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後編

願い事が叶うと言うドングリ池。

お人好しのキツネと、いたずら好きのリスは、オンボロ橋を直してもらう願いごとをするために、そこに向かっていました。

それは、食いしん坊のヘビに言われたことだったのです・・・。

草木くさきに囲まれ場所の中に、地面が盛り上がった所がありました。

そこには大きな穴がありました。

中は昼間でも薄暗く、剥き出しの土も少し黒っぽく見えて、ちょっとジメジメしてました。

すると、その中に、黒い大きなモノがありました。

よく見ると大きな黒いモノは、少し動いてました。

「うう~」

穴の中に低いうなり声がひびきました。 

それは、黒い毛におおわれた、大きなクマでした。

そうです。

ここはクマの巣がある逆さ虹の森の北側。そこの小高い丘の上なのです。


クマは巣穴の入り口を見つめながら、ガタガタと震えていました。

寒いからでしょうか?

違います。

そうでは無いのです。

クマはとても『こわがりなクマ』なのです。

ですから、毎日、いつもビクビクとして震えながら暮らしているのです。

「今日は、ドングリを食べに行くのはやめよう。きっと何か良くないことが起こる。そんな気がする・・・・」

クマは、そんな独り言のあと「ふ~・・・」と、大きなため息をつきました。


クマの巣穴の中には、前に採ってきたドングリの実がまだ、少しだけ残ってました・・・。

今日、一日食べるぐらいなら、これで間に合いそうです。

クマはまだ、外に出なくても大丈夫だと思いました・・・。



『お人好しのキツネ』と『いたずら好きなリス』は、そんなクマの巣の近くまで来ていました。

それは、ここの動物達が暮らす『逆さ虹の森』を二つに分ける川に掛かっている、危なくて渡れない『オンボロ吊り橋』を直すため『願いが叶うドングリ池』で、二人して「オンボロ吊り橋を直して下さい」と、お願いしに向かっていたからでしたが、それは『食いしん坊のヘビ』に言われてのことでした。


「クマさんの巣穴は、もう過ぎたかな?」

キツネは、ここまで自分の背中に乗せて来たリスに訊きました。


「いやいや。まだ過ぎてないと思うよ・・・。僕らが歩いてる道からは、離れた所にあるから、ちょっとわかりづらいけどね・・・うん。やっぱり過ぎてないなぁ」

リスがそう言ったのを聞いたキツネは、そうだったのかと思いながら、丘の坂道をトコトコと登りました。


「きっとクマさんは、今日も巣穴から出て来ないと思うよ」

キツネの背中で揺られながら、リスが言いました。


「そうだね。僕も、もう、だいぶ長いことクマさんに会ってない」

キツネはそう言って、ちょっと寂しげに辺りを見回したのですが、やっぱりクマの姿はありませんでした。


「クマさんも手伝ってくれたら、アライグマさんやヘビさんに嫌われないと思うんだけど・・・・」と、キツネが言うと。リスは「クマさんは、一人が一番いいと思ってるからしかたないよ」と言いました。


