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転 復讐のお願い

その女性を見た時、同性だと言うのに見惚れてしまった。この世の者とは思えないほど幻想的です美しく、そして恵まれた体型をしていた。


その体型を活かすように扇情的な格好をしており、その様子から危険だと感じられる。その感覚は間違っていなかった。


相手からはあの魔力が感じられる。


そして、魔力しか感じなかった。実体がない、まるで亡霊のような存在。


『よく生き延びたね』


その女性は蠱惑的な笑みを浮かべる。


『私はヒナ、よろしくね』


そう名乗ると滑るようにティフェニへと近づき、水に浮かんでいる彼女に手を差し伸べる。その手を取ろうとするが、ティフェニは触ることが出来なかった。


『見える、聞こえる、だけど触れる事はできない。及第点といったところね』


ティフェニをそう評価すると、池から上がるように手で示す。一連の行動に疑問を抱きながらティフェニは水から上がるとヒナと向き合う。


「貴方は一体」


『未練たらたらの幽霊よ。やり残したことがあって現世に留まっているの』


「そうにゃのか」


ティフェニは幽霊を今まで信じていなかった。だって見た事がないし、見た事があると言う人はその話に矛盾があったりと嘘をついているようにしか思えなかったから。


だけど目の前には幽霊を名乗る実体ない存在がいれば嫌でも信じるようになる。


「未練があるにゃら、晴らせば良いのでは?」


『そう言うわけにもいかないの。私はここに封印されているから動けないの』


どうやら祭壇だと思った場所はヒナを封印する場所だったようだ。そう聞いてティフェニは警戒を一つ上げる。幽霊の中でも悪霊の分類だったようだ。


『だからね、封印を解いてくれて私のお願いを聞いてくれる人をずっと待っていたの。魔法使いの適性があって、私のことが見えて声が届く人を。つまり、貴方のような人を』


「断ると言ったら?」


『その時はその時、次を待つ。それで、貴方はここからどうやって帰る?』


ティフェニは後ろを振り返る。背後は先程降下した渓谷。部屋を見渡すと扉や窓といった出入り口はない。


『ここは封印地。閉じ込めておく場所。道なんてないよ。だ・け・ど、私の封印を解いてくれて尚且つお願いを聞いてくれるなら地上まで連れて行ってあげる。どう?』


ティフェニは少し考える。封印されていたという事は何かしら問題があった事。解放したとしても助けてくれる可能性はない。


「残念にゃけど、縁がにゃかったと言う事で」


『私のお願いは復讐なの』


そう言われてティフェニは言葉を続けるのをやめた。見ると、ヒナはとても悲しそうな表情で部屋の奥に行く。


その後に続くと写真立てが置いてあった。中に入っている写真はボロボロだが、僅かに何が写っているのか分かる。手前には椅子に座った人がいる。その右にヒナが立っている。


『私のお願いは手前に写っている女性を殺した奴らへの復讐。貴方も、誰かに復讐したいんじゃないの? 分かるよ、私と同じように死の間際に誰かを恨んでいたから』


「それは……」


『私のお願いを聞いてくれるなら、こちらも相応の対価とサポートを行う。具体的にサポートは貴方を魔法使いへすることと、対価は旧時代の遺産を』


それは破格の報酬だった。魔法使いになるには、それこそ莫大な資金が必要となる。旧時代の文献から魔法理論を会得し、魔法使いに教育されようやくなれる。修行の間暮らしていくお金も必要だ。


ヒナは旧時代の遺跡に封印された幽霊。ならば旧時代の知識を保有していてもおかしくない。加えて魔法使いでもある。


魔法使いになれば、たとえスラム出身だろうが猫人だろうが皆から讃えられる存在になる。それだけでも十分なのに、旧時代の遺産を支払うという。


「その遺産はどんにゃの?」


『怪物を倒せる兵器の設計図や、世界の理のカケラ』


怪物は未だに有効手段が見つかっていない。ゴリ押しで倒すしかない。その為に多くの犠牲を支払う必要がある。もしも怪物に有効な兵器が製造できれば、もしもその設計図を手に入れたら……。


「話が旨すぎるにゃ。騙しているにゃ?」


もしくはその復讐はかなり危険なものなのではと考える。それだけの対価を支払わないといけない程、危ない相手なのか。


『……そう思うのも仕方ない。じゃあ、少しだけ試してみる?』


「むむむむむむ向かかかかうよよ!」


怪物の声がいつの間にか迫ってきていた。


「怪物って目の前の相手に向かっていくんじゃ」


『正確には目に入った相手を殺すまで追い続け、殺したら次に目に入った相手を殺すだね』


ティフェニはまだ狙われている。


「試すって言っていたけど、具体的にはどうするにゃ?」


だけどヒナは試すかと尋ねた。つまり怪物に対応する手段があること。怪物の追撃を、即ち殺す手段があるのではと。


『ここで貴方を一時的に魔法使いにして怪物を迎撃するの。あんな雑魚イチコロよ。私は封印で力が弱まっているから倒せないし』


「無理無茶無謀にゃ!」


怪物は魔法使いが一人いるぐらいで倒せるような奴ではない。


『無理無茶無謀は私が一番好きなことなの。それに、なりたくないの? 魔法使い』


興味はあるし、なりたいと思う。だけど即席で出来るほど魔法は甘く無い。


「ももももうすすすす少し!」


『ほら、時間はないよ。早く決断して』


「……分かったにゃ。お試しにゃ」


腹を括る。これ以外に道がない。怖いが怪物に潰されるのは無理ない。


『仮契約成立ね。では貴方の名前は?』


「ティフェニにゃ。家名はない」


『私はヒナ。対怪物特化型魔法使いのヒナ。同じく家名はないわ』


お互いに名乗る。妙な信頼感が芽生えたようにも見える。協力して敵を倒す。今までずっと一人で生きてきたティフェニにとって初めての出来事だ。


「みみみみ見つけけけた!」


『初陣よ! 派手にいきましょう!』


「了解にゃ」

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