めんどくさい相手になるだろうし、前と比べて音乃瀬の完成度もかなりなものだった。音乃瀬が行ったこともあながち冗談にならないだろう。
俺たちがそんな話をしている直後のことだった。
その教室の扉は開かれ、少女が入ってくる。
「いつのまにかとても仲良くなってるじゃない?ねぇ先生?」
「あれから一度も授業に来なかったが、お前は大丈夫なのか?」
「私を誰だと思ってるのよ。まぁ、約束は果たしてあげるから安心しなさい」
「頼もしいな。ただ油断するなよ?こっちの手はなかなかなものだ」
「ふふ。了承しておくわ」
その教室に入ってきたのは他でもない、不二原環。このクラスの現四位の俺の生徒だ。
「ちょちょちょ、不二原ちゃんだよね?よろしくー!私は天ヶ瀬霊で〜す」
慌ててクラスの扉をこじ開けたのはその少女。現三位の天ヶ瀬霊だった。
「えぇ」
「えっ、それだけ〜?つーめーたーいー」
「…よろしく」
「うん。よろしく!下の名前なんて言うの?」
「それって言わないとダメかしら?信頼がまだ浅いんだけど」
「あはは。初対面でこんな言われるとなかなかきついな〜」
台風のように話を進める天ヶ瀬に少し気押されてるのか、今までにないほど不二原は冷たい反応をしていた。
その光景は少し意外であった。不二原は俺の秘密に最初に気づきかけた人間だ。それでもなお、関わりも持ってくれる。不器用かもしれないがいいやつだと思っていたが、初対面の相手にはこのような反応なのだろうか?でもそれなら俺も初対面だし、、と謎ばかりが俺の頭を巡っている。ただ腐っても教師であるが故、一応教師らしいことはしておいた方がいいだろうと思い、俺は口を開く。
「まぁ、その辺にやってくれ。不二原は無愛想ってわけではないんだ」
「おっと、霊ちゃんの方に言うとは先生らしいですね」
へ?かなり教師らしい対応をしたつもりだが、これじゃなかったのだろうか?
ただまぁ別にいいだろう。不二原は不二原なりの思考があるだろうし、それを強制する必要もない。第一、不二原のこんな顔見たことがないぐらい、目の奥に灯しを上げているように見えた。
「そっか、ごめんね。でも仲良くしよ!不二原さんっ!」
天ヶ瀬の理解がいいのか、そう言ってくれた。喧嘩になられると面倒なので、助かった。
「クラスに四人か、考え深いな」
「確かにそうですね。ちょくちょく三人とかはいたけれど四人は初めてですか?」
「あぁ、初日ぶりなのかな?ちゃんと四人以上いるのは」
まぁ、ランキング変動テストということでクラスの全員が自クラスに集結することは突然なのだが、担任を持って以来のことなので、少し感動しているのかもしれない。
そうして少しの時間が経ち、仁王堂とかの有名なレイニウドもこの教室に入ってきた。
「お、来たな。これからは授業も…」
「黙って、何度も言わせないで。私は自分より弱い人に教わることは何もないの」
相変わらず、と言うべきか。仁王堂の対応は酷いものだった。俺がこいつより弱い証拠なんてあるのだろうか?そもそも、これでも俺は最強と呼ばれているのにそれに屈しないとはどんな神経しているのだろう。少なくとも今回のテストでその片鱗は見せてくれるだろうか?と、そんなことを呑気に俺は考えるのだった。
「あなたが、新しい担任の先生?」
次に声をあげたのは意外にも、レイニウド・レクリア。
この最高峰のクラスで一位と言うランキングを待ち、間違えなくこの学年で一番強く、一番の家系で育った圧倒的なお嬢様である。
「あぁ、よろしく頼むよ」
初めて会うってのもあるし、噂も後を経たないが故か少し変に身が入ってしまう。
「はい。よろしくお願いします。家系柄なかなか授業には出れないですけど、見捨てないでもらえると嬉しいです」
こうして、俺が出した手を握り返してきた。
ここで握りつぶされるんじゃないかとも思ったけど、そんな心配はただの心配で終わってくれた。この癖が強いクラスの一位ともなるとどんな奴が来るか身構えていたが、案外普通の女子生徒…なのか?
