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復習の牙

◆◆◆信濃の国伊奈地方◆◆◆




武田勝頼らが自害をし武田家が滅亡した知らせを受けた信長は陣中にあった。


「信忠様から勝頼親子の首級が届きました。」


信忠の使者らは首桶を差し出した。


「うむ。桶から出せ。」


使者らが首桶から勝頼らの首級を出し、信長に見せた。


「武運が尽きたか。信玄にも劣らぬ才覚がったが、これも天道。この首を京へ持っていき、晒せ。」


首実験を終えた信長は武田領内を見分するため、信忠らと合流し、甲斐を進軍していた。


その道中。


才蔵に籠絡されて武田勝頼を裏切り、逃亡中の勝頼を自身の領地から追い出した、小山田信茂が信長の陣所に到着していた。


信茂は強大な勢力となった信長に従うのが小山田家にとって最善と判断し、信長に投降してきたのだった。


「信長様、武田家臣であった小山田信茂が面通りの許しを求めています。」


召使から報告を受けると、信忠が信長に進言した。


「父上、信茂の処遇、お任せください。」


「うむ。」


信長、信忠の前に小山田信茂が現れ、平伏した。


「この度の戦勝、まことにめでたいことでございます。是非我らも陣に加えて頂きたく、参上いたしました。」


「この不忠者めが!よくぞ、そのようなことを申せるな。恩ある武田を裏切り、行先のない主君を追い返すとは、家臣のとるべき道ではない!お主ら一門、処刑じゃ!」


信忠が一喝すると信茂ら一行は捕えられた。


その後、信茂の母、妻子ら一族はことごとく捕縛され甲斐善光寺で処刑されることとなる。


信長一行は見分しながら旧武田領内を進み、遂に躑躅ケ崎館に到着した。


武田家の本拠地であったが、既に焼け跡と化していた。


4月に入り、見分を終えた信長は東海遊覧として名所を見て回りながら安土へ向かっていた。


「信長様、あの神社からの景色が絶景とのことでございます。」


家康の命を受け、信長に随行していた半蔵が案内した。


富士山本宮浅間大社のある山頂に到着した信長は人生で初めて富士山を見た。


「これは見事じゃ。日ノ本一の山と言われるだけのことはあるのぉ。」


長年の宿敵である武田を滅ぼし、天下統一への確かな手応えを得た信長は晴れやかな気持ちで富士山を眺めた。


そして近くにあった石に腰を掛け、富士山を眺めながら天下統一への野望を確固たるものにした。


※ この時に信長が腰を掛けた『信長の腰掛石』は今でも富士山本宮浅間大社の境内に残されている。



◆◆◆安土城◆◆◆




甲州征伐を終え、次なる目標に向けて織田家重臣が集まり、軍議を開いていた。


信長の信頼を完全に得ていた虎丸は、家督を譲られた信忠の側近となっていた。


そしてかねてからの方針通り、虎丸は四国の領主を長宗我部氏ではなく、三好康長にすべきと信忠を説得し、信忠も長期的に見て合理的と判断していた。


「父上、四国征伐ですが、我らが手を組むのは長宗我部ではなく三好がよろしいかと。」


信忠が意見具申をした。


「しかし、既に光秀に命じ、長宗我部とは密約がある。長宗我部元親も我らに歯向かう様子もない。このままでも良いではないか。」


「しかし、いずれ毛利と戦う際、我らには強力な水軍はありません。長宗我部は四国におりますが、瀬戸内での戦を経験していないため、水軍は持っておりません。しかし、三好は瀬戸内を領土としているため、水軍があります。三好の方が利点があるかと。」


