オービル商会
まだ薄暗い中で目が覚めたわたしは、伸びをしようとして体を動かす事が出来なかった。
「????」
冷静になって考えてみれば、わたしの他にはルシールしかいないので、ルシールによって拘束されているのであろう。
ルシールを起こさないように抜けだすとヒンヤリとした廊下に出て御手洗いを済ませた。
何時もと同じ時間に目覚めてるのに、暗く感じるのは冬が近いからだろうか?
朝の仕事をはじめた宿の人の邪魔にならないように部屋に戻ると、ルシールの隣に潜り込んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……きて……起きて」
「う〜ん、おはよう」
いつの間にか寝ていたようで、ルシールに体を揺すられていた。
ゆっくりと起き上がるとルシールはすでに出かける準備を済ませていた。
「あたし達はこれから冒険者ギルドに行くから、ここでお別れね」
「うん、またどこかで」
「お店できたら教えてね」
「うん」
“黒の剣鬼”はさっそく次の依頼を探しに行くようだ、ルシールを見送ると軽く身支度をして部屋をあとにした。
オービル商会はアランではかなり有名なのか、大通りに面した1角に建物があった。
「何かお探しですか?」
「オービルさんに後でくるように言われたんですが」
「お名前を伺っても?」
「マーヤです」
「少々お待ちください」
オービル商会は食品系を扱う商会って話だったが、ジャガイモのような芋、桃のような、王都であまり見なかった珍しい果物から、調味料まで幅広く扱っていた。
待ってる間に欲しい物を見繕って購入の候補を絞っていたら、大きな笑い声がした。
周りを見れば2メートルくらいの身長の青年が、こっちを見ていた。
「何か?」
「悪い、悪い……ずいぶんと真剣に選ぶんだなって思ってさ」
「いけない?」
「こんな店で買うより、通りを2つ行ったところにある店の方が良い品が揃ってるよ」
「それは、どうも」
オービル商会の物も良い物だと思うが、後ですすめられた店も覗いてみよう。
笑われたのは気になるが、青年が店を出て行ったので物色に戻ろう。
「さっそく来てくれたのですね、どうぞこちらへ」
事務所のような部屋へと案内された、従業員に指示をしていたオービルさんに椅子をすすめられたので席についた。
「見ての通りわたし達の商会は食材を扱っておりますが、今は優秀な料理人がいないのです」
「今は?」
「はい、ここ最近ですが我が商会にちょっかいをかけてくる連中がいまして……あぁ、来ましたね、入りなさい」
ノックがして、オービルさんが、頭の上の獣耳をピクピク動かしている女の子を部屋に入れた。
「こちらはマーヤさん、今回の危機を乗り越えてくれるだろう人材です、ご挨拶して」
「ほ、本当ですか?……っと、失礼しました。ワタシはメロディー、見ての通り狐人族です」
メロディーはよほど嬉しかったのか、一瞬我を忘れそうになったが、すぐに自己紹介をしてくれた。
咲きほこらんばかりの笑顔から一転キリッとした顔での挨拶に、少し前の絶望に染まった姿は微塵も感じられない。
「うちが扱う食材はクセがある物から一般的な物まで、幅広いのですが、彼女の父親が暴漢に襲われてね……怪我をさせられてしまったのです」
「暴漢?」
「うちが目障りな輩の仕業だと思います、そちらは動いているのでもう少ししたらおさまると思いますが……」
「父は料理人でオービル商会から珍しい食材を買って食堂を開いていたのですが、怪我のせいでお店が開けられないのです」
この件はオービルさんもアランに来るまでは知らなくて、新しく建てる料理屋を手伝ってもらおうとしたのだけど、メロディーの家の事情が
「今回の件が片付けば当初より良い土地が空くので、新しく建てる店は色々と変更しないと……それまでメロディーの店を手伝っていただけますか?」
「良いですよ、ちょうどレベルも上げたかったので」
「??……まぁ、いいでしょう、お願いします」
1人暮らしをしていたし、料理店でのバイトもしていた経験があるので、コール場でもストーブ前でも問題ない。
邪魔するために暴行をするような卑劣な相手に屈するのはしゃくだし、跳ね返すのも面白そうだ。
「それで、他の従業員の方は?」
「1人雇っていたのですが、お店が開けられなくなったので、今は雇っていません」
お店の規模がどんなものかわからないが、流石に2人は厳しいかな。
「マーヤさんならこの食材達もうまく扱えると思うので、腐らせる事にならないと思うと助かりますよ」
オービルさんがジャガイモのような芋やトウモロコシのような形の食材を持って来た。
「コレは?」
「ガモンは木になる果物で、栄養はあるのですが美味くないのです……数だけは取れるので食糧難の時には重宝するのですが、放置しすぎると毒になるので扱いが難しい食材です」
ジャガイモの見た目で果物とは、騙された気分だ
「こちらがホッピングって魔物で、この辺りによく出没するのです。夜は高速で飛び回って、朝になると壁に当たって自爆してるのか大量に落ちてるのです」
植物系のホッピングは魔力を多く含んだ遺体も美味しくはないらしい、今まで集めて燃やしたりして処理していたのをオービル商会が買取り、メロディーの父が料理をしていたようだ。