そうして二人は、この丘の上にある『ドングリ池』へと向かって行きました。



とても静かでした。


ドングリ池にたどり着いたキツネとリスが池のほとりまで来て、歩くのを止めると、たまに吹き抜けるそよ風が辺りの草を揺らしては、サラサラと鳴らすのが聞こえました。

二人は一休みするために、草の上に座りました。

そして、しばらくそうしてると、時どき風がみました。

すると辺りは本当に物音一つしない静けさに包まれたのでした。

二人の耳には、二人の息づかいが聞こえるだけでした・・・。


それから少しして、一息ついたキツネとリスは、池の側へと近寄りました。

所々、池には風波かざなみが見える以外は、鏡の様にも見え、その池の水は、どこまでも透き通っていて、水の中に沈む倒れた木々が、白い骨のように見えてました。


「静かでキレイな所だね」

キツネが言いました。


「キレイすぎて、気持ち悪いよ」

リスは、ぶるっ!っと、体ごと大きな尻尾をも震わせながら、キツネにこたえました。


二人が見ている池の、すぐ近くには、それはそれは大きなドングリの木が一本、これまた大きな枝を伸ばして立っていました。

見ると、まだ夏なのに、もう葉が黄色くなってました・・・。


「久し振りに見たけど・・・・。やっぱり、大きなドングリの木だね」

ドングリの木を見ながら、キツネは言いました。


そうです、間違いなく、ここがヘビの言ってた『願い事が叶うドングリ池』なのでした。


それは、ここに着いて・・・・。

いや、ここに着く前の遠くからでも、ドングリの木の葉は黄色くなって、とても目立っていたので、二人は直ぐに「あれが願い事を叶えてくれるドングリの実がなる木だ」と、気付いてました。

ドングリの木は、まだ秋でも無いのに紅葉し、数え切れない程の実を、たくさんたくさん、枝一杯につけていました。

それはもう、ドングリの重さで、枝がたわんでしまう程です!


「これだけ実がなってれば、100個のドングリを池に投げ込むなんて、直ぐに終わりそうだね!」

リスは、それは、さも簡単といった感じで「クスス!」っと、笑いました。


しかし、キツネは「そんなことは無いよ」と言いました。


するとリスは「どうして?こんなにドングリがなってるのに。木の下には、100個ではきかない数のドングリがもう落ちてるじゃないか?」と、ちょっと怒ったように言いました。


キツネは「ヘビさんの話では、木の枝から『落ちたばかりのドングリ』を池に投げ込まないといけないからだよ」と、言ったので、リスはハッと驚いて「ああ!そうだったね!ヘビさんはそんなことを言ってたね・・・・」と、ちょっと申し訳なさそうにキツネにこたえたのでした。


