前編
冬の童話2019応募作品。
始まりは、木々がまばらな林でした。
その後、1000年掛けて、林は大きな森になりました。
その森は『逆さ虹の森』と呼ばれていました。
それは、ずっとずっと昔に、この森の上に、それはそれは不思議な、大きな逆さまの虹が掛かったと言われているからでした。
そんな逆さ虹の森に住む動物たちが『オンボロ橋』と呼んでる吊り橋がありました。
その橋が秋の嵐の日に、本当にオンボロのボロになってしまってから、もう少しで3年が過ぎようとしていました。
今、季節は夏の始め。
雨が多くなり、やがて嵐が来る秋の季節はもう少し先ですが、泳いで川を渡れる季節は、もう少しで終わることでしょう。
川はけっこう大きいのです。
オンボロ橋は、森の真ん中を隔て、森を北と南に分ける川に掛けられた、たった一つの吊り橋だったので、森に住む動物達は、みんな困ってました。
それはやっぱり、分けられ二つになっている森を行き来するには、どうしても川を泳いで渡らなければ行けないからでした。
川を流れる水が少ない季節でも、それは、みんな不便だったので、橋が壊れてから今まで、森の動物達が集まっては、橋を直す為の話し合いが何度かありました。
でも、その話し合いは、いつも纏まることはありませんでした。
それは、みんなの仲に、実は一人だけ全く困ってない動物が居たからでした。
コマドリです。
コマドリには羽が有るので、どこへだって飛んで行けるので、橋なんて必要無かったのです。
それで、森のみんなが集まって「吊り橋を直そうよ」と話し合おうとすると、いつも一人、近くの枝に止まって、楽しげな歌を声高らかにさえずり、邪魔ばかりするのでした。
すると、わざわざ遠くから集まった動物たちは、すっかりと話し合う気持ちが無くなってしまい、結局は何も決められずに帰ってしまうのでした。
そうして何も決まらずに話し合いが終わると、いつもご機嫌だったのもコマドリでした。
そんな話し合いがあった今日も、食いしん坊のヘビは、その姿を憎らしく見上げていました。
そうして、南側の森に集まったこの日。
オンボロ橋を直す話し合いは、結局コマドリのせいで橋を直すことを決められませんでした。
集まった皆は、すっかりと疲れ、トボトボと帰り始めたのでした・・・。
「また何も決まらなかったな」
帰り道の途中で、食いしん坊のヘビが言いました。
「そうだね・・・。また何も決まらなかったねぇ」
お人好しのキツネが応えます。
「また何も決めなかったんだよ!」
暴れん坊のアライグマが、大きな声で怒鳴りました。
「しょうがないよ、あんなに楽しげな歌をずっと聴かされてたら、めんどくさい事はしたくなくなっちゃうからね」
いたずら好きのリスが、クスクスと笑いながら楽しげに言いました。
「それにしてもクマのやつ!」
アライグマが怒って言います。
「そうだね、また来なかったな」
ヘビが付け加えるように言いました。
するとキツネが「しょうが無いよ。クマさんは、とっても怖がりだからさ、きっと巣穴の近くからは、怖くて離れられないんだよ」と、北の森のにある丘の方を見ながら言いました。
そこは、クマさんが暮らしてる丘なのです。
「アイツは森のクマさんで無く、丘のクマさんだと思ってるんだろうさ」
ヘビは、嫌みを込めてそう言いました。
どうやらヘビも、いつまで経ってもオンボロ橋が直せないことを怒ってるようでした。
そうして、今回も何も決められなかった話し合いを終えた四人は、それぞれ自分の巣へと帰って行くのでしたが、蛇とアライグマは、川のこちら側だったので、行きも帰りも水に濡れることはありませんでした。
でも、キツネとリスは川を渡って北の森へと帰らなければなりませんでした。
