襲撃
先行していたBランクパーティー“黒の剣鬼”と中継地点の村で合流した。
補給を兼ねて宿で1泊して、護衛メンバーで情報交換もした。
“黒の剣鬼”は3人組のパーティーで、リーダーのグラドさんが全身黒の装備の剣士、ヴォルガノフさんが大剣を使う鬼人族、鎧の背中部分に十字の盾を背負っていた、シーフのルシールさんが女性で、黒くも鬼でもないがなにかあるんだろうか?
「こんな可愛いお嬢ちゃんがいるんなら先行したのは失敗だったかぁ」
「グラドさん!?この情報があるとないのではだいぶ護衛の難易度が変わりますけど」
「冗談だよ……でも俺達が先行してる間にお前達はこの嬢ちゃんと仲良く来たんだろう?」
「そうですが、それは……」
「嬢ちゃん言うな……」
「っと、わりぃな」
ハントがグラドにからかわれていた、嬢ちゃんと呼ばれたことに文句を言ったがアッサリ謝られて見かけほど悪い人ではないようだ。
“黒の剣鬼”が持ち帰った盗賊団の情報では、流れてきた盗賊団は3つらしい、1つは既に潰したみたい。
グラドの話では農民が食うに困ってってパターンのたいしたことない盗賊だったようだ、この国の人間ではなかったらしい。
「ここからアランに行く道中に“炎槍”が流れてきたらしい場所がある、十分注意してくれ」
「“炎槍”って?」
「“炎槍”ってのは、盗賊団の頭が炎を操る魔法の槍を使うんだ、1人で領主軍100人を撃破した強者でもある」
魔槍が強いのか、頭が強いのかのどちらかだろうね……領主軍が弱いってことはないよね?
「もちろん、あそこの領主軍は弱くはなかったぞ……たまにフレイムディアが襲ってくるから、炎対策はしていたはずなのに、やられたからな」
「!?」
「顔に出てたから答えただけだ、疑問だったんだろう」
「うん、フレイムディアってのは」
「炎を纏った鹿のモンスターだな、怒ると炎がだんだん蒼くなって狂暴さを増してくんだ……時空魔法も使うので、燃える岩を呼び出してくる前に仕留められるかが勝負になる厄介なモンスターだ」
「うわぁ、なにそれ」
狂暴な鹿なんて嫌だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
不穏な情報をもとに警戒しながら進んでいた商隊が、ついに“炎槍”の勢力圏へと入った。
ここを抜ければアランまでの弊害は無くなるらしいが、アランから遠すぎず近すぎずって絶妙な位置のようだ。
アランから討伐隊が出るには微妙に遠く、アランが近くなったことによる気の緩み、荷物を捨てればギリギリ逃げ切れそうな近さも逃げを選択しやすくしてるようだ。
「街道を封鎖するように木が倒れてるぞ」
「こりゃあ、当たりだな、連中仕掛けてくるぞ」
「今日が“炎槍”の最後だな」
Bランクパーティー2つを含む12人の護衛メンバーの中にはAランクが3人いるので、いくら“炎槍”が強くてもひとたまりもないだろう。
「捉えた、右方向に数4、後方から接近してくるのが10」
「気づいてないふりをしろよ」
「おう」
警戒してることを悟らせないようにゆっくりと商隊が近付くと、木の側に2人がたたずんでいるのが見えた。
「おーい」
「どうした?」
盗賊だと思う2人が手招きしてきた、油断したところに周りの仲間が包囲を完成するって算段だろう。
「なんだ、この邪魔な木は?」
「俺達も困ってたんだ、2人だけじゃどうしようもなくて、どけるの手伝ってくれ」
“白狼”のメンバーが素早くアイコンタクトを交わして、不審な2人へと近付くと後ろの敵がいよいよ行動を起こした。
「命が惜しかったら!?……ぐはぁ」
「最後まで言わしてあげれば?」
「嬢ちゃんは優しいんだなぁ」
言葉を遮ってルシールが短剣を飛ばし数を減らすとヴォルガノフが無言で突っ込み瞬く間に3人を斬って捨てた。
「なんだ!?」
「隙あり」
「なわけないだろ」
後ろの騒ぎにハントが振り向いたところで前の2人が“白狼”に襲いかかったが、すぐにメンバーが返り討ちにした。
挟撃失敗に慌てたのか狙いが甘く攻撃してきた右の敵をすぐに殲滅して終了だ。
「これが“炎槍”なの?」
「いや、軽すぎる……まだ近くにいるな」
炎の槍なんてみてないし本命はまだ出てきてないようだ。




