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コジマさん、呼び出しされる。


 ◆ ◆ ◆


 翌日、ディミトリも体調が回復し「いつまでも休んでたらついていけなくなるからね」と彼は授業へ参加するようになって。


 さすれば、彼の家政婦であるコジマさんも授業に参加せざるを得ないだろう。


「ねぇ、あのリーチ家の……」

「まさかアイーシャ殿下の婚約者に毒なんて」

「息子の裏切りにリーチ将軍はどうなるんだろう」


 授業の合間の雑談は、その話題で持ち切りの様子。

 そして当然、生徒全員それぞれの席が充てがわれている教室の中で――一番前の席は、ぽっかり空いたまま。教壇の真ん前の席は、さぞ授業に集中でき、先生に質問もしやすい席だっただろう。実際、先週まであの席に座っていた生徒は、すぐさま「先生!」とまっすぐ手を挙げる生徒だった。


 そんな勤勉な生徒が不在のまま、授業が始まる。


「黒曜騎士団とは、みなさんがご存知の通り、どこの国にも属していない騎士団のことです」


 そのような常識から始まる授業、窓際の端に座るコジマさんはノートをとるまでもない。

 それはかつて、ディミトリも得意気に話してくれたことだ。


七つの武具(セブンス)》と呼ばれる才能(スキル)所持者のみで結成され、入団するには自らドラゴンを使役することが求められる戦闘集団。さらに特出すべきは、どこの国にも在籍していないこと。どの国でも同様の独自の執行行使権を所有している。現に二年前までのシェバ大戦は、高い戦闘能力で戦線に乱入し、第三者からの独自行使権で強制的に戦闘を終わらせ、その後も睨みを利かせ、早期の終結を図っているのだ。


 そんな越権行為をどこの国も看過しているのは、あまりに高い戦闘能力から。だけど庶民からすれば『正義の使者』として高く羨望されている集団でもある。


 その集団を現在率いている団長は創設者から代々《七つの武具(セブンス)》を開花させているコールジア家。現団長も齢二十六歳の若き青年で、その集団名の通り黒曜の翼竜を乗りこなすコールジア家の嫡男であるという。シャバ大戦でも、その豪腕と卓越した交渉能力で、両国の被害を最小限に済ませた功労者だ。


 ――実際はそんな大それた人じゃありませんがね。


 そんな説明を聞きつつも、コジマさんが小さくため息を吐いた時だった。


「失礼しますわ――」


 その時だ。先生の講義を遮って、教室の扉が開かれる。

 そこには金髪がたおやかな一人の女生徒が立っていた。リボンの色からして三年生だろう。金の腕章は生徒会長の証――すなわち、この女生徒がこのシェノリア学園生徒会長。


 ――レティーツァ=エーデル=シェノン殿下。

 彼女はつかつかと教室に入ってきては、閉じた扇で一人の女生徒を指す。その相手は、コジマさんだ。


「あなた、来なさい」


 言い放つや否や、即座に踵を返す生徒会長の蛮行に、教師も「退出を許可する」と渋い顔で頷くのみで。


 ――仕方ないわね。


 ここで下手に歯向かえば、ディミトリやアイーシャに危害が及ぶかもしれない。授業に出たとはいえディミトリだって体調万全とは言い難いし、アイーシャも誘拐の調査や手回しに疲れている様子だ。


 ――そして、その諸悪の根源が……。


 確証があるわけではないけれど。それでも、あのタイミング(・・・・・)で自分を呼び出したアイーシャの仲の悪い第二王女が、一連の事件と無関係だとも思えず。


 綺羅びやかな金糸のあとを付いていき、辿り着いたのは生徒会室。貴族学校のトップが使う部屋にも関わらず、質実剛健な雰囲気の一室。だけどその中での一際立派な執務机に浅く腰掛けた彼女は、コジマさんに向けてゆっくり目を細めた。


「こないだは、わたくしの呼び出しを無視してくれてありがとう。せっかくご馳走まで用意していたのよ?」

「……その節は申し訳ありませんでした。主人の急事だったもので」

「そうね、知ってる。アイーシャが重用している騎士の息子の犯行だってね?」


 ゆるく細まる赤い目は、同じ色のはずなのにまるでアイーシャとは似つかない。

 それにコジマさんが奥歯を噛み締めれば、レティーツァは目を丸くする。


「なに、その顔? もしや、裏でわたくしが噛んでいると思ってるの?」


 だけど、その年相応の顔は、すぐに愉悦へと変化した。


「ふふっ、正解♡」


 ――たしかに厄介な人ね。


 ここで堂々と悪事を明かすということは、如何に調べようとも『裏がとれない』確証があるということ。使用人如きと二人きりのときの供述だけで、証拠となるほど、この世の中は甘くないのだから。


 しかも、それをわかった上で、彼女は白々しくコジマさんに交渉(・・)してくるのだ。


「わたくしは戦争とかは興味ないんだけど~。ほら、あの生贄くんに何かあれば、責任はアイーシャになるでしょう? アイーシャが原因で戦争になったら、それこそ次期女王の座とか、お父様も考え直さなきゃならないじゃない?」


 まどろっこしい言い方は、コジマさんの好みではない。

 なので早急に結論を述べさせようと、目を据える。


「私に、どのようなご用件ですか?」

「わたくしに仕えなさい」


 第二王女は扇で口元を隠しながら、優美に微笑んだ。


「悪いようにはしないわ。わたくしの近侍でも……そのメイド? のお仕事が気に入っているなら、側付きでもいいし。とにかくわたくしに仕えてくれればいいの。あの生贄王子より、よっぽど貴女の方が有益だわ。サン=コールジア(・・・・・・・・)さん?」


 ――つまり、黒曜騎士団の後ろ盾が欲しいということね。


 たしかに、代々様々な独自行使権を所持している黒曜騎士団(コールジア家)の後ろ盾が得られれば、王位継承に対して大きなアドバンテージとなるだろう。


 それはもちろん、コジマさんが本当にコールジア家の息女であったら、の話だが。


「……どなたかとお間違えでは?」

「ま、貴女が主人と友達を亡くしていいなら、そういうことにしといてあげる」


 だけどコジマさんが白を切ろうとも、レティーツァの笑みが曇ることはなく、


「ねぇ、大切なひとを何度も失くすのって、どんな気持ち?」


 むしろカッと頭に血が昇ったのは、コジマさんの方で。


「――失礼します!」


 彼女は慌ただしく一礼して、雑に踵を返す。クスクスとした笑い声が見送る中――手のひらが痛くなるほどに強く握った拳は、しばらく解けそうにない。


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よろしければこちらもどうぞ。 長期連載中。主従でループしている溺愛ラブコメ。
婚約破棄されたおつかれ聖女はループ生活に嫌気が差したので、溺愛過剰なワケあり忠犬騎士と逃亡生活を満喫します!
― 新着の感想 ―
[一言] うーん なんだかコジマさんのキャラが初期とぶれているような気がします 実家のことは変装もしていないしほぼ隠す気がないはずなのにあっさり圧力に屈してますし 王子と第二姫を人質にとられたらなんで…
[一言] 嫌な女だねぇ…
[気になる点] 2章でコジマさんは隣国にいるお兄さんに手紙を出していましたが、まだ返事は来ないのですか(「決闘目前、コジマさん」から何日経過しているか分からないけど。)。 [一言] やっぱりレティーツ…
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