「あーあ・・・・またずぶ濡れになっちゃうなぁ」
ついさっきまで陽気だったリスが、ちょっと憂鬱そうに言いました。
するとキツネが「うん。しかたないさ」と言ったあと「そうだ・・・。途中までは僕も一緒の帰り道だから、川を渡る時は僕がリスくんを頭にのせてあげるよ」と、リスに言ったので、リスはとても喜びました。
川を渡りきったあと、背中までずぶ濡れになったキツネに、リスはお礼を言って別れました。
それから何日か過ぎたある日の朝ことです。
北の森で暮らしていたキツネとリスは、馬の嘶きのような大きな鳴き声で目を覚ましました。
それはコマドリの鳴き声でした。
コマドリは、森を二つに隔てる川の近くの北側に住んでいましたが、そこから、だいぶ離れた北の森の奥の方まで、鳴き声が響いたのです。
驚いたキツネとリスは、まだ朝も早かったので眠って居たのですが、慌てて飛び起きました。
それから二人は、お互いの巣と巣との丁度真ん中ら辺にある『根っこ広場』へと向かいました。
ここにある木の根っこは、嘘を言うと、嘘を言った者を絡め取ってしまうと言われてる場所でしたが、二人は良くそこで会っては、遊んで居た場所なのです。
その二人がしていた遊びとは、話をするほうが根っこの中に体を潜らせて話をして、その話が終わった時に「今の話は本当だよ!」と言って遊ぶというものです。
聞いた方は「その話は本当かな?嘘かな?」と考えてから、そのどちらかだと答えるのです。
そうして、お互い代わり番こに話をして、当てっこをするのです。
そうして最後は、相手をより上手く騙せた方が、勝ちという遊びでした。
この時二人は、お互いを騙すために、時々ちょっとだけ嘘をつくことが有りました。
そうすると、木の根っこがほんの少しだけギュウッと体を締め付けるように感じることもありましたが、体が抜けなくなることはありませんでした。
でも、二人は、そのちょっと危ないドキドキが楽しくて、たまにそんなことをしては、楽しんでいたのです。
根っこ広場に先に着いたのは、お人好しのキツネでした。
キツネは、それはそれはコマドリのことが心配だったので、飛び起きてすぐに、駆け足で来たのです。
キツネが少し待つと、いたずら好きなリスも来ました。
飛び起きたはずのリスは、まだちょっと眠そうでした。
キツネはリスにたずねます。
「リスくん!なんだろうか?コマドリさんが大声で鳴いてるけど?」
するとリスは「そうだね。まえから時々聞く声だけど・・・今朝はいつもよりも大きな鳴き声だね」と、答えました。
「コマドリさんに、なにかあったのかも知れない。リスくん、一緒に行こう!」
そう言うキツネの言葉に、リスは少し面倒だと思いました。
それは、自分達が橋が壊れて困っているのに、ちっとも助けてくれないばかりか、いつも邪魔ばかりするコマドリのことだったからでした。
「コマドリさんは、羽があるから、なにかあったらきっと飛んで知らせてくれるさ」
リスは、そう答えて、ここまで走って疲れた体を休ませようと、近くに落ちていた小枝の上に、ちょこんっと座ってしまいました。
そんなリスの姿に、キツネは「リスくんが僕と一緒に行ってくれないとしても、僕は一人でも行くよ!」と言いました。
するとリスは「ええ・・・・!?そうなのかい?・・・じゃ・・・しょうがないなぁ」と言って、腰かけた小枝から、ポンっと立ち上がりました。
その時です。
「今日のコマドリは、歌の練習に忙しいな」と、突然、誰かの声がしました。
キツネとリスは驚いて、声のした方を見ました。
そこには、あの木の根っこの間から顔を出す、食いしん坊のヘビが居たのでした。
「ヘビくん!?おどかさないでくれよ・・・」
