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自殺専門!死神ガクさんに魂を!  作者: ゆあっしゅ
4/15

4 死に急ぎたい男



朝日が昇り、街にすっかり陽の光が行き渡った頃、カーテンを閉めたままのその病室内は薄暗かった。


カーテンレールに延長コードを通し、痩せこけた初老の男は迷っていた。


吊るべきか、否か。


延長コードを見上げる男の傍で、死神のガクは床にあぐらをかき、膝に頬杖をついてそれを眺めていた。



「で?なぁーんでお前がいるんだよ。ホノカ。」



ガクの背後のソファに腰掛ける、女の死神。



「あんたこそ何してんのよ。これあたしの案件よ?」



女はガクと同じように背中に漆黒の翼を生やし、黒髪ロングのストレート、黒いタイトスカートに黒いジャケットと、黒いピンヒールを履き、白い生足を組みガクを見下ろしている。



「いや、どー見ても俺のでしょ。ホノカは病死専門だろーが。この男は今から首吊るの。自殺だろーが。」


「いぃえ、このおじさんは末期ガンなの。そろそろあたしのお迎えの時間よ。」


「いやいや、ガン細胞の勝利より先に吊るぜこのおっさん。」



男はため息をつき、ベッドにフラフラと力なく腰掛けた。

まだ路頭に迷う男はそのまま頭を抱え俯いている。

男にはまだ死神の2人が見えていない。



「ほらー、あんた簡単に吊るだの自殺だの言うけど、人間そんな弱くないんだからね?」


「どーだかねぇー。まだ迷ってるみたいだけどー?」


「だいたいこのおじさんから魂取ったって大したエネルギーなんか残ってないでしょーが。」


「いや、それがさ、あの世ではそんな少量のエネルギーすら喉から手が出る程必要なのだよホノカくん。」


「それあんたがサボってるからでしょ。」


「あは♡バレた。」


「そろそろホントに干されるわよ。」


「それよりホノカちゃん、今晩俺とどぉっすか?」


「まぢで干されろ。」



そんなやり取りをしているうちに、男はまた立ち上がった。


もはや生気のない白い顔で、男は延長コードを震える手に取り、遂に首にかけた。



「はい、俺の出番ー。」


「ちょっと、無理矢理持ってくんじゃないわよっ?」


「はいはいちゃんと仕事はしますよー。」



体をダラりと、男が首に体重をかけた時だった。



「死ぬんすかー?」



男はいつの間にか床から少し宙に浮き、くい込み始めていたはずのコードから首が離れている。



「なっ...なんだあんたっ!」


「どうもー、俺、死神のガクでーす。」



ニッコリ笑う翼の生えたガクに男は驚いている。

その声は張り上げているつもりだろうが、掠れて聞き取りづらい。



「し....死神っ?ふざけるなっ...いつの間に入って来たんだあんた!」


「ん。何分か前に。

それよりおっさん、そのコードで死ぬの?カーテンレール折れちゃうんじゃねーかなー?

俺的にはこっちの壁のコート掛けにした方がいんじゃねーかと思うんだけど。」


「なんなんだよあんたっ出ていけっ!」


「だーかーらー、俺死神なの。おっさんが死にそうだったから迎えに来たんだよ?魂をね。」



男は驚きながら返す言葉に困り、ただただガクを見上げている。



「それにほら、おっさん、あんた宙に浮いてんぞ。」



ガクに指差されて足元を見ると、確かに地に足が着いていない。



「...っ...な....ホントに...死神なのか...。」


「っそ、正確には自殺専門死神ー。

おっさん、死ぬならその魂俺に預けてくれよ。あんたの許可がないと持って帰れないんだよねぇ。」



あざとく困った風な顔をして見せ、ガクはスラックスのポケットに手を突っ込んだ。



「おっさん、あの世ってのはさ、すぐにでも生まれ変わりたい魂たちがひしめき合ってんだ。

その魂たちが生まれ変わるには、エネルギーが必要なんだよ。

そのエネルギーっつーのが、あんたみたいな途中リタイアした魂だ。

残りの寿命を生きられるエネルギーを残してるわけだからねぇ。

俺はそんな魂を回収するお仕事してんのよ。」


「............。」



理解したのか出来ないのか、男はまだ現実を受け止められないでいるようだ。



「そんなわけで、だ、魂もらっていい?」



そんなやり取りの様子を、ホノカはソファでイライラと眺めていた。



────あんなろ...まぢで持ってく気かよ...このおじさんの寿命なんてあと一日程度しかないのに....鬼畜がっ....。



するとガクは、ホノカをチラりと見ては意味ありげに口角を上げた。



「ところでおっさん、首吊りもいいが、あんたの寿命はいくばくもないぜ?