「でも、あたりはとても静かだから、ドングリが落ちれば音でも分かるよ」

キツネはそう言って、湖畔の茂みに座り込み耳をピンっと立てました。

それは、もちろん、ドングリが茂みに落ちる音を聞き逃さないためでした。

キツネはとても耳が良いのです。

それで、気になる方へ、そばだてた耳をクルクルと向きを変えては、辺りの音を集め始めました。

するとポロリとドングリが枝がら自然に離れ、木の下の茂みにカサッと小さな音を立てて落ちました。

キツネはパッと立ち上がり、落ちたばかりのドングリを見つけ、それを口に咥えました。

それから呆気にとられたように見守るリスの前を通りすぎて、池に向かってピュッと首を降り、その勢いを使って、咥えていた実を口から放しました。

するとドングリはピュンッと弧を描いて空へと舞い上がっり、やがて小さな飛沫しぶきを上げながらポチャンと池の水に落ちました。

ドングリ実の皮の中には、いっぱいに実が入ってるらしく、水の中で、ゆっくりと転がるようにしてユルユルと沈んで行くのが二人には見えました・・・・。


二人は「オンボロ吊り橋が直りますように・・・」と、心の中で、お祈りしました。


するとキツネが「これで、一つめだ」と、静かに言いました。


「これはなかなか大変だね・・・。」

そんなキツネに、見ていたリスが言いました。


「なあに。これを後99回繰り返すだけだよ。なんてことも無いさ」

キツネはニッコリとリスに笑いかけました。


リスはまだ何もしてないのに、もう疲れてしましそうでした・・・・。


とにもかくにも。二人の『オンボロ吊り橋を直してほしい』という願い事は、たった今、始まったばかりなのでした。




それからしばらくすると、太陽はこの日で一番高い所を通ってました。


ポチャンッと、池から水音がします。

キツネが50個めのドングリを池に投げ込んだのです


「これで半分だ」

キツネは疲れたようすもなく言いました。


「お昼も食べて無いけど、どうしようか?」

キツネがドングリを拾い池に投げ込むようすを、一緒に数を数えながら見ていたリスがキツネに声をかけました。


「僕は少しぐらい食べなくても平気だよ。リスくんはお腹すいたのかい?」

キツネはリスに訪ねます。


「そうなんだ。もう、お腹ペコペコだよ」

リスは、毛におおわれた丸いお腹をさすりながら言いました。


するとキツネは「それだったら、先に落ちてるドングリなら食べても良いよ」と、リスに優しく言いました。


「え!?いいの!?」

リスは驚いて聞き返しました。


「もちろんだよ。始めから落ちてるドングリは、願い事には使えないからね・・・・。リスさんは、ずっと食べたかったのを我慢してたのかい?」

キツネがリスに訪ねます。


「そうなんだ。じつはここに着いた時から僕はこのドングリの実を食べたくて食べたくてしょうが無かったんだ・・・・だから、僕がドングリの実を咥えちゃうと、きっと食べてしまうと思ったから、ずっと見ていたのさ・・・。」

リスは照れくさそうに、そう言いました。


「ははは!そうだったんだね。僕の方こそごめんよ。ドングリの実なんて、僕は食べないものだから」

キツネはそう言ってニッコリと笑い、また落ちるドングリを待つために、茂みに座り込みました。


リスは喜んで落ちたドングリを広い集めてると、口の中にポンポンと3個も放り込み、左右の頬袋をイッパイにしました。

すると直ぐにタタタタタッ!と、ドングリの木に登り、口から出したドングリをカリカリと立派な前歯でかじり、皮をき始めたのでした。

それからリスは、ドングリの木の枝の上からキツネのようすを眺め、その実を食べながら一緒に数を数えることにしたのです。


しばらくすると、ドングリ池の辺りにも夕暮れが近づいていました。

太陽は少しの西に傾き、ドングリの木の影もグンッと長く伸びて、池の中を暗くしてしまいました。


暗くなった池の底には、キツネが投げ込んだドングリが、いくつも沈んでいました。


するとそこに、また一つ、ポチャンとドングリが投げ入れられました。


「これで99個めだ・・・。」

キツネはそう言うと、たった今、ドングリ池に自分が投げ込んだドングリが沈んでいくのをじっと眺めていました。


「やっと、あと一つで終わりだね。キツネさん!」

ドングリの木の枝からずっとキツネを見ていたリスが言いました。


「ふぅ~。うん、そうだね。思ったよりも長かったよ」

そう言ったキツネは、さすがに少し疲れてました。


するとすぐ、またドングリの実がポトリと草の上に落ちたのでした。


その実は、願い事を叶える為の、最後の一つです。 


キツネは迷わず、その実を取りに行きました。

これが最後の一つだと思うと、さっきまでの疲れもいっぺんに吹き飛んだようです。

キツネはスイスイとリズミカルに尻尾を揺らしながら歩いていき、パクリとドングリの実を咥えました。


そうして、いよいよ、願い事を叶える為の最後の一つを池に投げ込むために向きを変え、揚々と池のすぐそばへと向かいはじめました。



「助けてぇー!!!」


突然に甲高かんだかい声がしました!


