織田家最後の希望
◆◆◆妙覚寺付近◆◆◆
“火が上がっている。明智様の計画通りに進んでいるようだな。”
足助は身を潜めながら思った。
するとそこへ弥助が息を切らしながらやって来た。
妙覚寺周辺の警戒を装っていた足助が尋ねる。
「おお!弥助殿!どうなされた?」
「はあ、はあ、あ、足助殿・・。明智が逆心・・、上様が自害なされた。」
「なんと!誠か!信忠様に伝えなくては!」
「力丸様のご伝言、明智の軍勢は多勢ゆえ信忠様は一度安土まで引き、安土の織田本隊と合流する様に、と。」
「承知した!明智軍もいつここを襲ってくるか分からぬ。拙者は信忠様に伝える!弥助殿は小姓衆らと撤退準備を整えてくだされ。」
「ありがたい。」
2人は門番に本能寺から急変の知らせがあると伝えて、信忠の宿泊している妙覚寺に入った。
「弥助殿、では支度されよ。拙者は信忠様に報告してくる。」
そう言って弥助と別れた足助は中庭に着くと、着ていた小袖に土を付けて汚し、水筒から水を数滴ほど手に取り、額や顔に掛けた。
「ご注進!」
と言いながら信忠の小姓に目通りを願い出た。
「何事か!」
信忠の小姓と成りすまし、織田家では村瀬虎丸の名を持つ虎丸が対応した。
「明智光秀が謀反!本能寺は囲まれ、上様は自害なされました!」
「誠か!明智光秀が・・。上様の自害を見届けた者はおるのか!」
「はっ、森蘭丸様が介錯なされるのを拙者が見ております。」
「なんと・・・。ん!信忠様も狙われるやも知れぬな!拙者は信忠様にお伝えする!そなたはここで待て!」
「はっ!上様から信忠様へ最後の言伝もございます!」
「分かった。」
虎丸は信忠の寝所へ向かい、信忠の重臣や小姓衆も集まるよう手配して足助にも来るように命じた。
そして信忠たちは緊急の会議を開いた。
「上様(信長)の救援に向かう!」
やや感情的になっている信忠が重臣らに考えを伝えた。
「上様は既に自害なされたとの報告。」
村井貞勝が信忠に意見した。
信忠は頭の中で理解しても信長の死を受け入れられなかった。
「恐れながら明智の軍勢は13000。こちらは500ばかりでございます。一旦安土まで引いて上様の本隊と合流するのが上策と存じます。」
坂井越中守が進言する。
「いや、明智の事。安土への道は塞いでおろう。」
貞勝が否定すると、虎丸が信忠に進言する。
「本能寺から流れてきた従者が上様からの言伝を承っているとの事でございます。」
議論を聞いていた信忠がすぐに反応する。
「誠か!申してみよ!」
「はっ!上様は明智の事ゆえ京からの脱出は不可能、雑兵に討たれるくらいなら最後までここで奮戦して織田家の意地を見せよ、との事!」
“上様らしくないな。しかし、用意周到な明智の事。橋や街道は塞いでいるであろう。安土への脱出は困難か。”
貞勝はそう思い、信忠に進言する。
「ここ妙覚寺は守るに不便な寺。二条新造御所で戦うのはいかがか。」
「確かにそうじゃ。では急ぎ二条御所へ向かう!」
信忠は込み上げてくる感情を抑え、家臣たちに下命すると急いで軍備を整え、二条新造御所へ向かった。
この時、信長の弟の織田信包らも妙覚寺にいたが、脱出を図り、行動を別にした。
京の町が騒然とし、本能寺の出来事を聞いた京の町に宿泊していた信長、信忠の馬廻衆らは信忠が二条新造御所へ向かったと聞いて、続々と二条新造御所へ向かった。
信忠の下に集まった軍勢は1000人程で、妙覚寺から付き従っていた500人と合わせても1500人であった。
信忠らが出発した頃、どさくさに紛れて信忠軍から足助が抜け出して、付近に身を潜めた。
「京に留まらせる事に成功したが、厄介な二条新造御所に籠城されてしまった。仕方ないか。拙者が内から開ければ何とかなろう。」
足助は持っていた五色米を取り出して妙覚寺入口のすぐ脇に土を盛り、その上に五色米で暗号を残した。
足助は用便に行っていたフリをして信忠の軍勢の後方に向かうと、組頭に合言葉を伝えてから合流して、二条新造御所に入った。
信忠の軍勢が二条新造御所に入った頃、信忠を討つために明智治右衛門の部隊が妙覚寺に到着した。
本来は妙覚寺と本能寺を同時刻に攻撃するはずだったが、行軍に手こずり、治右衛門の部隊は少し遅れて妙覚寺に着いたのであった。
「申し上げます!敵の軍勢は二条新造御所へ移った様子!」
中の様子を見に行った足軽から報告がきた。
「ぬう、勘づかれたか。二条新造御所は攻めにくい。」
治右衛門が思案していると明智光秀から下命を請け、治右衛門に従っていた伊賀者、龍之助が治右衛門の前に進み出た。
「信忠勢には伊賀者も入り込んでおります!何かしら合図があるやも知れません。拙者が寺内を見て参ります。」
「おお、そちは殿から預かった伊賀者か。よし、見て参れ。」
「はっ!」
治右衛門の許可を得ると、龍之助は妙覚寺を観察した。
“合図があるとしたら門の付近か。”
龍之助は門をくぐり、門の周辺を見た。
“お、あったあった。五色米か。今回は組み合わせ文字だったな。「火、同刻、討て」。”
五色米の暗号を確認した龍之助は五色米を拾い上げ、盛り土を均すと治右衛門の下へ向かった。
「申し上げます。伊賀者が内から火の手を上げ、門を開く手筈です。」
「うむ、分かった!全軍、二条新造御所を囲め!」
※五色米
忍者が使用した伝達手段で米を五色に染めて色や米の数に意味を持たせ、仲間しか分からないよう、事前に打ち合わせたしていた。
例
母音 子音→
↓ 青 黄 赤 黒 白 青青・・・
青 あ か さ た な は・・・
黄 い き し ち に ひ・・・
赤 う く す つ ぬ ふ・・・
黒 え け せ て ね へ・・・
白 お こ そ と の ほ・・・




