遭遇
鎖海真綾が【アルカディアオンライン】のアバターであるエルフのマーヤで、深い森の中で目覚めてから三年近く経とうとしていた。
マーヤであることに気づいてからは【アルカディアオンライン】のスキル等を試しながら森の中を彷徨、森からの脱出を目指した。
最初は安全を確保するために、木のうろを利用した拠点をつくり時計回りに各方面1日で帰ってこれる分だけを探索していった。
精霊の剣のおかげで、森の魔物や動物との戦闘には苦労しなかったが、ゲームと違いドロップアイテムを残して消えるわけもなく、命を奪う感覚になれずに嘔吐を繰り返し精神を削りながらの探索だったが1月も経つ頃には、生きることに必死になり嫌悪感をおしやった。
1日で探索出来る範囲では森から脱出することが出来ないとわかってからは、拠点を作りながら1方向へと探索していった。
2年が経つ頃には川を発見出来たので、今度は川下の方へと探索を進めていった。
マーヤが森の出口を見つけることが出来たのが約1月前、その前に陣取る強そうなモンスターが越えられなくて1月の間いろいろと準備をしていた。
「回復薬も揃えたし、そろそろ突破したいな」
用意した道具の確認をしたマーヤは、折れた精霊の剣の代わりの槍と牙を削りだして作ったナイフを2本装備すると、気合いをいれて拠点にしていた洞窟をあとにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あと少しで森を抜けられるというところで、【アルカディアオンライン】の後半の方で行くことになる黄昏の森、その深部でたまに遭遇することがあるフィールドボス【魔猿カイザーエイプ】が陣取っていた。
【カイザーエイプ】は最後に倒した相手の能力を取り込み姿を変える珍しいモンスターで、形態によって討伐難易度が大きく変わる。
「装備がないから鳥と獅子じゃないのが良いんだけど」
【カイザーエイプ】は基本的に36人の6パーティーで挑むレイドモンスターでマーヤも何度か討伐したことがあった。
鳥型と獅子型の時の【カイザーエイプ】は元々の素早いのに大幅に能力があがって攻撃を当てることが非常に困難になる。
森とか洞窟のような狭いところでの壁や枝を使った立体的な軌道をとられると逃げることすら困難になる。
「あの咆哮は【カイザーエイプ】!?……なにかと戦っているみたい」
突然【カイザーエイプ】の咆哮が聴こえ、続いて大地を揺るがすような震動、バキバキと音をたてながら倒れていく木。
おいつめられた【カイザーエイプ】が放つ凶悪コンボが炸裂したようだった。
【カイザーエイプ】を倒すのが楽になったと急いで向かうことにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
マーヤは【カイザーエイプ】が見える位置までたどりつくと、見つからないように様子をうかがった。
【カイザーエイプ】と戦っていたのは6人組のパーティーみたいで、全員が倒れていた。
《アースランス》が腹に刺さって微動だにしない鎧の人、大技の前にやられたのか動かない人が2人に、呻き声をあげモゾモゾと起き上がろうとしてる人が1人、微かに上下してることからまだ生きてるが気を失ってるのか動かない人が2人。
「3年ぶりの人なんだぞ……邪魔しないでよ」
【カイザーエイプ】が大技の硬直から復帰して止めをさすべく動きはじめたところで、思わず叫んで飛び出した。
他のパーティーの獲物を横からかっさらうような真似はマナー違反だけど、パーティーが崩壊して全滅のピンチみたいだし、そこまで怒られないだろう。
「まずは、注意をひかないと……ガウゥ」
《咆哮》、狂戦士の敵意を集めるスキルを使用すると、波紋のように黒い殺気が拡がる。
殺気をうけ、動けない2人に向かっていた【カイザーエイプ】がこちらを向く。
「それを使って」
「!?」
同じくこちらを向いた起き上がろうとしていた鎧の人に、脇を駆け抜けるついでに回復薬の入った容器を放りながら通り過ぎる。
【カイザーエイプ】は突然の乱入に怒りながら胸を叩いて威嚇してくる、ターゲットをマーヤにかえて《アースランス》を放つようだ。
【カイザーエイプ】の行動を見て、更にスピードをあげて突っ込んでいく、後ろで鎧の人が何かいってるけど、間に合うかどうかギリギリなので無視する。
【カイザーエイプ】が拳に集めた魔力を地面に叩きつけるのを見て、弾かれたように軌道を変えた。
その直後にマーヤがいた位置にしたから土の槍が飛び出してきた。
右、左、右と交互に叩きつける拳を見ながらスルスルとかわして【カイザーエイプ】との距離をつめる。
避けられることに苛ついたのか、両手を合わせてひときわ大きく叩くと【カイザーエイプ】の周りが沈みこんだ。
窪みから無数の槍が飛んでくるのを、槍の上に飛び乗ってその上を走るという突破で【カイザーエイプ】との最後の距離をつめると、ようやく射程に入った【カイザーエイプ】の喉元に槍を突き刺した。