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コジマさん特製タコさんウインナー


「髪を切りなさいっ!」


 ある日の昼休み。

 今日も今日とて、コジマさん特製のお弁当を二人……いや『わたくしだけ仲間はずれなんて寂しくってよ!』と、三人で食べるようになって数日。


 アイーシャは対面に座っていたコジマさんをタコさんウインナー(試しに入れてみたらアイーシャが気に入ったので毎回入れるようになった)が刺さったフォークを突きつけた。


「鬱陶しいのよ、その髪。特に前髪っ! ただでさえメガネをかけているのに……野暮ったくて仕方ないわっ‼」

「……それは申し訳ありません。前の主人の命令でして」


 あまりの覇気に、ワンテンポ遅れてから頭を下げるコジマさん。だけど、アイーシャが求めていたのはそんな心無い謝罪ではなく。


「前の男をいつまでも引きずってんじゃないわよ!」


 アイーシャはタコさんウインナーをぱっくりもぐもぐごっくんしてから、隣の婚約者の腕を肘で突く。


「ほら、今の主人はどうなの⁉ もっとスッキリしたメイド……じゃなかった。家政婦がいいわよねぇ⁉」

「う~ん……そうだね。俺もどうせなら、コジマさんの素顔を見て生活したいな?」

「言い方……‼」


 ディミトリの発言にアイーシャは「その全方位の女を口説くような言い方どーにかならないの⁉」と顔を赤くして。それにディミトリも「そんな口説いているようなつもりなんかないからねっ」と二人を見比べ気を動転させ。


 そんな楽しげな二人を前に、コジマさんは菜箸を置いてじっとテーブルを見つめていた。


 ――前の男を引きずるな、ですか……。


 アイーシャが言ったのは、前の馬鹿主人(ザナール)のことだと、わかってはいるけれど。それでもどうしても、今は亡き最愛のひと(ヴァタル)を思い浮かべてしまうから。


 ――なかなか厳しいことを仰っしゃりますね。


「――コジマさん、聞いてますの⁉」

「あ、はい。何でしょう?」


 名前を呼ばれ、ハッと無表情面をあげたコジマさんを見て……アイーシャは「はあ」と嘆息してから、再び本日五本目のタコさんウインナーをもぐもぐごっくん。


 そして、テーブルの上に置いてあった閉じた扇をコジマさんに向けた。


「いいこと? 今度の休日に街へ行くから! もうこの際私服から何から、わたくしが全部選んで差し上げますわ!」

「ちなみに、どうしてでしょう?」


 ――どうして彼女がそこまで?


 率直な疑問を投げかけてみれば、アイーシャがさっきよりも顔を真赤にして。広げた扇に顔を隠しつつも、熱そうな耳がコジマさんには見えていた。


「と、友達だからですわっ!」


 ――友達とは、全身コーディネートする相手のことなの?

 ちょっと的外れな疑問を抱きつつも、コジマさんは今更気付く。


 ――でもそうなると……アイーシャ殿下は私の初めての友達ね。

 それに気が付いてしまうと、途端に気恥ずかしい。


 だけど、彼女の隣に座る主人(ディミトリ)が「付き合ってやってよ」と言わんばかりの苦笑を向けてくるから。


 渡りに船と考えるのを止めて。コジマさんは彼の家政婦として「宜しくお願いします」と頭を下げた。




 学園のあるシェノリア諸島には、当然商店区画がある。そこは貴族たちが利用する以上、下手な街の商店街よりも豪華絢爛に栄えていた。言う人が言えば、王都の貴族街よりもいい店が揃っているということ。


「若いうちから良いものに囲まれることも、教育の一貫ですからね!」


 ――金はあるけど浅はかな若人がカモにされているとも言えるのでは?


 そんな些末な疑問、当然家政婦であるコジマさんは口にしないけれど。

ともあれ、週末。待ち合わせ場所にいつもの家政婦姿で現れたコジマさんを見て、やっぱり少しだけ遅れてきたアイーシャは絶叫した。


「友達と遊びに来ているのに仕事着でくる愚か者がいるなんてええええっ‼」


 ――愚か者とはさすがに言い過ぎでは?


 だって制服と仕事着しか持っていないコジマさん。一緒にディミトリも同行している以上、学業か仕事かといえば、この時間は仕事になるだろう。ならば、選択肢はひとつ――なのに、ラフなシャツとブーツを履いたディミトリは「やっぱり」と苦笑する。


「だから事前に一着プレゼントしようと言ったの――」

「そこ~~っ!」


 そのディミトリのボヤキに、アイーシャは詰め寄る。


「また不用意に女を口説かないでいただけますかしら⁉ 殿方から服を贈ろうなど、安易に口にしてはなりませんわよ!」

「え~? でも今回限りは事前投資みたいな――」

「と・に・か・くっ! 今日の費用は全てこのアイーシャ=デゼル=シェノンが持ちますから! いいですわね⁉」


 キッと赤い目で見据えられ。二人の仲の良さに呆気にとられつつも、そういや自分はお金を持っていなかったな、と気付くコジマさん。


 ――でもアイーシャ様から頂戴する理由もないのでは?


「さあ、行くわよ‼」


 そう声をかけるや否や、彼女はコジマさんの手を握ってくる。その巨大な《神々の雷槌(トールハンマー)》すら安々振り上げていた小さな手は、少し汗ばんでいて。


 ――緊張している?

 うつむき気味に颯爽と歩を進める第三王女に、コジマさんは黙って引き摺られる。


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― 新着の感想 ―
[一言] ディミトリは天然ジゴロさんなんですね(笑)
[良い点] アイーシャのツッコミを読んで思ったけど、アイーシャって意外と(?)常識人だったのね(単に、コジマさんとディミトリの感覚がズレてるだけだったりして。)。 アイーシャ、お疲れ様。これどうぞ。 …
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