中国方面を担当していて、毛利水軍に脅威を感じていた羽柴秀吉も賛同した。


「信長様、信忠様の仰せの通りでございます。毛利に従っている村上水軍は難敵。我らも水軍を与しておいた方が賢明です。」


その話を聞いて明智光秀が真っ青な表情で反論した。


「既に長宗我部との密約がございます。反故にしたら長宗我部は我らに歯向かうでしょう。織田家の信頼も失い、我らの信用は地に落ちますぞ。」


「毛利とは戦で勝負しなければならん。それに四国のあとは九州もある。我らに水軍は欠かせん。ここは三好と手を組むべき!」


信忠が光秀を一喝し、続けた。


「それとも光秀。お主の面目の問題か?」


「いえ、そういう訳では・・・。」


「では、決まりだな。光秀。長宗我部には土佐一国を安堵するゆえ、これまでに切り取った領地は三好に譲るよう伝えよ。」


信長の非情な命令に光秀は困り果てた。四国を与えるから長宗我部と関係は構築され、織田家に従っていた。しかも長宗我部元親は既に、四国をほぼ制圧していた。


そこに信長は更に光秀に下命した。


「武田征伐の労をねぎらう名目で家康の命を奪うため、家康を招待する。お主はその接待役を務めよ。抜かりないようにな。」


こうして光秀は信長と長宗我部の板挟みとなり、家康の表向きの接待の準備にも追われることになった。


「信忠、お主も家康が来る際は儂についてこい。京へ向かうぞ。もし家康が少数の共ならお主の馬廻りを使う。500の兵を連れてこい。」


「御意。」


一連の話を聞いて、虎丸は家康が信長に招待されたのが想定外であり、信長を討った後に家康が危険に晒されるのが明白だったため、信長討伐後について思案した。有効な手立ては浮かばないのの、まずは家康に一報することとした。



◆◆◆駿河の国、駿府城◆◆◆




駿河の国を手に入れた家康は駿府城を居城としていた。


そして虎丸から報告を受ける。


「甲州征伐の礼として京で接待を行うと称し、儂の命を狙う、か。」


その話を聞いた半蔵が口を開く。


「その名目だと我らも兵を連れていくわけには行きますまい。かと言って断れない。常に油断出来ない京旅行となりますな。ははは。」


「半蔵、笑い事ではない。しかし、お主の申す通りじゃ。」


「殿、ご安心を。信長と信忠は行動を共にしております。その場には虎丸がおりますので、不穏な動きがあれば対処します。」


「まあ、そうじゃが。それにしても光秀は儂らの思い通りに動くかのぉ。」


「木俣守勝からの話ではだいぶ悩んでおります。もう一押しかと。」


「儂が京へ行った時に光秀が謀反を起こすと、信長を倒せる。あとは信長と信忠の寝所じゃな。」


「ご安心を。それは決まり次第、虎丸から報告があります。それを光秀側に伝えれば我らの計画は予定通りに進みます。」


「うむ、守勝に使いを出せ。」


「御意にございます。」




◆◆◆京、亀山城◆◆◆




毛利と交戦が始まり、苦戦する秀吉の応援のため、中国地方に出陣を命じられた光秀。


その近くには信長に付いて行ってよいのか悩み続ける光秀を遠目に見ている木俣守勝の姿があった。


「殿。かなりお悩みのようで。」


「おう、守勝か。どうしたものか。」


「儂は殿の天下も見えております。」


「なんと?!恐ろしいことを口にするな!」


「このまま信長様に仕え、殿の今後の見通しはどうですか?」


「悪いに決まっておる。しかし、信長様には大恩がある。」


「既に恩には報いております。しかし最近の信長様は、重要な拠点や領地は親族に任せ、血縁のない者を軽視しております。殿もこの先は・・・。」


「・・・。」


「これは千載一遇の機会ですぞ。家康の接待のため信長様と信忠様は京に向かいます。信忠様に500の兵を連れてくるように命じておりましたが自身は手勢は連れて来ません。他の柴田殿や秀吉殿は遠征しております。畿内で大軍を持っているのは、他にどなた様がおりますか?」


「儂しかおらんな。」


「信長様が京に入ったら、動く時です。我らを後押しするように、秀吉殿の援軍の命令もあります。我らが兵を用意しても何の不審もありますまい。」


「・・・。よし。儂の腹は決まった。秀満、利光らを呼べ!」


こうして光秀は謀反を決意し、中国遠征の名目で兵の準備も進めた。




◆◆◆駿府城◆◆◆




虎丸からの伝言を受けた伊賀者が家康の下を訪れた。


「報告します。京に滞在する間、信長は本能寺、信忠は妙覚寺に宿泊することとなりました。」


「おお、宿が判明したか。兵は?」


「信長は召使や女中を含めて100人程度。信忠は500の兵を連れております。」


「謀反を決意した光秀は秀吉の応援のための13,000は動員するじゃろう。上手くいきそうじゃな。」


報告を聞いていた半蔵が助言する。


「光秀が信長を討つ時には京中に明智勢がおります。殿はその直前には京を脱出致しましょう。我らも行動を共に致します。」


「それは心強い。ところで才蔵らはうまく信長の下へ潜り込めたか?」


「虎丸の口利きで信長の“従者”となっております。」


「ふふふ。伊賀者は敵に回すと恐ろしいのぉ。」


「あとは明智勢と才蔵らが信長を。虎丸らが信忠を討ち取れば織田家は大混乱に。」


「その後は秀吉との戦いになりそうじゃな。」


「秀吉は優れた人材を配下に加える癖があります。容易に懐に飛び込めましょう。」


「頼んだぞ。」


信長、信忠の排除とその後の展望の話合いを終えると、家康一行は信長の待つ京へ向かった。

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