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好敵手

翌日の朝。


子供達は伊賀の里で畑仕事や薬草の採取、外敵の侵入を防ぐ堀や土塁の手入れなどに従事していた。


才蔵は薬草の採取をしていた。才蔵より少し年上の虎之助が才蔵に教えながら話してくる。


「才蔵。薬草の知識はとても大事だぞ。傷を治したり体の調子を整える事もあるが、間違えたものを使うと体調を悪くしたり、死んでしまう事もある。ちゃんと覚えるんだぞ。」


「はい。」


「これはトリカブト。吹き矢の先に塗ったりして使うんだ。少しの量で大男も死ぬ。」


「えっ。き、気を付けます。」


その後も薬草を採取して、才蔵達は佐助の下へ集まった。


子供達が集まったところで、佐助が話し始める。


「今日は跳躍の修行だ。みんな、ここにある道具を使って穴を掘れ。みんなの胴より少しだけ広く、深さは膝より深く掘るんだ。」


子供達は佐助の言う通り、協力して様々な深さの穴を掘った。


「虎之助は前にも跳んだな。お手本を見せるんだ。」


「御意。」


そう言うと、虎之助は穴に向かい、胸までの深さの穴に入った。狭いため、十分に膝を曲げて勢いを付けられず、腕も振れない。


「えいっ!」


掛け声と共に虎之助が跳ぶ。膝下と足首の力で跳んで穴から出た。


「凄い!」


それを見ていた子供達は感嘆した。


「虎之助も始めから跳べた訳ではない。少しずつ跳べるようになった。みんなも始めなさい。」


佐助がそう指示すると子ども達は穴に入り、跳んでみるが、身動きが取れないため、上手く跳べない。


「虎之助。みんな苦労している。穴に入らないで、跳んで見せてあげなさい。」


虎之助は地上で膝を少しだけ曲げ、身体の伸縮を上手く使い、3尺余りも跳んだ。


「だいぶ跳躍できるようになったが、まだまだだ。みんなもこれで満足しないように。」


佐助は子供達に修行に励むように指示して、子供達の修行を見守った。と同時に適性も見極めていた。


そんな中、一回目で虎之助と同じ穴から跳躍で飛び出した子がいた。


その名は村瀬虎丸。才蔵と同い年であったが抜群の身体能力を備えていた。


虎丸の跳躍を見た子供たちは一様に驚いた。


「すごーい!」


佐助も驚きながら独り言をこぼした。

「ほう。生まれ持った才覚。伸ばしていくか。他の子も負けじと張り合うだろうのう。」


そして翌日、佐助は子供達に長い布を配った。


「今日は走力の訓練だ。その布を頭に巻くのだ。巻いたら余った布が地面につかないように走れ。年長の者は周りの子の面倒も見てやれ。」


子供達は一生懸命走るがすぐに疲れて布が下に垂れ下がる。

走るのが不得意な子は走り方もぎこちなく速度も出ない。


虎丸はこの修行も難なくこなしていく。


シュタタタタ。


布の垂れ下がらない速度を保ちながら走り続けた。


虎丸の走りを見て、才蔵と足助も負けじと虎丸に食らいついて行く。


しかし、距離が伸びるにつれ、才蔵と足助は徐々に離され、ついには足が止まっていた。


「才蔵。虎丸は凄いな。でも、もしこれが実戦で虎丸が敵だとしたら、逃げられてしまうことになる。負けられないな。」


「そうだね、足助。拙者たちも負けていられない。跳躍もすごかった。佐助殿は虎丸の剣技も褒めていた。このままでは悔しい。」


「修行以外にも特訓しよう!」


「そうだね!」


才蔵と足助が虎丸を好敵手として認めながらも、負けないように話している横で、才蔵を睨む子がいた。


それ以降も剣術、槍術、聴力、視力、記憶力の訓練をこなしていき、時には僧から学問、中国の歴史や兵法に至るまで勉強もこなしていった。


才蔵ら子供達は訓練をこなしていたある日・・・。


「おい、才蔵。こっちへ来い。」


才蔵より年上で体も大きい天兵衛が声を掛けてきた。


「はい。」


才蔵は呼び出される用件も分からないまま、天兵衛について行った。


そして山中に着くと天兵衛の仲間2人が待ち受けていた。


「おい。お主の父は服部半蔵らしいな。儂の父上はお主の父の命令で城に忍び込んで敵に惨いことをされた上で命を奪われた。儂はずっと父上がいない寂しくて食べ物にも困る苦しい生活を強いられた。だから服部家が許せない。」


「それは難儀・・・」


才蔵が謝罪しようと話し始めると、天兵衛が突然、才蔵の腹部に殴りかかってきた。


ガンッ!


