最高峰の教師像
最弱な先生と、最強に近い生徒たちの成長。最後までぜひお付き合いください。それでは実力主義の世界へ行ってらっしゃい。
「おはよう。席につけ」
俺がその言葉を放った瞬間、クラスには響めきが走った。
ここは国の中でも有数のスパイ育成学校だ。名が知れ渡った学校だけあって、実力派の生徒も揃っていた。この国に産まれたからには、この学園に入ることは一つの目標と言っても過言ではないだろう。入ったのに卒業ができれば、将来の安定が約束され、名誉、力共に最高峰のものが手に入る。
それに加えて、この学園にはS+からFクラスまでの八クラスがあり、生徒の実力に応じてクラス分けされる。
俺はそんな超エリート学園の最高峰のクラス、ランクS+の教師をしていた。このクラスに入れるような生徒は知能、実力共に政府に認められた逸材。故にクラスの人数は七名しかいない。そんなクラスの教師が弱くていいわけがないのだ、これまでに選ばれていた実力派の教師ですら数日、長くて数ヶ月で辞めていると聞く。だからそこ謎なのだ。
俺は…………めっちゃ弱い。昔ランクを分ける機会で測ったことがあるが、その時は何度やり直してもランクGをつけられた。俺が一番謎だ、なんで俺がこんなクラスの担任なのか、てかランクGなんてものがあること自体謎すぎるのだ。
この国のランク制度はその人の今の実力ではなく、可能性、潜在能力を含めて評価される。努力次第で二つ上げるとかは可能かもしれないが、BからS+などは、ほぼほぼ不可能とされている。でもこのクラスに配属されたからには威厳は出さなければいけない。そう俺が思考を巡らせていた時。
「先生、」
と、一人の女子生徒から声をかけられた。名前は確か、
「仁王堂 凪ですけど、先生は何日持ちますか?」
「何日持つか?それはどういう意図だ?」
その凪と名乗る少女に俺はそう返した。仁王堂と言うとこの国では知らない人はいないレベルの大企業を運営している会社だ。この少女はきっとそこの娘なのだろう。
「そのままの言葉ですよ。私たちに教えることなんてないってこれまでに先生になった人はみんな辞めていったので、」
「そうか、残念だが今のことろ辞める気は無いんだ」
「そもそも私は、自分より弱いような奴の下につくようなことしたくないんだけど?アンタ強いの」
いきなり態度が急変した。なるほど聞いてはいたがここまでの問題児がいるのか。そしてこう言った生徒の圧でこれまでの教師は辞めてしまったのか。
「口使いと呼び方。直した方がいいんじゃないか?立場は考えろよ?」
俺はできる限りの威厳を放ちそう言う。これでよかったかな?
「ちっ。うるさいわね。どうせ授業も役に立たないのばっかりなんでしょうね。私は出るわ」
そういい立ち去ろうとする。今気づいたが、このクラスには今四人しかいない。凪はまだマシな方だったのかもしれない。
「出ていくのは勝手だが、俺の生徒だと言うことは忘れるなよ」
それの言葉を無視して、強く扉を閉める。あぁ〜喧嘩にならなくてよかった。戦って帰る相手じゃないもん。
「とりあえず今残ってくれている三名の生徒。これから俺が担任だ。よろしく」
強い男はきっと色々を語らない。だから俺もここまでで終わらせた。きっと上手くやっているだろう。ふふーんだ。
「あ、そうですか。それじゃ授業をしましょう。こんな無駄な時間を過ごしたくはないので、」
「ちょっとやめなよ。先生困ってるじゃん」
「しゅん」
「ほら、シュンってなっちゃってるやん!」
やばい顔に出てしまった。
「だって無駄やん。私にランキングで勝ったから文句言ってよ」
「うぐ、そう言われたら何も言えないよ〜」
あの生徒はいい子だな〜確か音乃瀬だったかな。
「先生ごめんなさいね。でも悪い子じゃないんです!さっきの凪も実はいい子なので、許してやってください」
「へ〜あれがいい子ね〜。もうあんな奴に教えること何もないんですけどぉ〜」
「あはは。あれ実は先生って子供っぽいですか?ここのクラスの担任になるのに珍しいですね」
「あ、そうなの?」
「はい。そうですよ。このクラスはみんなが憧れる最高峰のランク。そんなクラスの担任になる人ですからレベルが高いことはもちろん、他教師や政府に認められてないとできないですもん」
「それなのに、そんな認められた教師ですら半年も持たない」
「あはは、そうなんですよね。すみません」
「それが、最高峰のクラスのくせに落ちこぼれと言われた原因か」
少しずつわかってきた気がする。
「そう……なんですよね。」
音乃瀬の顔は少し、暗くなった。タブーだったかな?
