豆!!!
警察署の奥に入るなんて初めてですよ。ドラマみたいだー。
で。あの日の事件について話せばいいんですよね。
あれは2月3日の節分の日……
・
(あれ!?)
「マニー。マニープリーズ」
慌てましたよそりゃあ。銃を構えた銀行強盗が目の前に警報器が作動しないんですもん。
捕まった犯人は外国人のサイバー犯罪グループと持と軍人だったんでしょ?
全員が顔を隠す為に鬼のマスクをしてて怖かったぁ。
警報器どころか電話線もネットもなーんにも使えなかった。自動ドアも閉められてシャッターまで降ろされた。
プロって怖いですねぇ。私たちもお客さん達もあっという間に拘束されました。
「1分でバッグに金を詰め終わらせなさい。1秒遅れる度に人質を一人ずつ殺します」
日本人らしき犯人の一人がそう言った。プレッシャーだったぁ。私のせいで人が死ぬかもしれないって。
その時でしたね。あの人のが現れたのは。
ガゴガゴガゴ!キキキキキキキッ!
信じられますか?普通のおじさんがシャッターと自動ドアをこじ開けて入ってきたんです。
防犯用のシャッターとドアは人の力では絶対に開かないはずなのに……しかも片手で。
「まだ営業時間内ですよね?」
その場にいた全員が唖然としちゃって。私も「この人は味方?敵?」と思ってました。
「!!!」
何語か分からないけど犯人の一人が叫びながら銃をおじさんに向けて撃ちました。
私がヒイイと目を閉じて開けるとおじさんはガムを噛んでました。
まぁガムじゃなくて拳銃の弾だったんですけど。
人間って向かってくる銃弾を歯で受け止める事が出来るですねぇ。
「プッ!!」
おじさんはパチンコ玉より小さくなった銃弾を床に吐き捨てました。
「なるほど。銀行強盗です、か」
「我殺君!」
「刃物はいけません」
青竜刀って奴ですか?中国の刀みたいなの。おじさんは振り落とされたそれを腕で受け止めました。青竜刀はパキッと折れましたね。
腕から血?出てませんでした。
「肉を切らせて骨を断つ……なんて言いますが私は肉すらも切らせません。次は私の番です」
おじさんの攻撃は私なんかにゃ見えませんでした。
スローモーションにしても残像しか見えないんじゃないかな?
強盗達がバタバタと倒れていきます。
「ヤッテラレルカ!コンナノキイテネーヨ!」
残された犯人達はおじさんが入ってきたドアから逃げ出しました。
おじさんは何事も無かったかのようにカウンターまで来て私にこう言いました。
「すいません。銀行カードを無くしちゃって……再発行ですかねぇ?」
「は……犯人!警察呼ばないとぉ!!」
「落ち着いて落ち着いて。そうか捕まえれば良かったのか。とりあえず拘束しときますね」
おじさんはウエストポーチから豆を取り出しました。
はい。豆です。あの食べる豆。
袋を開けて一掴みしてドアに向かって豆を投げました。
パキュウウウウウン!
男たちの撃った拳銃がオモチャだったんじゃないかと思うほどおじさんが豆を投げる音は凄かった。
おじさんみたいな人が昔いて「節分の日は豆を撒いて鬼を退治する」って文化が生まれたんじゃないかな?
あとは刑事さんたちの知ってる通りです。
逃げていた犯人たちにおじさんの投げた豆が当たって気絶。御用と。
「あれ!?すいません。豆の袋の下にカードありました!よかったー。見てください。ほらほら」
「あー確かに。良かったですねぇ」
もう考えるのを止めました。銀行強盗は退治されたしおじさんのカードは見つかった。それでいいやって。
「お騒がせしましたー」
鬼みたいに強かったけど可愛い人でしたね。私にカードを渡したのを忘れてそのまま帰っちゃうんですもん。
フクオ・リョウさん。
クリスマスの奇跡ってのは聞いたことあるけど節分の季節ってのはじめてでしたね。
鬼がやって来たと思ったら福が来たんですから。
『鬼は外。福は内』ってね。