本性……?
今日もいつも通りの授業を乗り切り、昼休みがやって来た。
と言っても、昼休みも相変わらずの日常なので、特別楽しみにしていたとかではない。
ただ、心の気休めにはなるという程度の話だ。
いつもと違うところがあるとすれば……それは、隣の席にアイリがいるということだ。
彼女は、これからどうするつもりなのだろうか。
……とはいえ、ある程度の予想はついている。
とある男A「アイリちゃーん!」
とある男B「良かったら俺らと一緒に昼飯食べようぜ!」
……まぁ、そうなるよな。
元人気アイドルであるさいかちゃんにそっくりな、可愛い子が転校してきたんだ。この機を逃すわけがない生徒が数名。
クラス内でも、スクールカーストの最上位に位置する男共が、ここぞとばかりに寄って集ってきた。
恐らくアイリは、今後その立ち位置にいくことになるだろう。
外見至上主義。
そこまで言うつもりはないが、人気アイドルのそっくりさん(?)ともなれば、放ってはおかないだろう。
しかし、それでいい。
どこからどう見ても、アイリはそういうタイプの人間だ。
それに、環境の変化なんてのは、眺めているくらいがちょうどいいのだ。
そこに俺が関わる必要は一切ない。
俺の願いは、そんな些細なもの……だった、はずなのだが……
「いえ、結構ですっ。ボクはこれからカワルさんと食べる予定ですので!」
「…………は?俺?」
アイリの問題発言に、俺は驚きを隠すことが出来なかった。
誘った連中も、いい気はしなかったらしい。先程よりも若干、表情が引きつっていた。
男A「いやいや……アイリちゃんは知らねーと思うけどさ、そいつろくでもねーやつなんだぜ?」
男B「そうそう!何を吹き込まれたのか知らねーけど、俺らといた方が楽しいに決まってるって!」
彼等は、俺がいかにクズな人間であるかを熱弁し始めた。
……まあ、俺のことはなんと言われようが別に構わないのだが、人の悪いところよりも自分の良いところをアピールをしようという気持ちにはならんのかと、少し呆れてしまう。
しかし、アイリはそれを聞く気はないらしく、男達から視線を外した。
その顔が少し苛ついているように見えたのは、気のせいではないはずだ。
……少しうるさいが、その内諦めて去るだろうし、俺が何か手を加える必要はないだろう。
アイリの発言は……聞かなかったことにしよう。
そう思い、俺は男達から意識を外そうとしたのだが……
一人が、アイリの手を掴み、強引に引っ張ろうとしたのだ。
……やり過ぎだな。
俺のことをろくでもないやつだと罵っていたっけか。
その言葉、そっくりそのまま返してやろう。
やはり学校という場所は、とんでもないところだな。
くずしかいない。
ゴミしか生み出さない。
こんな所に閉じ込める事が義務だなんて、僕には到底理解が出来ない。
……いや、個人の感想だ。若者の戯れ言だと思って、聞き流してくれ。
流石に苛ついてきた僕は、止めに入ろうとした。
しかし、その時……。
その違和感は、突然やって来た。
「……汚い手で触らないで下さい」
B「ーーーは?」
アイリの雰囲気が、急に変わった。
その、怒気を含んだ彼女の言葉は、先程までのイメージとはまるで違っていたため、思わず気圧されてしまった。
「……ですから、その薄汚れた手でボクの大切な身体に触れないで下さいと言っているんです」
時が止まり、空気が滞る。
その、汚物を見るような目つきからも、アイリが本気で怒っているのだと分かる。
その様子には、流石に男達もびびったのか、
「い、行こーぜ」
という一人の合図で、全員目の前から立ち去っていった。
しかし、それだけの騒ぎを起こせば当然、注目の的となる。
「……カワルさん。どうやらここら辺の空気は酷く濁っているようですので、移動しましょう」
「え?……おう」
僕は大人しく、アイリに従うことにした。
色々と聞きたいこともあったからだ。
それにしても、何故アイリはあの男達ではなく、俺と昼休みを過ごすことを選んだのだろうか。
あんな奴らだけど、間違いなくいろんな面においてのスペックはあいつらの方が上だ。
単純に、ああいうノリの奴らが苦手というだけか?
……いや、それだと俺と過ごす意味が分からない。
「カワルさん、一つお伺いしても良いですか?」
「……な、何だ?」
「この学校内で、誰にも邪魔されず、空気も美味しい場所ってありますか?」
……なんだ、そんなことか。
先程のこともあり、変に身構えてしまった。
……しかし、なかなかに変な質問を尋ねるものだ。
誰にも邪魔されたくないのは、先程の出来事から気持ちは分かるのだが……空気の美味しい場所とは……?
「……外の空気を吸いたいって言うんなら、屋上とかじゃないか?」
「使えるんですか?」
「いや、使えないけど……まあ、ばれへんやろ」
えせ関西弁を使うことによって、雰囲気を和ませようとした俺の配慮を讃えてほしいものだ。
……アイリに刺さったのかどうかは知らんが。
まあ、実際に屋上は使ってもバレない。何故なら、俺自身が使ったことがあるからだ。
鍵、壊れてるんだよね、あそこの扉……。
しかし、なぜ今は使っていないのかと言えば、その理由は単純。
寒いからだ。
……もう、完全に冬だしな。
今の時期に屋上にいるやつは、バカかアホ、またはその両方だろう。その分バレる確率は低いのだが。
……まあ、流石のアイリも断るだろう。
そう思っていたのだが、
「ふふっ、適当なところは昔と変わらないんですねっ、カワルさん!」
「―――え、昔?」
「いいですよっ、行きましょう!」
アイリはためらう様子もなく答えた。
こうして、俺達は季節外れの屋上に向かうことになる。