枝にのってキツネの様子を覗き込んでいたリスは、びっくりして落っこちそうになりました。


キツネも思わず、咥えたドングリを落としそうになりました。


「助けてぇー!助けてぇー!!助けてぇー!!!」

叫びながら現れたのは、コマドリでした。


コマドリは羽ばたきながら、キツネとリスが見上げる空をぐるぐると飛び回り、大声で叫び続けてました。


「なんだい!なにがあったんだい!?コマドリさん!?」

木の枝で立ち上がったリスが、大声でコマドリに訊きました。


「たまごがぁー!たまごがぁー!!たまごがぁー!!!」

コマドリはまた大声で繰り返します。


「たまご・・・・?コマドリさんのたまごかい!?」

リスは少し考えてから、大声でコマドリに訊きました。


するとコマドリが、大声で言ったのです。

「ヘビにぃー!私のたまごが食べられてしまうー!!」


「ええ!?」

リスはびっくりしてしまいました。


二人の様子を黙って見上げて居たキツネも、びっくりして口を開いてしまいました。

すると、願い事を叶えるための最後の一つになるはずだったドングリの実は、ポトリと草の上に落ちてしまったのです。


「まだ、間に合うかもしれない!助けに行こう!リスさん!!」

キツネは枝の上のリスに言いました。


「わ・・わ・・・わかったよ!」

慌ててリスはそう言うと、尻尾の毛をフワッと立たせて、その尻尾をピンと張りました。

そして、ポンッと枝から飛び降りたのです。


キツネは、体と大きな尻尾で風を受けながらフワリと落ちてくるリスを背中で受け止めました。


「コマドリさん!僕らが行くよ!!」

キツネがコマドリを見上げ、叫びました。

リスはキツネの背中にしがみつきます。


「早く!こっち!こっちー!!」

コマドリは、キツネとリスを自分の巣まで連れていくために、低く飛びながら「はやく!もっと、はやく!!」と、叫んでいました。


キツネは疲れも忘れ、いっしょうけんめいにコマドリを追って走りました。でも空を飛ぶコマドリには、キツネの足はとても遅く感じられたのです・・・。



コマドリとキツネとリスが、川辺の木の上にあるコマドリの巣に着いた時には、巣の中に卵は一つも残ってませんでした。


そのかわり、その木の根もとには、ヘビが食べて吐き出したコマドリの卵の殻が落ちてました・・・。 



間に合わなかったのです。



コマドリは空になってしまった巣にとまり、じっと、バラバラに砕けたその殻を上から見つめて居ました。

きっと悲しすぎるのでしょう。

涙も流さず、なにも言いません・・・・・。

コマドリは、作り物のように動きませんでした。


キツネとリスも、コマドリの巣がある木の根もとに座り込み、ただじっとコマドリの卵の殻をながめて居ました。


辺りは、ただ静かに流れる川のサラサラという音だけが聞こえてました。


「もう・・・・どうでもよくなった・・・。」

突然、ポツリとコマドリが言いました

キツネとリスは、上から声がしたので、ハッと見上げました。

コマドリは、空からの明るい光で影の様になって見えました。


気づけばもう、木々の枝の間から見える空は、オレンジ色に染まっていたのです。


すると、キツネとリスに、ポツリと何かが落ちてきました。


二人は最初、それはコマドリの涙かと思いました。

でも、ちがってました。


雨が降ってきたのです。


「雨雲も無いのに・・・・雨が降ってきたね」

言ったのはリスでした。


「うん・・・。」と、キツネがこたえ、そして「きっと、強い風に雨が運ばれてきたんだよ」と、静かに付け加え、空気の匂いをクンクンとぎました。

キツネは雨の匂いを感じました。


すると突然「こんな森・・・・こんな森なんて!もう!!どうでもいい!!」と、コマドリが叫びました。


「なんてことを!この逆さ虹の森がどうでもいいって言うのかい!?」

コマドリの言葉にリスが言いました。


キツネはそんな二人に驚きました。


「そうさ!私のたまごを、私も誰も助けられなかった!!それなのに君らしか悲しんでもくれない!!こんな森もうたくさんだ!!」

コマドリはそう言うと、巣から二人を見下ろしました。


「なんて勝手なことを言うの!?みんなが吊り橋を直そうとするのを、いつもじゃましてばかりだったくせに!」

リスはそう言って怒りました。


「ヘビを来させないためじゃないか!」

コマドリが二人を睨み言いました。


「え?」

見上げる二人は驚きの声をあげました。


「ヘビが・・・ヘビが吊り橋に隠れて、南の森から渡って来れないようにしてたんだよ・・・・」

コマドリはそう言って、力なくうなだれました。

「でもアイツ・・・・今日は泳いで川を渡って来たんだ・・・・だから私は、大声で鳴いてヘビが巣に近づけないようにしながら、ずっと巣を離れなかったんだ」


キツネとリスは黙って今朝のことを思い出してました。


「でも・・・・アイツは、この巣には見向きもせずに、北の森の奥へと消えて行ったんだ・・・・」

辺りを重々しい空気が包むなかで、そう言ったコマドリは、さらに話を続けました。


「だから・・・・朝の食事をしようと、巣を離れたんだ・・・・でも、それから巣に戻ると、ヘビのヤツがもう巣の近くまで這い上がっていたんだ・・・。私は必死に追い払おうとしたよ。でも、私には翼と脚・・・それと小さなクチバシはあるけれど、爪の付いた前足や牙は無いからね・・・・だから、どうにもできないでヘビの回りを飛び回るしか無かったのさ・・・」


