表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自殺専門!死神ガクさんに魂を!  作者: ゆあっしゅ
1/15

1 その死神は自殺専門


イケメンお兄さん ガクは、自殺者専門の死神。

今日も自殺志願者の魂を収集しに現世へ降り立つ。


1話完結型 死神コメディ はーじまーるよー。





なんにも変わりゃしない。


昨日を繰り返してるみたいな今日。


青い空に行き交う喧騒。


なんにも変わりゃしない。


俺が今、ビルの屋上の淵に


裸足で立っている事以外は。



高い建物ならどこでもよかった。

落ちれば誰かには気付いてもらえるだろうと踏んで選んだわけだが、

どうにも俺の手は屋上のフェンスを握ったまま離れてくれそうにない。


この期に及んでまだ自分を守りたいようだ。

手汗半っ端ないくせに。


昔誰かが歌ってたっけ。


いくらどうでもいいなんて言ったって

道につまづけば両手付いてる


みたいな歌。


そんなもんだ


痛感している。



だがもう戻るわけにはいかない。

俺は生きているべきでない。

一刻も早くこの世を去らねば。


俺は天を仰いだ。

今にも落っこちてきそうな真っ青な空が雲を引き連れ視界を流れる。


俺がこっから落ちたって、

お前は明日もそうやって流れていくんだよな。


関係ねぇんだよな。


俺1人、居なくたって


なんにも変わりゃしねぇんだよな。



俺の手が、フェンスを握る力を緩めた。


バイバイ世界。


もう二度と来るかよ。


俺の手は、完全にフェンスから離れた。




地上23階。

体重63キロの俺が落ちるまでに何秒かかるんだろうか。


既に地を蹴り宙に浮いた俺は、

必死に目を瞑り、数秒後の終わりを待つだけ。


の、はずだった。



「死ぬんすかー?」



ん?


気のせいか。



「死ぬんすかー?って。」



やはり聞こえる。


低音だが場違いにトーンの明るい男の声が、


落下している俺のすぐ、背後で。


俺は恐る恐る片目を開けた。



「ヒィっ、、、、!」



そこには地上23階からの絶望的な地上の景色が、今にも目の前に迫ってくる勢いで広がっていた。


そして俺は今更ながら気づいた。


落下していない。


両腕を広げ、地を蹴り上げ宙に浮いたままビル風に晒されている。



「なっっっ、、、、!」



なんだこれ!


時間が


止まった?!



「そうそうー、やっと気付いてくれたかぁ。」



背後からあの声が聞こえた。


体は動かないが首だけは動かせた。


恐る恐る後方を見ると、


俺が手を離したフェンスに寄りかかる長身の男が立っていた。


俺の手は今まで必死になってフェンスを握りしめていたというのに、

足場30センチあろうかどうかという絶壁でこの男はフェンスに寄りかかり、あろうことか腕まで組んで俺を見下ろしている。


そして何だろうか、今まで男にこんなことは思ったこともなかったが、

整った顔パーツ、程よい筋肉質、180センチはあろうか、スラリと伸びた長身、喪服のような黒いスーツを着て、ビル風に吹かれサラサラなびく黒髪。


美しい。


オマケに俺を恋人でも見るかのよう、

優しくタレた切れ長な目で微笑んでいる。



「あ、ごめんごめん、今戻すね。」



男はそう言うと、右手を指をパチンと鳴らした。



「え、、あ、。」



その瞬間俺は、またフェンス前の足場30センチのコンクリートに立たされていた。


そして俺の両手はやはりまた、とっさにフェンスを握りしめた。



「ふー。危ない危ない。間に合わないかと思ったー。」



妙に整った顔の男は、俺と並んでも俺を見下ろすほど長身で、相変わらずニコニコ微笑んでいる。



「あ、、の、、、。」



どう考えてもわけの分からない状況に、

やっと絞り出せたのがこの2文字だった。



「お兄さん、死ぬんすよね?」



この状況でその軽めなトーンはどうにかならないものか。


てゆか誰だ。



「あ、申し遅れました。」



男は組んでいた腕を左右組み直してこう言った。



「俺、死神のガク。あんたの魂預かりに来た。」



ちょっと何言ってるかワカラナイ。



「は、、い?」



男は変わらずニコニコ微笑んでいる。


にしてもこの男、さっきから俺の心の声が聞こえているんだろうか。



「あ、そだよ。筒抜けー。」



そう言って男はまたニコニコ笑ってみせた。



「お兄さん死ぬならさ、俺に魂預けてくんないかな?」



さっきから何を言ってるんだこいつは。

死神?

時間が止まる?

魂を、なんて?