「痛っ。」


才蔵が思わず声を上げた。


父上の仇だ!これまでの恨み、その身をもって受け止めろ!お主らもやれ!顔は佐助殿らに気付かれるから体を痛みつけてやれ!」


天兵衛がそういうと、3人かかりで殴りかかってきた。


才蔵は必死に身を守るが、天兵衛らは遠慮なく暴行を加えてきたため、やがて体中が腫れてきた。


「よし、今日はこれくらいにしてやる。この事は誰にも言うなよ!」


天兵衛らは才蔵を睨みつけながら山を出ていった。


「痛てて。3人相手じゃとても敵わないな・・・。」


-翌日-


いつもの通り、伊賀の里では農作業と訓練が行われていた。


才蔵も厳しく訓練を続けていたが、槍を突く際に昨日の暴行の痛みから、動きが鈍かった。


近くで子供たちを指導しながら訓練を続けていた虎之助が才蔵の動きに気付いた。


「才蔵どうした?筋肉痛か?」


「あ、虎之助殿。ちょっと昨日の訓練で・・・・。」


才蔵はごまかしたつもりだったが、虎之助は違和感をぬぐえずにいた。


そして訓練が終わり、片づけをしていた才蔵に天兵衛が近付いてきた。


「おい、また昨日の場所に来い。誰にも気付かれるなよ。」


「はい・・・。」


才蔵は大人にこのいじめを相談するのは負けだと思い、殴られる覚悟を決めていた。


才蔵は周りを警戒し、誰もいないこと確認すると、山へ向かった。


苦々しい思いをした山中に辿りつくと、天兵衛らが待ち受けていた。


「来たな。今日も父上の恨みを晴らす!」


天兵衛らは慣れた様子で才蔵に襲い掛かってきた。


才蔵は必死に防御し、反撃するべきか耐えるべきか悩んでいた、その時。


「おい!何をしている。」


才蔵の異変に気付き、密かに才蔵の後を追ってきた虎之助の姿があった。


「虎之助!お主には関係ない!立ち去れ!」


「こんなことをして何になる!止めないなら儂が相手してやる!」


虎之助は3人を相手に闘った。天兵衛は同年代の子供らの中でも腕っぷしが強く、体の大きさも生かして虎之助を攻撃してきた。


虎之助は素早い動きで天兵衛の攻撃をかわしながら時折反撃を続けていた。


「くそ!」


上手く攻撃の当たらない天兵衛は苛立っていた。


「おい、お主ら!別れて虎之助の後ろを取れ!」


天兵衛は虎之助を押さえつけるため、仲間に指示を出した。


虎之助は3方から攻められる形になった。


「よし!」


仲間の一人が虎之助の左腕を掴むと、もう一人も虎之助を後ろから押さえつけた。


天兵衛が正面から虎之助の腹部を殴ろうと手を伸ばすと、虎之助は足で天兵衛の顎を蹴り上げた。


「がはっ・・・」


口から出血をしながら天兵衛が意識を失った。


そして左腕を掴んでいた天兵衛の仲間を引き寄せると右手で首を掴み、強烈に握って首を絞めた。


首を絞められて意識も朦朧とし、戦意を失った仲間はその場で崩れた。


背後にいた仲間の腕を両手で掴むと、そのまま背負い投げで仰向けに倒すと、首を絞めた。


「おい、二度とこのような真似を致すな!」


それを見ていた才蔵は虎之助に感謝すると共に自分も虎之助のように強くなりたいと感じた。


やがて意識を取り戻した天兵衛が起き上がり、虎之助を睨みながら思いをぶつけてきた。


「邪魔しやがって。こいつの父のせいで儂の父上は死んだ。許せないんだ。虎之助、お主の父も同じであろう!」


それを聞いた虎之助は一度目を閉じ、静かに目を開けると優しい口調で天兵衛に語り掛けた。


「天兵衛。お主の父上も儂の父上も半蔵様の命令で城へ潜入し、命を落とした。しかし、それは儂らの父達の望むところであったはずじゃ。忍びとして任務に就き、戦地で命を落とす。これは立派な忍びである証拠。半蔵様も父上らの命を軽んじたわけではなく、敵に捕まっても口を割らず、立派に死に遂げると信用したから潜入という難儀な任務を与えてくださったのじゃ。お主の父もこのような才蔵への振る舞いは望んでいないはず。」


「お主の父も潜入し、命を落としたのか。」


「そうじゃ。しかし、儂は恨んではいない。むしろ死に場所を与えてくださった半蔵殿には感謝している。」


「・・・」


天兵衛は自身の父の気持ちを考え、同じ境遇であった虎之助の考えを聞いて何も言えずにいた。


すると、立ち上がり、才蔵に近付いた。


「すまなかった。儂は考えを改める。許してくれ。」


「父上を亡くせば悲しみ、原因を作った相手を恨むのも理解出来ます。これからはお互いに立派な忍びを目指しましょう。」


「才蔵・・・。儂のことが憎いはずなのに。儂はなんと愚かなことをしたのだろう。儂は父を見習い、立派な忍びになる。そして、才蔵。これまでの仕打ちの詫びと今回許しくれたことに報いるため、儂はお主のことを守る!」


二人のやり取りを見ていた虎之助が微笑んだ。


「才蔵、よく申した。我ら伊賀者は一つにまとまらなければならん。仲間内に敵を作っている場合ではない。」


こうして天兵衛らも改心し、憎しみから友情へと変わっていた。

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