それはきっと、僕らがドングリ池に行ってる頃だろうと、キツネとリスは思ってました。


するとコマドリは、急に北の方を見上げ「そんな情けない私に、ヘビは言ったんだ。「誰か助けを呼ばないと、お前のだいじな卵を全部ぜんぶ食べてしまうぞ!」と・・・・そして「そうだ。今なら居場所を知ってるのが3人いるなぁ・・・一人はの森の丘に住むクマ。まあ、アイツは出てこないだろうけどな。そしてもう二人はキツネとリスだ。あの二人は今ごろきっとドングリ池に居ることだろうよ」と・・・・」と、最後の方は力なく言いました。



キツネとリスは言葉を失いました。



「私は直ぐにクマさんを呼びに行ったよ・・・・でも、クマさんは私の声が聞こえてるはずなのに、出てきてはくれなかった。それから私は、君らを呼びに行ったのさ・・・・。でも・・・・でも、なにもかも間に合わず・・・・私は私の卵を守れなかったよ!」

そう言ってコマドリは目を閉じて、じっとしました。


すると、ザァァ・・・・!っと雨が強く降ってきたのでした。


3人は黙って雨に打たれてました。


それは不思議な雨でした。

もう雨雲が近いはずなのに、辺りはちっとも暗くならないのです。

それどころか、なぜか太陽の日差しはより強くなったのです。 



「だから・・・・」

雨音に紛れたコマドリの声に、下に居る二人は見上げながら耳を傾けました。


「だからもう。こんな森はいらない!みんなみんな無くなればいいんだ!!」


耳が痛い・・・・と、そう、キツネとリスは思いました。

そして、いっそこの雨音が、コマドリの声をき消してくれてたら良かったのに・・・と、思いました。



その時でした。


いや。

その時が来たのです。



北の森の丘の空に、虹が掛かりました。


「ああ・・・・こんな日に、逆さ虹だなんて・・・!」

コマドリのその声に、キツネとリスは驚いて、北の方を見上げました。


すると、森の木々のすき間から、逆さまに掛かる大きな大きな・・・・それはそれは大きな虹が見えたのでした。


キツネは思わず口にしました。  

「なんてキレイで・・・・大きな虹だろう」


リスもキツネと一緒に地面から見上げて居ましたが、急いでコマドリの巣がある隣の木を駆け上がり、その木のてっぺんにのぼり虹を見ました。

そして「本当だ!こんな大きな虹、今まで一度も見たことない!!それに、逆さまだなんて!!」と、驚きの声を上げました。


すると、どうでしょう。

大きな虹の中心に、一筋の光が延びてきました。

その光は、金色に輝き、時間と共にまばゆい程になったのです。


「光の柱・・・いや、空へと続く道だろうか?ああ・・・・生まれてくるはずだった私のひな達にも、見せてやりたかった・・・」

コマドリはそう言って、逆さ虹を見つめて居ました。

その目には、自分でも気がつかない内に涙があふれ、頬を伝い流れてました。



いつもなら、もう薄暗くなっているはずの森は今、眩い光に照らされて、真昼よりも明るくなってました。



暴れん坊のアライグマも。


怖がりのクマも。


そしてあの、ひどいことをした食いしん坊のヘビさえも、この輝きに驚き空を見上げて居ました。



光の筋は、今や大きな大きな柱の様でした。

それが、逆さ虹の中心で輝きながら、少しずつのぼっていきました。

すると、逆さ虹もまた、空に向かって大きく曲がっていきました。



「ああ・・・あれはまるで、雨の弓に、光の矢がつがえるられたみたいだ・・・・」

キツネが震える声で言いました。

キツネは昔、人が弓を使う姿を見たことがあったのです。


キツネの言う通りでした。

それはまるで、空に浮かんだ、とても大きな弓に、矢が番えられたかのように見えたのです。


