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潜伏

◆◆◆翌明け方◆◆◆




水汲みに行く番の足軽らと共に竜丸ら伊賀者も同行して城外に出た。


足軽の一人が竜丸に話しかける。


「よし、お主ら新入りは石集めじゃ。投石に使える拳くらいの大きさの石と堀を登る敵に落とす大き目の石をたくさん集めてきてくれ。戦が近いらしく、数が必要じゃ。牛の刻(昼)までにここに集まれ。」


「御意。」


“それだけ時間があれば十分だ。鳴海城までは3里余り。ふふふ。”


竜丸は心の中で笑うと横にいた寛蔵に呟いた。


「儂は鳴海城まで行ってくる。儂の分の石も集めておいてくれ。」


「石は任せろ。気を付けて行って来いよ。」


竜丸は石を探すフリをして水野方の足軽達から少しずつ離れると、周囲を警戒しながら鳴海城まで走った。


“それにしても城主をはじめ、織田勢は油断しているが後詰を手配したり石を集めたり水もきちんと備蓄しており、やることはやっているな。信長の指示か?油断できんな。”


竜丸は嫌な予感がしながらも3刻(約1時間30分)走り続け、鳴海城に到着した。


「儂は岡部元信殿の下命で刈谷城に忍び込んだ伊賀者である。火急の伝言がある故、元信殿にお会いしたい。」


竜丸は門番に話しかけた。


「今確認する。しばし待たれよ。」


門番はそう言うと足軽頭に報告し、足軽頭は岡部元信のいる本丸へ向かった。


するとすぐに足軽頭が走って戻ってきた。


「ご無礼を致しました。元信様がお待ちです。こちらへ。」


竜丸は元信の元へ通された。


「おお。よくぞ参られた。して、火急の用件とは?」


「はっ。刈谷城の足軽頭から聞いた話ですが水野信近の兄、小川城の水野信元の軍勢と佐久間信盛の軍勢が刈谷城へ後詰のため、動いているとの事でございます。」


「なんと!儂らが三河へ帰るのも危ないな。信長め。義元様の首級を渡す代わりに城を明け渡させておいて、その帰路で攻めるつもりだったのか。」


「その可能性はございます。守りを固めるつもりかも知れませんが、いずれにせよ“損害を与えて撤収”は容易ではありませぬ。」


「よし。何もせずに素通りするのは危なすぎる。やはり攻めると見せかけて撤収が一番だな。ではお主ら伊賀者は23日深夜、城内に火を放って大いに混乱させてくれ。刈谷城の内側が混乱したら儂の手勢で城を攻めて敵が反撃に出る前に撤収だ。」


「御意。では時間がありませんので、急いで刈谷城へ戻ります。」


「うむ。無事に任務を果たしてくれ。そして三河で会おうぞ。」


「はっ。有難きお言葉でございます。」


竜丸は元信に別れを告げると急いで刈谷城へ向かった。


竜丸が刈谷城に近づいた時、佐久間信盛の旗印が城下の大手門付近に見えた。


“もう城下にいるのか。まずいな。”


そう思いながら寛蔵や刈谷城の水汲み番の足軽らと合流した。


寛蔵から石を受け取り、城内に戻ると見たことのある顔の足軽がいた。


“あれは佐助殿!”


どうやって城内に忍び込んだのか、ふっと疑問に思ったが伊賀者一の佐助と言われる男のことなので、感心し、納得した。


その佐助はチラッと竜丸を見ると視線を門の礎石あたりに向け、そのまま足軽の集団の中に消えていった。


”何かあるな。”


足軽頭が水汲み番の足軽らに指示を出す。


「ご苦労であった。水は本丸内の(かめ)に入れてくれ。石は門と櫓付近の足軽が移動する通路あたりに置いてくれ。」


竜丸は石を置きに行き、佐助の視線の先にあった礎石を確認した。


そこには五色米で暗号が残されていた。


“大手門と表門に火を点けろ”


竜丸はその暗号を確認するとすぐに足で米を蹴散らした。


そしてその夜。足軽たちは忙しく夕食の準備に取り掛かっていた。


竜丸は多忙な足軽に紛れながら伊賀者に佐助からの伝言と指示を伝えた。


「5人ずつに分かれて一斉に大手門と表門に火を点ける。子供ら4人は火の騒ぎを見れば儂らを見つけて合流するであろう。火が上がったらその騒ぎに乗じて佐助殿たちが城内に入り、近くまで来ている岡部元信殿の軍勢が押し入る手筈じゃ。」


「御意。」


竜丸は伊賀者に計画を伝えると他の刈谷城の足軽らと同様に夕食の雑炊を食べた。


夕食後、竜丸ら伊賀者は片づけをしながら城外や周囲の足軽達を観察していた。


城外にも竈の煙が多数見える。


竜丸が寛蔵に話しかける。


「城内も外の佐久間勢も時を同じく食事のようだな。これは都合が良い。」


「その通りでございます。食事中が絶好の機会ですな。」


「よし、では明日、23日の夕飯時だな。皆の者もよいな。」


「御意。」




◆◆◆その頃、城外の寺に身を潜めていた佐助ら◆◆◆




佐助が他の伊賀者に話しかけた。


「いよいよ明日じゃ。鳴海城で首級と明け渡しの合図である狼煙が上がったら、時を見て城内の竜丸らが表門と大手門に火を点ける。火の手が上がったら、儂らは表門と大手門の反対側である裏門周辺から忍び込む。」


佐助の話を聞いて鷹兵衛が問いかける。


「御意にございます。近くに来ている岡部殿の本隊はどこから攻める手筈で?」


「悩ましいのはそれじゃ。城を攻め落とすわけではないから、岡部殿は表門か大手門から攻めると思う。佐久間信盛の軍勢が城下、大手門付近にいるため逆側の裏門あたりから攻めるのが良いと思うが、いかがしたものか。」


「裏門は迂回するため、遠回りになり、城内の櫓からも丸見えですぞ。」


「そうすると当初の予定通り、儂らが表門を開けて岡部殿の軍勢にはそこから攻めて頂くか。」


「佐久間勢の不意を突けば正面から突破出来るかと。」


「佐久間勢が体勢を立て直しらたまずいのお。」


「城内が混乱している間に撤退すれば損害は僅少だと思います。」


「危険じゃが、そうする他ないか。では鷹兵衛、岡部殿の本隊を探して表門から攻めて頂くよう、伝えてくれ。」


「御意にございます。では早速。」


「頼んだ。」


鷹兵衛は岡部本隊を探しに寺を出て北上した。


※五色米・・・米を五色に染色し、その組み合わせで言葉にした。組み合わせを事前に打ち合わせることで、他の者が見ても意味はわからない工夫もあった。

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