相愛哀楽
いつの間に、意識が途切れたんだろう。
最後に見たのは、目を見開いて凍りつく君の顔。
手をいっぱいに伸ばした。重い足を引きずって帰ってきた。待っている人がいるから。
「ただいま」
そんな平凡なたった一言が言いたくて、言えなくて、手を伸ばして、でも、届かない、瞼が落ちる。嫌だ、嫌だ、嫌だ。
きっと向こうはこう叫んでいる。「行かないで」って。僕だって行きたくないよ。途中忘れたりして、全てをなくしかけて、それでも精一杯手繰り寄せた、唯一の君。だから、置いて行きたくなんか、ない。
でもね、体が全然言うことを聞いてくれないんだ。なんだか、頭が痛いのも遠退いていく。君の声も、触れる体温も、遠く、遠く、僕の意志に反して離れていく。やめて、やめてくれ。やっと取り戻せたのに。
でも気づけば真っ暗闇で、君がいた光の先なんて、もう跡形も見えないほどに遠くて。
どうしようもないくらいに僕は『終わり』だった。
せめて最期にもう少しくらい足掻かせてくれないか。
たった一言でいい、ちゃんと伝えさせて。それが遺していく人へのせめてもの懺悔だと、僕は思うんだ。
ねぇ?
唇を動かすのはもう、酷く難しかったけど、
届いたかな? 届いたよね? ──届いていてほしい。
「さよなら、愛しい人」




