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反撃の狼煙

天正伊賀の乱の知らせは各地に行き届き、全国で任務に従事していた忍び達にも伝わっていた。


伊賀者の間には衝撃が走り、ある者は怒りに震え信長の暗殺を企て、ある者は里を失って悲しみに暮れていた。


甲斐の国にいた才蔵もその知らせを聞き、愕然とした。


師匠である佐助の死、生まれ育った里を焼き払われたこと、そして優しかった母が無残に切り殺されたことも才蔵の心に大きな影を落とした。


そして織田軍の残忍さも全国へ知れ渡ることとなった。





◆◆◆甲斐の国◆◆◆





戦国最強とも言われた武田信玄は病死し、四男の勝頼が跡を継いでいた。


信玄の死後、長篠の戦いで重臣や多くの兵を失うも、勢力は保ったままであった。


信玄以来、従ってきた重臣と勝頼の間で亀裂が生じていたものの、先の長篠の戦いで馬場信房や山県昌景ら武田家を支えてきた優秀な武将達が命を落としたことで勝頼を制するものはなく、意見する者も減っていた。


そんなある日、軍議を開いていた勝頼の下に透波者から報告の密書が届いた。


「ほう、織田が伊賀を制圧か。女子供も伊賀者を皆殺しとは、惨いことをするの。しかし、織田とは和睦を目指して動いておる。無用な刺激は避けたいのぉ。」


勝頼が独り言をこぼすと、それを聞いた真田昌幸は織田の脅威への対応を提案した。


「殿、織田は信用できる相手ではありません。北条、上杉を敵に回している今、織田の背後を突ける毛利や長宗我部と結ぶのが上策かと。中国、四国は織田が攻めるのは必至。我らと利害が一致します。」


昌幸が織田への対策を進言すると、穴山梅雪が反対した。


「毛利も長宗我部もいずれ織田に制圧されるのは目に見えております。今、織田に敵意を見せるのは愚策。同盟を結べるよう、働き続けるのが上策。」


「何を申される。我らと毛利、長宗我部、更には島津などと手を結べば織田は包囲される。勝機は十分。」


勝頼は出来ることなら強大な勢力となった織田とは手を結びたいと思っていたが、決めきれずにいた。


「殿、儂の透波者からの報告では織田は我らに攻め入る気配はないとのこと。無用な刺激は争いの素ですぞ。」


そこに小山田信茂が梅雪の案に賛同し、勝頼を説得すると織田と手を結びたい勝頼は決意した。


「よし、我らは織田との同盟を目指す。」


こうして武田家は織田との和睦を目指す方針となった。甲斐の国に潜伏していた才蔵はこの知らせを聞くと、ニヤリと笑い、使いを家康の下へ送った。




◆◆◆浜松城◆◆◆




御殿で中庭を眺めながら今後の展望を考えていた家康の下へ才蔵からの使いが到着した。


「伊賀者か。いつもの書院に。」


「御意。」


御殿内にある書院に通されると伊賀者は家康に報告した。


「武田は織田家との戦を避け、同盟を目指す方針。そして梅雪も才蔵殿の意のままに行動しております。」


「ふふふ。さすが才蔵じゃ。武田が織田家との同盟を目指せば、織田家と同盟関係にある我らには手を出せまい。更に我らが織田領に近い武田領を攻めても援軍は出しにくいだろうな。ふふふ。」


「勝頼は織田家を刺激したくない様子で、かなり気を使っております。」


「そろそろ武田との最終決戦じゃな。そのあとは織田にも・・・。ご苦労であった。ゆっくり休んでから才蔵の下へ戻るが良い。」


「ははっ!」


武田勝頼の真意を知った家康は直ちに戦支度を始め、高天神城を攻めた。


高天神城は徳川、武田領の境にあり難攻不落の山城であった。


これまでも攻城に挑戦してきたが、長期化と勝頼本隊の後詰を恐れ、本格的に攻められないでいた。


しかし、今回は周囲を砦で固め、兵糧の運び入れもさせず、厳しい監視を続けていた。


ついに高天神城は窮地に陥り、城内では勝頼に見捨てられた、と不満が噴出していた。


甲斐にいた勝頼は信長を刺激することを恐れ、後詰を出せず、ついに高天神城は落城した。


家康は伊賀者を使い、武田領内にこの勝頼が城を見捨てた事実を広めさせた。


その結果、国衆らは混乱し、このまま武田家に属してよいものか、わが身の今後を考えるようになる。


才蔵は誰が武田に忠義を尽くすのか、誰なら裏切るのか、誰が日和見主義なのかを配下の伊賀者を使い、情報収集をしていたため、素早く対応を開始した。


既に籠絡していた小山田信茂、穴山梅雪を始め、国衆にも武田の悪評を広め、反武田の火の種を大きくしていた。




◆◆◆安土城天主◆◆◆




「伊賀も落とし、ひと段落だ。次は武田を滅ぼそうと思う。勝頼は油断できない相手だ。何か良い手立てはあるか?」


信長が重臣たちに意見を聞いた。


「我らは確実に敵を制圧し、無敵の織田軍となっております。しかし、一度に全ての敵を相手にはできず、効率的に制圧するべきかと。今、武田を憎むのは徳川、上杉、北条でございます。これらに我らと手を組み、同時に攻めるよう申し入れてみてはいかがでしょう?」