そんな近づけば遠ざかるはずの虹を、クマは直ぐ近くで見上げてました。


「こんな・・・・こんな不思議な虹は、はじめてだ!」

怖がりのクマは、逃げ出したいのに、じっと真上を見上げてました。 

それは、逆さ虹の美しさと、不気味さにすくみ上がってしまい、一歩も動けなくなってしまったからでした。



一瞬でした。

遠くから見た逆さ虹の中心から地上に掛けて、美しい『軌跡』が描かれたのは。



ズドォーン!!!


とてつもなく大きな音がしました!

それは逆さ虹の森から、ずっとずっと遠くにまで響き渡る大きな音です!


森が吹き飛んだのです!!!


小さな木も、大きな木も、永く1000年にわたり根を張ってきた老木も、なんの違いもなく簡単に吹き飛ばされて、燃え上がりました。


北の森の丘の上。

そのドングリ池に落ちたのは、森の皆が見上げて居た光の柱・・・・それが『光の矢』となって地上に向けて放たれたのでした。


何もかにもが、一瞬で焼かれながら吹き飛ばされました・・・。

痛いも怖いもありませんでした。


ゴウゴウと煙が立ち上り、辺りは真っ暗になりました・・・。




それから一日か過ぎ、舞い上がった煙が消え去ると、逆さ虹の森があった所にはもう、草木一本も残ってはいませんでした。


北の森も・・・・南の森も・・・もうりません。


そこは、どこまでも広がる赤土の世界でした。


そんな中に一つだけ盛り上がった場所がありました。

それはあの、願い事が叶うと言うドングリ池があった丘の場所でした。


ドングリの木は無くなってましたが、乾いた小さなくぼみが有りました。

それは、あのドングリ池でした。


乾き切った池の中には、黒く、炭になったドングリの実がいくつか見えました。

やがてそれは、吹き始めた風に飛ばされ、どこかへと消えていったのでした・・・・。





あれから、どれだけの時が流れたでしょうか。

あの日の吹き飛ばされた森は、今はただ荒涼こうりょうとした剥き出しの地面が続くばかりの様に見えました・・・。


でも・・・。


でもです。


違ってました!


よく見ると、吹きさらしのこの土地でも、強い風を避けられる岩陰には、小さな草が生え始めてました。

さらに、大きな石のそばや、水溜まりの回りにも草が生え、そして、花までも咲いてます。


日が高くなり始める頃には、花の蜜をさがすチョウチョも飛んで来ますし、そのチョウチョを捕まえようとしてるのか、岩と岩のすき間には、クモの巣があり、その中心ではクモが虫を待ち構えてました。



そうです!


『逆さ虹の森の物語』は、もう新しく始まってるのです!


ほら・・・・岩の近くに、小さな小さな木の芽がありまよ。


きっと・・・・きっと、あと100年もすれば、ここは林になるでしょう。

そうしてそのあと、もう200年もすれば、きっとここは昔のような大きな森に成ることでしょう。 

そうなれば、動物達も沢山この森に帰ってくるに違いありません。

きっと、昔の様な動物達の暮らしが、また繰り返されるはずです・・・。


暴れん坊のアライグマやクマや、お人好しのキツネと、いたずら好きのリス。


悲しい思いをしてしまった、歌上手のコマドリ・・・。


それにあの、食いしん坊のヘビさえも・・・。



きっと・・・きっと、もう少しすれば・・・。


あと300年もすれば、『逆さ虹の森』はまた、ここに生まれてることでしょう。





       おしまい



最後まで読んで頂きまして有難う御座いました。

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