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本能寺の変

◆◆◆御殿・信長の寝所◆◆◆




信長は乱れ髪、寝巻きである白帷子姿で顔を洗っていた。


“むう、騒がしいな。従者らが喧嘩でもしているのか。”


そこへ蘭丸が駆け付ける。


「騒がしい!下郎どもの喧嘩か!」


「申し上げます!謀反にございます!」


「せがれか!せがれの仕業か!」


この時、信長の脳裏では京の周辺において軍勢を持つ者は嫡男の信忠しかいないはずであった。


「いえ、明智の軍勢でございます!既に敵勢は堂内にも入り込んでおります!」


「なぬ!?・・・。是非に及ばず。」


信長は御殿から寺の内外を見渡す。


本能寺は既に大軍に囲まれた様子で厩舎や門など所々で火の手が上がっている。


御殿前の庭では安田国継の軍勢と僅かな小姓衆が斬り合っていた。


「蘭丸!弓矢を持て!」


「はっ!」


信長は蘭丸から弓矢を受け取ると矢を射掛け応戦した。


シュッ!


シュッ!


必死に矢を射るも信長の視界には塀を乗り換え、次から次へと寺内に侵入してくる桔梗紋の指物を指した足軽の姿が見える。


「バチンッ」


弓の弦が切れた。


側にいた小姓が信長に槍を渡すと、信長は槍を持って明智軍に再び応戦した。


蘭丸も剛の者であった。得意の槍を持ち、信長に近づく明智軍の足軽衆を突き伏せていった。


信長の前に立ちはだかる蘭丸と明智軍の足軽達は激しく戦っていた。


そこへ国継が信長に迫り、槍を一突。


グサッ!


「ぐっ・・・。」


信長の右肘に深傷を負わせた。


「上様!お逃げに!」


「もう良い。蘭。誰もこれより先に入れるな。儂の首は誰にも渡すでないぞ!」


「は!」


信長は御殿の奥へ入ると「女はくるしからず、急ぎ落ち延びよ」と、僅かに残る女房衆に逃げるよう命じた。


そして御殿に火をつけさせ、一人、寝所に入って自害して果てた。天下統一まであと一歩。戦国の風雲児49歳の最期であった。


蘭丸は必死に応戦し、国継と足軽を相手にしていた。


そこに才蔵らが到着した。


「おお!従者の才蔵か!最期は武士として名を残そうぞ!」


「左様でございますな。」


才蔵はそう返すと、蘭丸に近付き直刀を蘭丸に向けて突いた。


ザッ。


蘭丸は斬りつけられたが何とか身を躱して急所を免れた。


「何をする!」


蘭丸がそう叫ぶや否や、国継や足軽衆、伊賀者は一斉に切りかかった。全身に刀数を受け出血し、小袖は真っ赤に染まった。


「まさか・・・。口惜しい・・・!」


蘭丸はなおも槍を持って信長を守るため戦おうとするが、国継に心臓を槍で貫かれ、絶命した。




◆◆◆信長が自害した御殿内◆◆◆




信長の首を切り落とす15歳の若者がいた。


森蘭丸の弟で信長の小姓だった森力丸である。


力丸は信長の首を袈裟に包むと、算砂を探した。


算砂は本堂内に残った女達を誘導していた。


力丸は算砂を見つけ、懇願した。


「本因坊殿!こちらは上様の首でございます。明智軍には渡すわけにはいきません。何卒、ここを抜け出し、供養してください!」


「承った。」


「敵も女、僧には手を出さないでしょう。拙者は残りの小姓らを連れ、敵に斬り込みます。その隙に。」


算砂は首を受け取ると、算砂の従者、原志摩守宗安(はら しまのかみ むねやす)に首を渡し、女達と共に門に向かった。


力丸の横にはイエズス会に奴隷として日本に連れてこられ、信長に気に入られて召し抱えられた今のモザンピーク出身の黒人弥助やすけの姿があった。


「弥助、そなたは妙覚寺まで走り、信忠様にこの謀反を伝えよ!そして決して上様を追って殉死する事なく、安土まで逃れて織田軍本隊を引き連れ反撃の態勢を取るように、と。」


「はっ。」


「残りの小姓衆、付いてまいれ!」


力丸は混戦に飲み込まれそうになったが何とか門を抜け、本能寺を取り囲む明智軍に突入した。


「切り捨てよ!」


明智軍の足軽頭が叫ぶと足軽衆が力丸らに切りかかった。


「よいか!敵に背を向けて倒れるは武士の恥!最期まで武士の意地を見せようぞ!」


「おお!」


突入した織田方小姓衆の奮戦虚しく、あっという間に明智軍に討ち取られていく。


残るは力丸のみ。


力丸は奮戦して武士の意地を見せたが、全身に槍傷を受け、槍を持つ手に力も入らない。


「我が首を取って手柄とせよ!」


最期を悟った力丸は敵に言い放った。


足軽衆は我先にと力丸に群がり、首を取りあった。


力丸たちの命を懸けた奮戦のおかげで、算砂らは本能寺を抜け出した。


「宗安、おぬしは駿河の西山本門寺まで逃れ、上様の首を埋葬せよ。ワシはこの本能寺の死者を供養する。」


算砂は宗安にむけて言った。


「ははっ。」


宗安は東へ走って行った。

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