「あ、お兄さん俺のこと疑ってるんでしょー。」



当たり前だ。

イライラしてきた。

どーせどっかに仕掛けでもあるんだろ。

俺動揺してたし、宙に浮いてると思い込んだだけだ。

なんのペテンだこいつは。



「いや、怪しいもんじゃないからね?俺。怒んないでよー。」



これが怪しくなきゃ何なんだ。


だいたいこいつが来なければ今頃俺は死ねたかもしれないのに。

邪魔しやがって。



「やめてもらえます?冷やかしなら他でやってください。」



俺はそう冷たく言い放った。


すると男は組んでいた腕を解き、

ニッコリ笑って、



「分かったよ、こうすりゃいんだろ?」



そう言うと男は、

地上23階、よく晴れた空の下、

足場30センチのコンクリートを、

勢いよく蹴りあげた。



「っ、、、、!!」



声を上げる間もなかった。


男はあっという間に俺の視界から消えた。



お、、、、


落ちたーーーーーーー。


ひ、、人が、、、


落ちた、、、、。



下が見れない。

足が震える。

フェンスを握る手は汗でびっしょりで今にも滑り落ちそうだ。

もう、立っていられぬほどの恐怖が押し寄せてきた。


俺は、

こんなことをやろうとしてたのか。

こんな....恐ろしいことを.....。


その時だった。



「なーんつって。」



恐怖に潰されそうになっていた俺の視界下手から、

背中の漆黒の大きな翼を羽ばたかせ、あの男が腕を組みながら宙を舞い上がってきた。



「ね?死神でしょ?」



そう言うと男はまた、子供みたいな笑顔で俺に微笑んだ。


もう何に驚いていいかワカラナイ。


男は宙に浮きながら話し始めた。



「俺はさ、あんたみたいに人生を途中リタイアする人間の魂を、あの世に持って帰るのが仕事なんだよね。」



黒髪がなびく。

黒い翼から艶やかな黒い羽が舞い落ちる。


美しい。



「それにはさ、生前の本人の許可が必要なわけよー。じゃないと持って帰れないわけー。」



俺はただただ男を見上げることしか出来なかった。

なんっっにも頭に入ってこない。

ありえないことばかりが押し寄せたからか、この男が美しいせいか。


すると今度は空中であぐらをかいて続けた。



「あのねお兄さん、よく聞いてね。

あの世ってのはさ、今すぐにでも生まれ変わりたい魂たちがたくさんひしめき合ってるわけ。

そいつらが生まれ変わるには、お兄さんみたいに人生を中途中リタイアした、

まだ生きられる力が残っている魂、

そのエネルギーが必要なんだよね。」



妙に整った顔のくちびるが歪んで、頬を持ち上げている。



「俺今月魂取り損ねてばっかなんだよねぇ。そろそろ閻魔から干されそうなわけ俺。」



そう言ったくちびるから、真っ白な歯を見せて顔をくしゃらせた。



「てことで、預かってもいいかなぁ?

坂井柊真くん。」



俺は名を呼ばれて我に返った。

開いたままの口を閉じ、ようやく男から目を逸らすことができた。



「ちょっと...待って...いきなりんな事言われても...。」


「いや、気持ちは分かるよ、でもさ、死んだ後の君の魂はもう意思がないからね、そのまま地獄に堕ちて訳わかんない苦行を強いられるだけだよ?」


「えっ!俺地獄確定なのっ?」


「そりゃそーでしょ、自害は大罪だよー?」



まぢでかっ。



「ちょっちょっちょっ、ちょ、まっ...」


「ちょ、ちょ、ちょっ、クククっ....ウケるっ。」



馬鹿にしてんのか。



「おっ...俺はこの世の苦痛から逃れるために死にたいのに地獄行くんすかっ。」


「そだよぉー?なので、命は大切にしましょうー。俺が言うのもなんですがー。ククっ。」



俺の人生の最大の岐路に笑ってんのも腹立たしいが今はそれどころではない。


困った。


さすがに困った。


地獄ってあれだ、なんか、体をいろいろぐちゃぐちゃにされるあれだ....。


そう悩む俺に死神は薄ら笑いを浮かべながらまた口を開いた。



「なぁ柊真、嫁さんに浮気がバレて家追い出されて?浮気相手にも見捨てられて、嫁さんから慰謝料請求され、おまけに会社にもバレてリストラされてさ、自暴自棄になんのは分かるけどよ。

それが何なんだよ。」


「は...はぁっ?あんたに何が分かんだよ!」


「あぁ、分かんねぇよその惨めな気持ちはさぁ。でも、お前のこっから更に広がる可能性を追いかけんのと、

地獄で何億年も全身切り刻まれ続けんの、どっちが楽しいと思う?」



死神は更に口角を上げて俺の顔を覗き込む。



「そっ....れは...。」


「前項だよなぁっ?」



俺の答えを俺より先に吐き捨てる死神。



「いいか柊真、お前はこれからいろんな事が出来んだ。今まで出来なかった事も可能かもしんね。

全部失った今だから出来る自由が待ってんだよ。

お前は不幸なんかじゃねぇ。その概念全部ひっくり返してみろ。」



なんだコイツ...口悪いくせに全部正論じゃねぇか。



「俺は....どうしたらいい....。」


「ふっ...柊真、人間なぁ、そーやって人に聞く時点で答えなんか決まってんだぜ?」



死神の顔は、憎たらしくも優しかった。



「最後にもっかい聞くぞー。」



俺は、生まれ変わろう。


この世界で。



「死ぬんすかー?

やり直すんすかー?」



死神の漆黒の翼が一つ羽ばたくと、辺りに心地よいそよ風が吹いた。




「やり直す。」




死神はスーツのスラックスポケットに手を突っ込んで、ニコリと笑った。






「あ、地獄行くって嘘だけどな。クククっ。」


「はぁっ!?お前を美化した俺が馬鹿だったよちくしょう!」


「ふはははっ!あ、やべぇまた魂取り損ねた。」





人間にはどうしようもない苦の瞬間がある。

金銭での失敗。

男女関係のモツレ。

自分以外の人間を傷つけた時、また殺した時。


それが自ら命を絶つ死へと発展してゆくなら、是非協力してやってほしい。

死神屋さんのガクさんに。

アナタの力で生を受ける魂たちに。



TO BE CONTINUDE…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