秀吉が進言する。


「ふむ。試す価値はありそうじゃな。徳川もまだまだ使えるしな。」


「武田、北条を制圧するまでは。」


秀吉がニヤリと笑い、信長に同調した。


「我らが武田領と北条領を手に入れたら徳川に用はないのぉ。」


「むしろ邪魔かと。」


「さすが秀吉。分かっておる。」


こうして信長は武田を攻略するため、徳川、上杉、北条と手を結ぶことにした。


-この頃の織田信長は畿内を制圧し、畿内を中心に全国へ領土を広げていた。-


北陸方面は柴田勝家。


中国方面は羽柴秀吉。


関東方面は滝川一益。


四国方面は信長の三男である織田信孝。


そして畿内を統一する前に畿内方面を担当していた明智光秀。


光秀は信長の信頼が厚かったため、遊軍のように至る所へ出兵していたが、その能力の高さゆえに、外交も担い、四国の長宗我部氏を従属させるよう働いてもいた。


光秀は信長の許しを得て、四国は切り取り次第、領地として良いと長宗我部元親に伝えており、元親はその約束を信じて四国をほぼ統一していた。


信長の側近に取り立てられていた虎丸はある“妙案”を思いつき、家康の下へ使いの者を送った。




◆◆◆浜松城◆◆◆




虎丸からの報告を受けて家康は家臣を集めていた。


「皆に集まってもらったのは他でもない。遂に信長が我らを切り捨てる時がきたと考えているようじゃ。武田、北条征伐には我らを使い、その後は徳川征伐じゃ。どう振る舞うのが良いか。」


「武田領は我らも是が非でもほしいところ。信濃、甲斐はともかく駿河だけでも手に入れ、国力強化をしたいですな。信長に信濃、甲斐を譲る代わりに駿河を我が領土とすることを提案しても受け入れるはずでございます。」


重臣の榊原康正が提案する。


「その通りじゃ。」


「しかし、我らの本当の狙いは駿河ではありません。」


「ほう。」


康正がちらっと服部半蔵を見ると、今度は半蔵が話し始めた。


「殿、我らは一度三方ヶ原において武田には完膚なきまでに敗北致しました。その武田の強さ、我らも欲しいところ。」


「なるほど。今こそ、武田に潜入した伊賀者。そして武田とのつながりを持ち、明智殿の下にいる木俣守勝を生かす時、ということだな。」


「左様でございます。守勝は武田に仕えたこともあり、信頼は厚い。守勝に頼み、武田家家臣や騎馬、武田流の戦の作法や築城技術を我らに取り込めば徳川軍はかなり強化されます。」


「まずは織田と手を組み、武田攻略を目指す。伊賀者の情報を基に我らに組み込める勢力は組み込む。武田に付き従う者は伊賀者を使い、内から攻める。そして武田の強さを我らに取り組み、織田に備えるわけじゃな。」


「その通りでございます。更に信長の命を狙う機会もあるかと。」


「虎丸か?」


「いえ、虎丸に信長の暗殺をさせても織田家の滅亡にはなりません。三好康長と羽柴秀吉の良好な関係を使い、羽柴・三好対明智・長宗我部の構図を作り上げます。三好は元々近畿、四国を制していた者。長宗我部に四国を取られるのは屈辱です。また、明智と羽柴も激しい手柄争いをしております。更に信長は手柄を上げなければ領地没収という仕置きまでしておりますので、奴らは必死に動くはず。」


「ほう。」


「そこで虎丸の出番です。信長に対して四国を三好に譲るべき、と仕向けるのです。信長自身は長宗我部とは縁はありません。しかし、三好は瀬戸内を領土としていたため強力な三好水軍を持っております。織田はいずれ毛利と戦います。毛利には村上水軍があります。その点、長宗我部には水軍はないため、今後の戦略上、三好の方がつながりを持つ方が得策。」


「確かにそうじゃな。信長も目先の四国征伐に拘り、長宗我部と手を結んだが、三好の方がこの先も必要になるの。」


「せっかく長宗我部との和睦を成立させても、信長が和睦を反故にし、三好と手を結んだら光秀は面目が立ちません。しかも秀吉が中国地方を手に入れ、光秀は四国を従属させた手柄が無くなれば自身の領土は没収。行先すら危ういです。」


「そうなると光秀が謀反を企てることもあり得るの。」


「そして守勝の出番です。」


「謀反を起こさせるのか。もしや謀反が起きた時に信長を無防備にさせるのも・・・?」


「もちろん、虎丸の役目。その時には武田征伐も終わってますので、伊賀の里を滅ぼされた我ら伊賀者の本領発揮です。才蔵らも呼び寄せ、織田家を滅亡させます。」


「恐ろしいのぉ。信長は既に家督を嫡男の信忠に譲っておる。すると信忠の命も狙うのか。」


「左様でございます。」


「よし、我らの生き延びる道は開けたな。早速武田征伐の準備じゃ。」



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