驚いたキツネが言いました。
「本当だよ。いつの間にそんなところに隠れていたんだい?」
驚いたリスが言いました。
するとヘビは「たった今だよ。僕は音もなく動けるからね。君らが気づかなかっただけさ」と言って、木の根っこの隙間の中で体をウネウネと、くねらせました。
「ヘビくんは、コマドリさんの大きな鳴き声が、歌の練習だって言うのかい?」
ヘビの言うことを変に思ったキツネは、ヘビに聞き返しました。
「そうだよ。僕は嘘を言わないさ。そのしょうこに、嘘を言ったら捕まるって言う、この木の根っこにだって、僕は捕まらない」
ヘビは楽しそうに木の根っこの中で踊るように身をくねらせています。
「ヘビくん!いつもに無く、楽しそうだね!」
イタズラな目で、リスは、ウネウネ動くヘビに言いました。
「ああ。今日はいい気分んで目が覚めたんだ」
ヘビは躍りながら、弾む声で答えます。
「はは!これは楽しい朝だ!」
踊るヘビを見ていたリスも、なんだが楽しくなってきました。
すると「ああ、そうだ。ところで、僕はオンボロ橋の話をしに来たんだ」と、ヘビは思い付いたように言いました。
「ああ・・・そうだね。もう少しでまた秋になっちゃうからね」
リスが答えます。
するとヘビは「そうだろう?みんな困ってるからね・・・。でも僕は、あの橋を簡単に直す方法を知ってるんだよ」と言いました。
「ええ?」キツネとリスは驚きました。
ヘビは言います。
「それはだね。この北の森の丘のてっぺんににある『願いがかなうドングリ池』に『落ちたばかりのドングリ』を100個投げ込んで、オンボロ橋を直して下さい!って願えば良いのさ」
ヘビの言うドングリ池がある丘は、怖がりのクマさんが暮らしている丘の上です。
「ドングリ?それも『落ちたばかりの実』だなんて・・・秋にはまだ早いのに、そんな実があるだろうか?」
首を傾げながら、キツネは言いました。
するとリスが「あそこは、小高いからね。いつもこの辺りでは一番先にドングリが実るんだよ。僕は、いつもならそろそろ食べに行く頃なんだ」と、楽しそうに答えました。
するとヘビが「そういう訳なんだ。あいにく僕には手も足も無いからね。ドングリを『投げ込む』なんて真似はできないのさ。だから君たちに代わりにやって欲しいんだ」と、ちょっと寂しそうに言うのでした。
「でも、願い事が叶うって話は聞いたことがあるけれど・・・そんな事で本当に吊り橋が直るのかな・・・?」
そう言ってキツネは、ヘビに申し訳なさそうにしながらも、またも首を傾げました。
すると「う~ん」と腕組みをして考えたリスでしたが、急にハッと何かを思い付いた顔をしたかと思うと、なにやら楽しそうにニヤニヤとして「どっちにしても、今度の秋までに僕らがあの橋を直すことはもう無いから、だめでもともと、やってみようよ!」と、キツネに言いうのでした。
この時、リスは思ったのです。
オンボロ橋が直る願いが叶っても叶わなくても、きっと自分の願いは今すぐ叶うだろうと・・・・。
なぜならそれは・・・・・。
『ドングリをお腹一杯になるまで食べたい!』ってことだったからです!
「そうだね!どっちにしても僕らで橋は直せないのだから、ドングリ池にお願いしてみようか?!」
お人好しのキツネは、そんな事とは気付かずに、ヘビとリスの言うことを聞いて、ドングリ池に行くことにしたのでした。
「おお!やってくれるのか!?それはいい!!」
ヘビも、木の根をグラグラと大きく揺らす様にしながら、ウネウネと激しく躍って喜びました。
そうしてキツネとリスの二人は、時々遠くから聞こえるコマドリの歌の練習を聴きながら、ドングリ池のある丘へと向かうことにしたのでした。
つづく
読んでくださって有難う御座いました。