なのにわざわざ吊りてぇのか?」



男はその言葉に、落胆し肩を落とした。



「.......そうか....いくばくってどんくらいだ.....俺は一刻も早く家族を楽にしてやりてぇんだ....。」


「さぁなぁ?あんたが病死を選ぶなら、そのうち他の死神が迎えに来てくれんだろーよ。」



そう言ってガクはまたニヤリとホノカに視線を送る。



─────ちっ!いちいちエロい顔向けんな馬鹿!



「.......こんなんなっちまってよぉ...1人じゃ何も出来ねぇで....世話ばっかりかけてよ、荷物でしかねぇじゃねぇか。

どうせもう治りゃしねぇんだ。こんな重りはさっさといなくなっちまった方が.....」



男がそう言いかけた頃、ガクはそれを遮るように話し始めた。



「馬鹿だろおっさん。荷物だなんて誰が言ったんだよ。

被害妄想散らしやがって、てめぇん中だけで片づけてんじゃねーぞ。

なぁおっさん、あんたの嫁、毎日家で何してるか知ってっか?

あんたが退院したら快適に過ごせるようにって部屋準備してさ、何食わせりゃいいかってガンにいい食品勉強してさ、まだ帰ってきてもねぇのに嬉しそうに寝床作って。

娘だってもう遊んでばっかいるガキじゃねんだ。あんたの為に取った栄養士の免許証見せにあと30分もしたら嫁とここへ到着するだろうよ。」



男は目に潤みを持たせ、虚空を見つめたままガクの声に耳を傾けている。



「どーせあとちょっとしかねぇ人生ならさ、こんな暗いとこでくだらねぇことしてねーで、何を話すわけじゃなくたっていんだ、

最後に家族と過ごしたらいーんじゃねぇのか。荷物か何か知んねーけど、

そんくらいやったってバチなんか当たんねぇよ。」



遂に溢れ出す涙を拭いて、男はゆっくりとガクを見上げた。



「あんた....俺を連れて行かなくていいのか....」


「言ったろ、おっさんの許可がなきゃ連れていけねぇ。」


「.........そうか......」




そしてガクはまた目線を逸らし一点を見つめる男に言った。



「じゃあ最後にもっかい聞くよー?」



遅かれ早かれいずれは訪れる時間。

それまでの間、欲しいもん求めたっていいじゃないか。


男はそう思いながら、ふっと微笑んだ。



「死ぬんすかー?

免許証、見てやるんすかー?」



男は痩けた頬を思いっきり持ち上げ、今出来る限りの笑顔を見せた。




「免許証、褒めてやりますよ。」








3人揃った病室の窓から飛び立ち、上空へ翼をはためかせる2人の死神はしばらく無言だった。

それを先に破ったのはホノカだった。



「ねぇ、ガク......。」


「んー?」


「あんた....」


「ふっ...なになに?俺と遊ぶ気になった?」


「だから営業成績悪いんじゃない?」


「あ。それ言っちゃいます?」


「あんなの...繰り返してたらそりゃそうでしょ...。」


「そぉなんだよねぇーいつまで経っても収穫がないよねぇ。なぁ、クビになったら死神って死ねるのかな?」


「知らないわよそんなの...。」


「あーあー。死にてぇよ俺もー。いつになったら死ねるんだろ。」


「........死ねないわよ。分かってるでしょ。」


「へーへー分かってますよ。つか病室いなくていいのか?」


「あんたが作った時間が終わるまであたしは邪魔者でしょうが。」


「あは、ごめんホノカちゃん、そのツンデレ感も好きよ、俺♡」


「黙れ鬼畜が。」




こうして2つの黒い翼は、青い空の奥へと吸い込まれるように消えていった。






人間にはどうしようもない苦の瞬間がある。

金銭での失敗。

男女関係のモツレ。

自分以外の人間を傷つけた時、また殺した時。



それが自ら命を絶つ死へと発展してゆくなら、是非協力してやってほしい。

死神屋さんのガクさんに。

アナタの力で生を受ける魂たちに。



TO BE CONTINUED…


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