「握手。」
「うわぁぁぁぁ、すごいね先生」
「またまた先生らしいですね」
「ふふ。それでいいのよ」
ん?そんなにおかしなことをしているだろうか?
んーーーーー。ダメだ。こんなことで考えてても埒が開かない。そう思った俺は素直に質問をすることにした。
「なんか、おかしいか?」
「いいえ、そんなことないですよ」
「だよな」
「いやいやいやいや。レイニウドさんはね、本来こんな近くで見れる人じゃないんだよ?それに教師が頭を上げれないほどの権力に力。そんな……」
「んだよそんなことか。悪かったな」
「いえいえ、私は気にしてませんよ。天ヶ瀬さんもそんな気負いせずに」
「てか、頭上がらないってそんななのな?」
「そ、そりゃ」
「まぁ一応、今のこの国で最高戦力を兼ねるのはレクリアさんだって言われてるレベルですしね」
「それに、そんなことって。重要なことよ?」
なるほどな。通りで普段動じることのない犬塚も声を上げたのか。
「ふーん。まぁでもこのクラスでは俺が教師だから、お前は生徒だ」
「だから、」
「んだよめんどくせーな。次世代のなんだろうと、今は生徒だ。その事実は変わらない」
「そうね。私はその考えに賛成するわ」
「だよな〜さすが不二原」
「む〜」
「先生はね、こういう人なんだよ。でもだからこそ多くを助けれる。霊ちゃんも今は認めよ」
「音ちゃんがそう言うなら〜わかった。でもでも、大きな家系ってことを忘れないで、本当に本当に」
「ッ!!」
天ヶ瀬は案外心配性なのかもしれない。
そしてなんでこいつはこんなにイライラしているのだろうか?
まぁ今声をかける勇気もないし、解決策もないのでとりあえず放置しかできないのだが。いつか、腹を割って話してくれるといいな〜とその場で一人机に座る仁王堂について考えるのであった。
「あぁ、そうそう。もうそろ時間もなくなるし、ランキングについて少し詳しく説明しておこうか」
「ランキングについて?」
「あぁ。まぁお前らの方が詳しいかもしれないけど一応と言うことだ。これも学園側の指示だと思って付き合ってくれ」
「了解よ」
「わかってるよ〜」
「そのクラスは誰しもが知る最高峰のクラスだ。無論その中のランキングには大きな違いもいくつかある」
「へ〜。」
「大きく分けたら、一位から三位。四位から五位。六位から七位。に分類される。上位三名はこの学園でもある程度の自由が聞き、かなりの境遇や権力を持った状況になる」
「そんな変わるもんかな〜?」
「わかりませんね」
「これはこのクラスに入っただけでなくさらに上を目指すための仕組みらしいな。興味ないのか犬塚」
「あるに決まってる。今回は一位。」
「早速狙われましたね」
「いいな。そのいきだ」
と、そんな時。学園中にバザーが響き渡った。
そしてそれは、ここにいる全員の緊張感を一気に高めた。
「テストがもう時期始まる。さぁ行くぞ」
こうして、俺の生徒は順々に教室を出た。そして誰もいなくなった教室でそいつを待った。
とはいえ、長いこと待つことはできない。ここからはあいつの匙加減であり、気持ち次第だ。
その静寂に押しつぶされそうになりながらも待つこと数分。突如としてその時間に亀裂が入った。
「なんだ、逃げ出したのかと思ったぞ?」
俺は急足でその扉を開けた少女にこう言葉を紡ぐのだった。
「なぁ、白石?」