劣等生な俺、得体の知れない何者かを召喚してしまった件
天使の力をその身に宿した聖騎士が、聖なる力を用いて邪悪な悪魔族から人類を守る事を目的とする騎士団─聖天使軍。
そんなカッコいい存在に憧れて、未来の聖騎士育成の為の学校である、聖皇学園スノウビオサに入学したところまでは良かった──。
どこで道を誤ってしまったのか、とため息混じりに呟きながらこの俺──ラビオ・クラージュは考える。
農園を継がせたがっていた親を何とか説得し、学園への入学が可能になる15歳の誕生日に、辺境の村を飛び出してこの学園に入学した。
しかし、学園の授業では、基本的な魔法がいつまで経っても使えない、筆記試験では全て赤点という、まさに底辺とでも呼ぶべき成績だった。お陰で友達は出来ず、いじめっ子の標的になり、本気で何回か自主退学を考えていたこともあった。そんな俺でも唯一、剣技だけは得意だった。まぁでも、悪魔に実体は無いので、魔法を剣に纏わせなければ、どんな剣技であろうと悪魔には意味が無い。そんな訳で、周囲の人間には全く評価される事はなかった。しかし、他に何も誇れるものが無かった俺は剣技だけを心の支えに、なんとか2年生に進級する事が出来た……。
とまぁ散々だった1年生時代を思い返していたのだが、クラスメイトであるロウル・アロガンに話しかけられた事で回想は中断される。
「おいラビオ、今日は2年生最初の授業にして、この後の人生を大きく左右する大イベント、天使召喚の日だな。聞いた話だが、召喚される天使はランダムという訳ではなく、自らの能力や性質に合った天使が召喚されるらしいぜ。その話が本当ならお前に宿る天使は、きっと天界の中じゃ落ちこぼれの、無能なのが宿るんじゃねーの?ハハッそいつはお似合いだぜ。そしたらお前、マジで自主退学しろよ。そんな無能、聖騎士になっても恥さらしのお荷物になるだけだからな!」
ま、精々何らかの能力を持った天使が召喚される事を祈ってるんだな──。なんて、好き放題俺をバカにしてから、その間ずっとクスクス笑ってた取り巻きの連中を連れてさっさとどこかへ行ってしまった。
勿論ここまで言われて悔しくない筈がない。正直心の中は煮えくり返っているのだが、彼は俺とは比較にもならない程優秀であり、言ってくる事もなまじ正論であることから、ロクに反論も出来ず、俯いているしかない。
ま、実際問題、そんな態度をとっているからアイツみたいなクソ野郎が調子に乗るんだけどな。
──ああ、学校やめてぇな……。
また、入学してから何度目になるか分からない事がぼんやりと頭をよぎる。この世界、何も聖騎士にならずとも普通に生きていける。というか、毎日の様に悪魔と戦う職業なんざ、常に命を危険に晒している様なものだしな。
決めた。今日の天使召喚で強い力を持った天使が宿らなかったら、今度こそ自主退学しようと思う。というか、ロウルの言う事が本当なら、きっと俺に宿る天使とかたかが知れてるんだけどな……。
1人で密かにこんな事を決意しながら、天使召喚が行われる教室へと向かう。周りのペースよりもやや遅れている気がするが、どうせ今日の召喚は生徒1人1人が順番に室内へ入る手筈になっているので、教室の外の廊下に列が出来ているだろう。
しかし、俺の予想は外れ、天使召喚が行われる筈の教室の周りには、全く人影が無かった。
その事に少し驚きはしたが、特に何か疑問に思う事も無く、誰も居なくてラッキーだな、位の気持ちで俺は今日以外の日は厳重に封印されているこの教室に入った。
あらかじめ引かれている巨大な魔法陣の中心にまでゆっくりと、反時計回りに歩いて行き、そこに描かれてる星型のマークの様なものの上に立つ。すると、自らの魔力に反応するかの様に、魔法陣全体が光り始めた。
これで天使が召喚される筈なので、後は何もする事は無い。なので、激しく点滅する魔法陣を眺めながらじっと待つ。
すると、先程までは薄い黄色に点滅していた魔法陣が、唐突に真っ黒に変化し、グルグルと物凄い速さで回り始める。
え、ナニコレ。これって天使を呼び出してんだよね?何故この部屋に、禍々しい気配が漂ってくるんですかね?と、なんだか嫌な予感がしてくる。
だが、1度始まってしまった召喚を途中でストップする事など出来る筈もなく、どんどんと部屋中の禍々しい気配が強くなっていき、魔法陣から黒い瘴気?みたいなものが立ち込め始め、やがてその瘴気が集まり、人の型をとっていき、瘴気から強烈な紫色の光が発せられる。
あまりの眩しさに、思わず目を閉じてしまう俺。しかし、何やら禍々しい気配が唐突に消失したのを感じた。もしかして失敗したのか?と、淡い期待を抱いて恐る恐る目を開くとそこには──
どう見ても10歳程度にしか見えない、1人の男の子が立っていた。
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