「とりあえず、今日はここまでだ。悪いなそこのお前。今日は授業がないんだ。帰って各自自習するように」
俺がそう言うと各々が支度を始める。さて、どうやってこのクラスに馴染もうか、とそんなことを考えながら俺も支度を進める。そんな時俺は声をかけられた。
「ねね、あなたなんでこのクラスに来たの?」
小ちゃい子だった。150センチもきっとないだろう。
「ん?どう言うことだ?」
「人のプライバシーかもしれないところに踏み入っちゃダメだよ?」
「え?どういう…」
「そんなことより、あなた弱いでしょ?」
「………は?」
…バレた?いや早すぎる。そんなことはない。
「弱くねーし、アホか。いい子は早く帰る時間だ」
「そんな慌てなくてもいいよね?」
「慌ててないって、なんなんだ君は」
「ふふ。生徒の名前ぐらい覚えてよ。私は不二原 環。聞いたことはあるんじゃないかしら?」
不二原、悪魔とかなんとか言われていたな。ここもここで親が超有名人だ。
「気に食わない肩書きよね。まーそれが運命なのかもしれないけれど、」
「んで、なんだ?俺は人の肩書きなんかに興味はないんだ。強い俺になんのようだ」
「…興味がない?」
「え?なんて?」
「なんでもないわ。そんなことよりあなたさっきからボロ出さないように必死すぎるのよ。さっきの凪のやつ、ほんとは怖かったんじゃないの?」
はぁっ、バレてる。まずい。そんな顔に出てたか?とは言えない。とりあえず嘘だ。ポーカーフェイスだ。
「お門違いがすぎるな。あいつも含め、俺の生徒だ。」
「そんな引き攣った笑顔で言われても説得力ないわよ」
「…引き攣ってなんかねーし?なんだお前、観察力がすごいのか?」
「そんなことないわ。もっと人間らしくない、悪魔が私だから」
「あ、そうか。とりあえず俺は強いからな」
「さっきから、生徒だの肩書きだの。あなたはまだこのクラスの何も知らない。折れる前にさっさの辞めることね」
「、大丈夫だ。不思議とそんな気はしない」
「………そう。とりあえずあなたが隠したいこと、あの子達には言わないであげるから早く辞めてね」
「何が何だかわからないが、お前優しいな。気にかけてくれてありがと」
「は?そんなこと言われる筋合いはないから」
これが俗に言う、ツンデレ?なのか。とりあえずみんなと馴染めないわけではなさそうでよかった。あとはもっと実力をつけないとな、ポーカーフェイスの。
自分の支度を終えて、俺は自室に戻ろうとしていた。この学校は完全寮制で、ランキング・ランクによってその部屋が振り分けられる。S+ともなる部屋だ、大きくて豪華なことに違いはないだろう。ふふ、やっと休める〜。
「先生…」
と、その瞬間俺は話しかけられた。
「なんだ、まだ残ってたのか。…音乃瀬…」
「はい。少し先生に話しておきたくて、」
「なんだ?」
「先生はやっぱり、このクラスおかしいと思いますよね。周りの生徒からは実力だけとか散々なことを言われるクラスですし、教師の中でもきっと好かれていないクラスだと思ってます」
真剣な眼差しで、しかし声は寂しそうに音乃瀬は俺に訴えかけてきた。だから俺も本心で答えることにした。
「っは?そんなことか」
「……そんなことってなんですか」
「音乃瀬の真剣な想いはすぐにわかったさ。でもなお前も不二原も、もちろん凪も全員今日から俺の生徒だ。他者の感想なんて関係ない」
「でも、毛嫌いされますよね。迷惑じゃないですか?」
「俺は…教師なんだぞ?生徒に迷惑かけられてなんぼだろう。それを認めるのが、俺の教師像だ」
「………」
「そういや、音乃瀬は他クラスからの上がりものだったな。だから余計に根も葉もないようなことを言われるのか?」
「…そう、ですね。凪ちゃんとかもやっぱり、ああ言う性格なので、他クラスからの評判も良くないし、みんながいつも喧嘩腰なのが嫌ですね」
「偉いな、お前は。やっぱりしっかりしてるよ」
「しっかりなんてしてません。このクラスに来てからも、着いていくことで精一杯ですし、ランキングも七位と最下位ですし」
「しっかりしてないだなんて自分で言うな。せめて、自分が信じたいものと、自分ぐらいは信じてやれよ」
「そういう、ものなんですかね…」
「その人次第だけどな。て言うかそのランキングってどうやったら変動するんだ」
「えっと、テストの結果や任務の成功率です」
「なるほどな、任務か。凪とかは何位に入るんだ?」
「凪ちゃんは二位です。政府からしても大切な人材でしょう。あとは、不二原さんは四位に入ります。でもまだ誰にもそこを見せていないような、そんな気がします」
「そうか。そこら辺は後々でいいだろう。ありがとな。助かった」
「いえ、大丈夫です。先生はいつまで私たちの教師でいてくれますか?」
本当に心配そうに、不安そうにそう聞かれた。俺は弱い。あいつらの事情なんてまだ何も知らない。そして嘘も嫌いだ。だから今自分が考える最適な答え方をすることにした。自分が想像する通りの回答を。
「お前らが、卒業するまでだ。あと一年よろしくな」
そうだ、俺はこのクラス全員を無事卒業させる。それもまた俺の教師像だ。